優等生な同級生の後輩ギャルが、ゲームをしに俺の部屋に入り浸っている件

白い彗星

第一章 後輩ギャルはウチでゲームをする

第1話 才色兼備の彼女の『妹』



 容姿端麗、成績優秀……しかし知性や才能、そして美しい容姿の両方を兼ね備えていることを表す四字熟語として、『才色兼備』というものがある。

 こんな言葉、生きていくうえで使うことなどないと思っていた。小説やテレビの中だけで見る言葉だと。


 ……だけど、高校に入学し、一人の女子生徒を目撃したことで、その考えは否定された。

 一目見た瞬間、思った。この人こそ、才色兼備という言葉を使うに相応しい人だ……と。


「お、おはよう神野木さん!」


「はい、おはようございます」


「おはようございます!」


「えぇ、おはようございます」


 ……彼女の名前は、神野木 千華かみのぎ ちか。登校中の彼女を前方に発見したが、生徒とすれ違う度に挨拶をされている。

 それに律儀に返しているのが、彼女だ。


 町を歩けば誰もが振り返る……と陳腐な言い方になってしまうが、少なくともこの学校内では彼女はそんな存在だ。

 それはもちろん、彼女が有名人だからだ。成績は学年一位。高校の入学式では、代表者の挨拶をしたほど。学年一位など、嫌でも注目される。


「あぁー、今日も神野木さん良いよなぁ」


「あぁ、一回でいいから抱きしめてみてぇ」


「いやむしろ抱きしめられたい!」


 さらに、彼女が注目を浴びるのは……その見た目によるところが大きいだろう。

 周囲での声が聞こえる。


 きれいな黒髪を後ろで縛り、ポニーテールにしている。スラリと手足が長く、表情も整っている。目元はタレ目で、どことなく保護欲を感じさせるが……同時に安心感も感じられる。


 性格も穏やかで、誰にでも優しい。とはいえ甘いわけではなく、特に自分に厳しいタイプでもある。

 ルールはしっかりと守るためか、スカート丈も膝下で校則をきっちり守っている。


「神野木さんと同じクラスとか、マジでラッキーだよな」


「それな。毎日目の保養になるぜ。見ろよあの顔とスタイルを」


「俺としては、もちっと胸が欲しいところだけどな」


「バッカ、本人の性格と同じで控えめなところがいいんだろうが」


 ……神野木さんと俺の接点といえば、せいぜいが同じクラスだということ。いや、クラスの中で隣の席だということだ。


 窓際一番後ろの席に、彼女は座っている。だから、彼女の隣は俺だけだ。

 なので俺に対して、嫉妬の視線が向けられることはよくある。本当面倒なことこの上ない。


 というか、俺にも聞こえる声量で話してたら、隣の席の神野木さんにも聞こえてしまうぞ男子バカ共……


「倉野くん、今日もよろしくね」


「! あ、おぅ……」


 別に、高校では下手に目立つつもりはなく、地味に生きていくつもりだった。

 だが、なんのいたずらか高校で一番有名な彼女の隣の席になった。しかも彼女は、その性格から俺にも毎日挨拶をしてくれるのだ。


 倉野 千蔭くらの ちかげ。それが俺の名前。"ちかげ"なんて名前、女みたいで俺は好きじゃない。

 そう思っていたのだが……



『くらの……ちかげ、くんだったよね。私、下の名前がちかだから……ふふ、"ちか"と"ちかげ"で、なんだか似てるね』



 ……隣の席になったその時間、彼女が笑うのを見て、俺はこの名前も悪くないなと思った。ひどく単純である。

 そんな彼女とは、二年も同じ教室で過ごしている。


 とまあ、平凡に過ごしたい俺は有名人の彼女とはあまり関わり合いになりたくない。

 それと同時に、ラッキーだと思う自分もいる。周りの男子じゃないが、隣にこんな美少女がいるのはとても目の保養になる。


 気のせいか、隣にいるといいにおいもするし……って、これはキモいな。


「……ま、学校以外で関わることもないか」


 隣の彼女を横目に、俺は当時そんなことを思っていた。

 いくら同じクラスで隣の席とはいえ、ただそれだけだ。何度か話す機会はあるだろうが、それも挨拶程度。


 しかも彼女は人気で、休憩時間になるとすぐに人が集まる。彼女の人柄が、人を集めてしまうのだ。

 こういうの、カリスマ性……って言うんだろうか。


 同級生だけど、高嶺の花……そんな存在だ。ずっとこの席なわけもないし、次に席替えがあれば彼女との数少ない繋がりも切れるだろう。

 そう、思っていた。



 ……そんな彼女の『妹』は、今……


「あー、また負けたぁ! もー、この盤面ムズすぎっす!」


「あー、難しいよなそこ」


 ……俺の部屋のベッドに座り、ゲーム機を手にゲームをしていた。

 持っているコントローラーは桃色で、床に座る俺は青色のコントローラーを手にしている。


 テレビの画面に映し出されるキャラクターを操作し、出てくる敵を倒したり罠を回避しながら、ステージをクリアしていくのだ。

 このゲームは協力プレイが可能で、俺と神野木さんの妹二人でこのステージに立ち向かっていたわけだが……


「ぐぬぬぅ……も、もう一回!」


 これがなんと、難しい。まだ序盤だと言うのに、ステージレベルの設定おかしいんじゃないか。


 いや、そもそもの問題だ。どうして俺と、神野木さんの妹が俺の部屋でゲームをしているのか。

 こんな姿、ちょっと前までは想像もしていなかった。


「そこっ、この……えいやっ」


 キャラクターを動かす度に、彼女の身体も揺れる。まるでキャラクターの動きに、自分を投影しているかのようだ。

 それだけじゃない。


「あっ、いったぁ!」


 キャラクターがダメージを受け、「痛い」と口にする。もちろん、ゲームキャラクターのダメージが生身の身体にそのまま降りかかるわけもない。


 ゲームに夢中になるあまり、身体は動くし声も出る。身体が動く度に、彼女のきれいな金色の髪も揺れる。

 姉とは真逆のショートカットで、しかし姉と同じくサラサラの髪だ。


 本人曰く日焼けしやすい体質らしく、日焼け対策をしていても油断すると黒くなってしまうのだとか。

 金髪に、見た目褐色の肌……偏見で申し訳ないが、見た目はどうしてもギャルだ。


「もー、悔しいっすー!」


 ……優等生であるクラスメイトの、妹。そんな彼女と部屋でゲームをしている。

 もはや慣れてしまったこの光景も、はじめの頃は当然困惑したものだ。

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