探し物はなんですか!
@kuri-muburyure
第1話 遊びに行こうよ
ここはどこかにある、ありふれた街。そんな街にごくありふれた男の子がいました。彼の名前は啓介。休日を満喫しようとしているようです。
「宿題終わり!ユッキーのところに遊びに行こっかな。」
外に出るとちょっと変わった友達、雪之助が来ました。
彼はチャイムを鳴らさずに大きな声で言いました。
「けいちゃーん!遊びに行こうよ!」
啓介は二階の自分の部屋の窓を開けて、少し負けているくらいの声で返事をしたあと、階段を駆け下りました。
「おまたせ。」
「早く、早く!今日はね、やりたいことがあるんだ。じゃあ、いこう!」
そう言うやいなや、雪之助は向こうへと走り出そうとしました。
「え?どこへ!?」
「あれ?言ってなかったっけ?」
振り返って、たっぷり間を取ったあと、自信満々の顔で発表しました。
「今日の遊びの内容は…『あい』探しの冒険だ!」
「ええ〜、冒険だって?もう僕もユッキーもそんな年じゃないじゃん。」
「今日のは絶対面白いから〜!」
雪之助は小さな子供みたいに手足を大きく動かして駄々をこねました。
啓介は、しょうがないな。と言うみたいに小さくため息を一つ。彼はこの少し幼気な年上の幼馴染にいちょっぴり甘く、駄々をこねられるのに弱いのです。
「まぁ、行くのはいいとしてもさ。そもそも『あい』ってなに?」
「わかんない。」
「わかんないものを探そうとしてたの?」
えー、と啓介の口から責めてるともつかない声が出ました。
「うん。それでこそ冒険だよ。」
雪之助の目は好奇心で満ち満ちていました。
「ええ・・・ユッキーってあんまり年上って感じがしないね。」
「さすがに、ユキにも、それが褒めてないのはわかるよ!」
「ごめん。」
流石に言い過ぎたかな、そんな申し訳なさがうっすらと啓介の心に湧いてきましたが、当の雪之助は全く気にしていない様子。
「いいよ、アホなのは事実だし。で、早く行くよ!待ちきれないよ!」
そう言うなり、向こうへと走っていく雪之助に、啓介は慌てて声をかけました。
「えっ、どこにいくの!?」
「あ、言うの忘れてた。ごめんごめん。えっとね、昨日の国語の時間に漢字を勉強してたんだ。それで、愛の意味がわかんなくて漢字が覚えられなくて、だから…」
「あ〜、納得した。ユッキーは漢字の成り立ちとかから覚えるタイプだもんね。だから、なにが『あい』なのか知りたい、ってことでしょ?」
「そうそう。ということでGO!」
「ちょっ、えっ、待って〜!」
またまた走り出した雪之助を追って啓介は昼下がりの街へ飛び出しました。
「けいちゃんったら〜、遅いよ〜!」
ぜぇはぁ言いながらやっと追いついた啓介。雪之助の辞書には『待つ』という言葉はないようです。いつも、こんなふうに雪之助に振り回されても、不思議と啓介に怒りの感情が生まれることはありませんでした。なぜなら、雪之助が遊びに巻き込んできてくれた時は楽しくなって終わるからです。それは、雪之助が少し大人気なくて不遜であることを、些細なことに思わせました。
「もー、すぐに先走るんだから。ここは・・・ユッキーの家じゃん!?」
「そう!おーい、菊太郎ー!きくたろーう!」
「雪、うるさいのです!・・・あ。啓介さんじゃないですか。」
雪之助が玄関の扉から覗き込んで大声で呼ぶと、一階のリビングからまだ幼なげな男の子がやってきました。菊太郎と呼ばれたその少年は、歳の割に大人びた言葉遣いをしていました。
「菊太郎、久々だね。元気?」
「はい。いつもうちのおバカが、お世話になってます。迷惑とかかけられてないですか?」
「ひどーい!自分とけいちゃんはこんなに仲良しなのに。」
「ぼくだって圭介さんとは仲良いんですからね。呼び方は昔のように『菊くん』で、いいですよ。よそよそしいじゃないですか。」
二人とも不満そうに頬を膨らませたので、圭介はそっくりな兄弟だな。と思いました。でもそのことを言ったら菊太郎がぷりぷりと怒ることが目に見えていたので、スルーすることにしました。
「えーっと、そんなことよりここに来た理由は?」
「あ、言うの忘れてた!」
「今日それ何回目〜?」
「まだ三回目だからセーフ!スリーアウト!」
すかさず菊太郎が突っ込みました。
「それだと攻守交代ですよ」
「あ、そっか!じゃあスリーストライク!」
「どっちにしろアウトだよ。・・・じゃなくて!なんで冒険に誘ったのに、ユッキーの家に来たのか教えてよ!」
「それはね・・・菊太郎が目的です!」
「人さらいですか?」
菊太郎は、ちょっぴり嫌そうに身をよじらせました。いつものことなので、啓介はあまり気にしませんでした。
「あ〜、菊くんは賢いもんね。納得した。」
啓介は、『は』を強調して言いました。しかし、都合の悪い事は聞き流す、とても都合のいい耳をしている雪之助にはその言葉は届きませんでした。
「そうだよ!菊太郎は頭いいんだよー!と、いうわけで〜『あい』ってなんなのかおしえて〜」
雪之助の突拍子もなさには慣れている菊太郎でも流石に分からなかったのか、眉をちょっと寄せて聞き返しました。
「はい?急になんですか?」
「えっとねぇ…」
長くなりそうな雰囲気を感じ取って啓介はさっき雪之助に言われたことをかいつまんで説明しました。
「そういうことならもっと早くいえばいいのです。」
「まぁまぁ、菊くんなら知ってるんじゃないかと思って、先走り過ぎたんじゃない?」
「まぁ、いいですけど。それにしても『あい』ですか・・・ちょっとまっててください。」
何か思い出した菊太郎は家の中に戻って行きました。いきなり答え合わせかもしれないと、雪之助の顔は少し残念さが滲んでいるけれど、ワクワクの方が大きいようでした。
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