SSS級美人たちとフレンドになった件(仮)

夜空 星龍

第1話 クラスメイトのギャルがラブコメ好きだった件①

 俺―――織部晴翔おりべはるとの唯一と言っていい趣味がラブコメ小説を読むことだ。

 今日は大好きなラブコメ小説の最終巻が発売する日だった。

 

「ふぁ~ねむ」


 最終巻が発売するということで、俺は昨日、寝る間を惜しんでこれまでに刊行された全九巻を一気読みした。

 一巻読みだすと、ページを捲る手が止まらなくなり、気が付けば涙をボロボロと流しながら九巻目まで読み終えていた。

 

「マジで楽しみだな」


 最終巻を読むのが楽しみであると同時に寂しかった。

 何事にも始まりがあれば終わりがある。

 それは分かっているけど、永遠に続いてほしい、というのが全読者の気持ちだろう。

 少なくとも俺は永遠に続いてほしいと思っていた。

 これまで何度も同じ気持ちを味わってきたけど、何度味わっても慣れることはなかった。

 どんなラストになるんだろうかと想像しながら歩いていると本屋に到着した。

 ここの本屋は行きつけの本屋でラブコメコーナーの場所は把握済みだった。 

 早速、二階のラブコメコーナーに向かうと俺が買おうと思っていた『天使様はラブコメ好き(通称天ラブ)』の特設コーナーが出来ていた。

 

「さすがだな」

 

 それが天ラブがどれだけ人気作品なのかを物語っている。

 ところどころに書店員の感想POPが貼ってあったが、そのPOPを書いている店員が天ラブの大ファンだということが文章からヒシヒシと伝わってきた。

 お目当ての天ラブの最終巻はこれでもかというくらい山積みに置かれていた。 

 俺は読書用と観賞用と保存用の三冊を手に取った。

 無事に天ラブの最終巻を手に入れることが出来て、今日のミッションはとりあえずクリアだ。

 売り切れになる可能性を考えて一応特装版を予約しておいたけど、どうやらその必要はなさそうだった。

 特装版の方もまだかなり残っていた。


「完結するとかマジで悲しすぎるんですけど!」


 改めて書店員の感想POPを読んでいると、帽子を目深に被った、いかにもギャルみたいな服装(黒のノースリーブに穴あきジーパン)をした女性が特装版の天ラブを手に取って、抑え気味の声でそう言った。

 俺も同じ気持ちだと、俺は心の中で頷いた。

 見た目で判断して申し訳ないけど、いかにも読書なんてしなさそうな見た目をしている彼女ですら虜にしてしまう天ラブはやっぱり凄いと改めて思った。


「そう思いませんか!? そこの人!」


 いきなり声をかけられて俺は驚いた。

 まさか声をかけられるとは思っていなかったので完全に油断していた。


「そ、そうですね」


 だから、少し上擦った声で返事をしてしまった。

 

「ですよね! って、あれ? もしかして織部君?」

「えっ……」


 名前を呼ばれて、俺はさらに驚いた。

 さっきまで後姿だったので分からなかったけど、よく見てみると目の前にいるのは俺の知っている人物だった。

 

「私のこと分かる? 同じクラスの水樹。水樹沙羅だよ」

 

 親切丁寧に自己紹介をしてくれなくても、もちろん知っている。 

 同じクラスというのも、もちろんあるが、校内で彼女のことを知らない生徒はいないのではないだろうか。

 そのくらい水樹沙羅みずきさらという生徒の知名度は高かった。

 

「……どうも」


 同じクラスとはいえ、ろくに話したこともないので、俺はそっけない返事をした。


「やっぱりそうだよね。 え~まさか、こんなところで会うなんて奇遇だね~」

 

 そう言って水樹は俺の肩をポンポンと叩いた。

 ギャルみたいな服装をしていると思ったが、水樹は正真正銘のギャルだ。

 ほぼ話すのが初めての俺に対してもこの距離感の近さ。

 並みの男なら、これだけで水樹に恋に落ちているだろう。 

 水樹は俺の手の辺りをジーっと凝視していた。


「もしかしてだけどさ、織部君も天ラブ好きな感じ?」


 手に天ラブを三冊も持っているこの状況で、そんなことないです、なんて言っても説得力皆無なので、俺は正直にコクっと頷いた。


「マジで!?」


 水樹が満面の笑みを浮かべて一歩近づいてきた。

 その距離はあと一歩でも近づこうものなら、水樹のおっぱいが俺に当たってしまうほどだ。

 だから、俺は一歩後ろに下がった。


「マジで天ラブ好きなの!?」


 しかし、水樹は逃してくれなかった。

 水樹は俺が下がった分、近づいてきた。


「まぁ、はい」

「え~言ってよ~!」

 

