第6話 夏季休暇
「うーん」
どうしたものかな。
昼食を友人のマリーと食堂でとりながら、考える。
「ちょっと、ソフィア」
魔獣の心臓があと285個必要で、残す期間は、二年と九ヶ月。
「ソフィアったら、」
本当に、間に合うのかしら。
いえ、間に合わせるのよ。
……それが、リッカルド様の幸せに繋がるんだから。
でも、このままのペースだと正直厳しい。
どうしたら――。
「わかったわ! 夏期休暇よ!」
自分の名案に思わずガッツポーズをする。
「夏期休暇がどうしたの?」
「うわぁ!?」
聞き間違えるはずのない、声に驚く。
振り向くと、やはりリッカルド様だった。
「驚かせてごめん。ずいぶんソフィア嬢が悩んでいるようだったから」
でも、すごい驚きぶりだったね、とリッカルド様が柔らかく微笑む。
リッカルド様は、あの夜中に出会った日以来、以前にも増して話しかけてくるようになった。
たぶん、リッカルド様は、自分を蔑ろにする人が心配なんだと思う。
それなら、なんで、そんなリッカルド様が心中を──?
そう思わないでもなかったけれど。
リッカルド様は自分の体と同じくらい、ううんそれ以上に心を蔑ろにできなかったのだ。
思い出すのは、あの死体のリッカルド様。
溺死とは思えないほど、穏やかな、顔をしていた。
「ええと……、夏期休暇が楽しみだなぁと思いまして」
「ソフィア嬢は、夏期休暇に、実家に帰るの?」
リッカルド様の言葉に首を振る。
「いいえ、帰らない予定です」
だって、魔獣の心臓集めがあるからね!
こんなめったにないチャンスを逃すはずがない。
「そうなんだ。僕も帰らないから、仲間だね」
……そうなんだ。意外だな。
でも、リッカルド様がいらっしゃるってことは、メリア様もかしらね。
しばらく、リッカルド様と他愛ないお話しをして、別れた。
「もう、マリー。リッカルド様が近くにいるときは教えてねっていったのに」
理由は回復魔法を使いすぎると、ミントのような独特な香りがするのだ。
その香りを誤魔化すために、香魔法を使っている。
でも、ずっと使うのは面倒なので、マリーにお願いしていたのだった。
よかった、たまたま香魔法をきってなくて。
「私は何度も伝えようとしたけれど、ソフィアが考え事をしてて気づかなかったんじゃない」
「気づかなかったわ、ごめんなさい」
素直に謝ると、マリーはそんなことより、と話を切り出した。
「大丈夫なの? 実家に戻らなくて」
「ええ。大丈夫」
私の実家は放任主義で、魔獣騎士科にいくことを決めた手紙を送ったときもあっさり、頑張りなさいと返ってきた。
帰らないことを伝えたところで、了承の返事が来るだけだろう。
「夏期休暇、楽しみね」
マリーの言葉に私も笑って頷いた。
◇
――さて、今日から夏期休暇だ。
『心臓集めは順調か?』
「順調じゃないの、わかっていて聞いてるでしょ」
悪魔が実体化して、私に話しかけてくる。
私がじとりと、悪魔をにらむと、悪魔は笑った。
『今日から、夏期休暇というやつなんだろう? 一日中、魔獣の森で狩ればそれなりの数が集まるのではないか?』
そう。この休みの間に何としてでも、魔獣を狩って、魔獣の心臓をたくさん手にいれるのだ。
「ええ。期待していて」
私がそういうと、満足したのか、悪魔は私のこぼれた髪を耳にかけ楽しそうに笑った。
『楽しみにしている』
◇
──その日の夜。
「やった、やったわ!」
なんと、今日は十個も魔獣の心臓を手にいれることができたのだった。
運が良かったのもあるけれど、遅れていたぶんを大分取り返せた。まぁ、ちょっと大型の魔物に足とかお腹とか噛まれたときは死ぬかと思ったけれど。
私は魔力量は馬鹿みたいにあるので、回復魔法を重ねがけすれば、あら不思議。治った。
早く、悪魔に渡そう。
私はスキップしそうになりながら、女子寮に戻ろうとして──。
「この、香りは何かな。ソフィア嬢」
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