第一の冬

第2話 初めての修行 前編

「もう疲れましたよ〜」


「弱音吐くなメニュー追加すんぞ!」


 僕は初めての修行に最初はワクワクしていた。どんな事をするんだろうと期待しまくっていたがいざ蓋を開けてみると地獄だった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「今日は修行すんぞ修行!」


「修行って…何するんですか?」


「そりゃあ色々だ。能力だったり肉体的なやつだったり、後はそうだなー。動体視力も鍛えといた方が良いかもな」


「それってどうやるんですか?」


 僕はこの時点で興味深々だった。ケルトさんと言えば筋トレしか脳にない人かと思っていたが能力の修行もしてくれるのかなんて。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 そう思って今。やってるのはビームを出す訓練と的に当てる訓練だ。もちろんただの的なんかじゃない。


「あれどうやって動いてるんですか?僕の目には本体が見えないですよ?」


「あれは別の世界から捕まえてきた虫だ。割とでけーだろ?当てやすいんだからさっさと当てろ」


「だから見えないんですって!」


 決してデカくないし、ビームより速い。どう訴えかけようと返ってくる言葉はいつもこれだ。


「いくらお前でも残像くらい見えるだろ?当てるまでここから出るのは禁止だからな!」


「うぐ〜…」

(それならちょっと休んで神力の回復しても…)


「も、ち、ろ、ん。神力切れでもないのに狙うの止めたら、分かるよな?」


「は、はい!」


 こんな感じで僕は最大級の地獄をかれこれ30分味わっている。逆に30分しか経ってないのが驚きだ。て言うか見えないくらいの速さで動く虫をどうやって捕まえたんだ…


(こいつ30分ビーム打ちっぱだよな。神力切れ起こす様子がねぇ。ビームの威力が低くて神力の消費が少ないのか、はたまたイリウスの神力の量が多いのか。そこはまぁ後だな。規則性は付けてるし、そろそろアドバイスくらいくれてやるか)


「おいイリウス!本体を当てようとすんな!残像は見えんだろ?残像の位置からある程度推測は出来るはずだ!そこを狙え!」


「残像の位置から推測…」


 僕は言われた通り推測して狙う。だが一向に当たる気配はしない。


「そんな当たらねーなら考え方変えてみろ。俺はそこから動かずにビームだけで当てろとは言ったが、ビームの方向は決めてねーぞ」


「だからこうするしか…あ」


 僕は残像の動きはある程度予測出来ている。残像は僕を中心に横にしか動かない。言わば円だ。確かに高さや速さは統一性が無いがこれなら。


「行きます!」


 そう言うと僕は神力を円周上に持っていき上向きにビームを放つ。そうするとそこの部分は千切れたように回れなくなる。方向転換をしようと止まったところを…


「そこ!」


 ビームは確かに虫に向かって打った。だが虫の方が速さは上。回れなくなった虫はどこか遠くに行ってしまった。


「うわ惜しいな。あのクソ虫どっか行きやがったし。ちょっと捕まえてくるから休憩してて良いぞ」


「うぐぅぅ…」


 僕は悔しい気持ちでいっぱいになった。作戦は良かったし成功もしてたと言っても過言じゃない。

 僕が顔を上げてケルトさんが向かった先を見ると虫の残像が見えた。だが虫の残像を追った先にすでに捕まえたケルトさんが居る。


「え、どうやって捕まえたんですか?」


「どうやってって…そりゃあ走って追いかけてだろ?」


「え、走ったんですか?て言うか追いかけてたのに残像すら見えなかったんですけど…」


「そりゃあそうだろ。こいつを捕まえるにはこいつ以上の速度で動かなきゃいけねーんだし」


 僕は改めて実感した、格が違うんだ。困惑している中、入り口からバクとトラさんが入ってくる。


「おーい、ちゃんとやってるかー?」


「差し入れだ」


「お二人とも!」


 トラさんがジュースや水、お菓子の入った袋を持ってくる。


「イリウス!おめーはまだやれ」


「えー!」


 ケルトさんは終わるまでダメと言う顔でペットボトルの水を飲み干す。


「イリウスの調子はどうだ?上手く出来ているのか?」


「さっき良い線行ったんですけどね。やっぱビームのスピードだったり反射神経が足りないみたいで」


「流石にいきなりあの虫は無理ではないか?縦にビームを打つという判断力だけでも充分な気がするが…」


「全然ダメっすよ!この世界にはもっとつえーやつがクソほどいます。そいつらに肩並べるくらいにはしねーと」


 そんな話をしながらイリウスの攻撃を見ているとあることを思う。


「あやつ、動きが不規則すぎんか?」


 虫はさっきと打って変わって色々な動きをするようになった。距離も、周り方も円とは程遠い。


「あんのクソ野郎、グルグル回ってろって言ったのに」


「イリウス!少し中止だ」


「え?何で?」


「ただのアクシデントだ」


 僕の修行を止め、僕に近付いて来たバクは少し考えて神器であるナイフを取り出す。何かするのかと怖くなって理由を聞こうとした。


「え、何で神器…」


 バクのナイフが僕の顔の真横を通り過ぎる。ナイフは岩に刺さり、虫を貫いていた。


「そんな者じゃ修行にならんだろう。我に当ててみろ」


「そんなこと出来ないよ!このビーム殺傷能力は低いけど当たったら火傷するよ!」


「我に当たる前提で話すな。さっきより的はでかいが。さっきより早いぞ?」


 バクが構え、修行が始まった。バクは残像が少ししか見えない速さで動く。その動きは確かに規則性があり、残像の大きさが変わっていない所を見ると、僕を中心に距離を全く変えていないんだろう。


「どうした?火傷させるんじゃなかったのか?それとも怖気付いたか?ならばこちらからも行くぞ」


「いたっ!」


 バクは手にナイフを持ち僕の体にほんの少しだけ切り傷を入れる。その傷からは血が出てこない。痛みだけ感じる変は感覚に僕は焦る。


(どうにかしないと、けどどうやって!?)


 僕は考える。けどいい案は思い浮かばない。一か八か、あれをやるしかない。

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