 水樹が肘で俺の横腹を突いてきた。


「マジか~! 織部君、天ラブ好きだったのか~! 全然知らなかった~」


 そりゃあ、知ってるわけない。 

 俺が天ラブを好きな事、ラブコメ小説が好きな事は誰にも話していないのだから。

 学校で読む時は基本的にブックカバーをして、何の本を読んでいるのか分からないようにしているし、挿絵のページはなるべく教室では開かないようにしているから。


「言ってくれてばいいのに~!」

「いや、水樹さんが天ラブを好きだって俺、知らなかったですし」

「たしかに~!」


 水樹はケラケラと笑った。

 

「てか、三冊も買うなんてガチ勢過ぎでしょ!」

「悪いですか?」

「いや、最高! 私も三冊買う予定だったし!」

 

 そう言って水樹は普通版の方の天ラブを二冊手に取った。


「ねぇねぇ、織部君。この後、時間ある?」

「え、この後ですか? 家に帰って天ラブを読もうかなって思ってますけど」

「織部君の家に行っていい?」

「えっ……」


 いきなり何を言い出すんだこの人は。

 ほとんど話したこともない相手に、ましてや男相手に何を言ってるんだ。

 

「ここで会ったのも何かの縁ってことでさ、一緒に天ラブ読んで、そのまま感想会したいなって思ったんだけどダメかな?」

「いや、普通に考えてダメでしょ。それに一人で静かに集中して読みたいんで無理です」

「絶対に邪魔しないし、静かにするから! ね、お願い!」


 水樹がさらに一歩近づいてきて懇願してきた。

 

「どれだけお願いされてもダメなものはダメです」

「どうしてもダメ?」

「てか、それって俺が一人暮らしをしてる前提ですよね? 俺が実家暮らしだったらどうするんですか?」

「確かにそうじゃん。織部君って一人暮らし?」


 一人暮らしをしているけど、ここは嘘をつくことにした。


「残念ながら実家暮らしです」

「マジか~。じゃあ、私の家に来なよ。私、一人暮らししてるから。それならいいでしょ?」

「いや、だから……」


 俺の家に来るのか、水樹の家に行くのかの違いだけで、根本的なところは何も変わっていない。 

 そのことを水樹は分かっているのだろうか。

 

「水樹さん。自分の言ってること分かってますか? 俺が一人暮らしをしている水樹さんの家に行くってことは、密室空間で俺と二人っきりになるってことですよ?」

「それの何が問題なの?」


 何も問題がないというような顔で水樹が俺の事を見つめてきた。


「いや、問題大ありでしょ。俺が水樹さんのことを襲ったらどうするんですか?」

「ん~。まぁ、その時はその時かな~。織部君は二人っきりになったら私の事を襲うの?」

「いや、それは……」


 襲わないと言い切る自信はなかった。

 なぜなら、水樹は男子生徒たちが彼女にしたいと思うほどの美人だからだ。

 それこそ、ラブコメ小説のヒロインと言われても遜色ないほどだ。 

 そんな人物と二人っきりになるのに理性を保っていられるのか分からない。 

 もちろん襲うつもりは微塵もないし、家に行くつもりも微塵もないけど。


「天ラブの感想会をしてくれるなら、私の事襲ってもいいから! お願い!」


 でも、この感じだと水樹は諦めてくれそうにない感じがした。

 ラブコメ小説とかだとギャルは一度こうと決めたことを曲げないというのがあるあるだ。

 

「感想会をするのはいいんですけど、それって電話とかでもいいですよね?」

「電話だとラグあるじゃん! リアルタイムで感想会できた方がよくない?」

「まぁ、それはたしかに……」


 誰かと感想会というものをしたことがないから、なんとも言えないけど、水樹のいうことも一理あるような気がした。

 

「今回だけでいいから! 天ラブの最終巻だし、絶対に誰かと感想会したいって思ってたの! でも、私の周りに天ラブ読んでる人全然いなくてさ〜。諦めようと思ってたんだよね。でも、織部君が天ラブ読んでるって知っちゃったら諦め切れないよね〜。だから、お願い!」


 水樹は土下座でもしそうな勢いで俺に頭を下げた。

 

「はぁ〜。分かりましたよ。その代わり今回だけですからね」

「本当に!? いいの!?」

「はい」

「やったー! 嬉しすぎる!」


 子供のようにぴょんぴょんと飛び跳ねて喜びをあらわにした水樹。

 飛び跳ねるたびに服越しでも分かるほど大きなおっぱいが揺れていた。

 ノースリーブなんて着てるから、おっぱいの形がハッキリと分かり俺は視線のやり場に困った。

 

「ありがとう! マジで嬉しい!」


 水樹が俺の手を握って、ぶんぶんと上下に振った。


「じゃあ、会計済ませて私の家に行こう!」


 そのまま手を繋がれた状態で俺は水樹と一緒にレジに向かった。

 レジで特装版を受け取って、お金を支払うと、俺は水樹と一緒に本屋を後にした。


☆☆☆


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