第4話 吉岡彩音
別の日の放課後。
チャイムが鳴り終わると同時に、俺はため息をついた。
「……あー、めんどくせ」
そう、今日は月に一度の「環境委員会」の日だった。
この高校では部活動とは違って、一人一つの委員会への所属が義務付けられている。
「ほらほら、武司。そんな顔しない。すぐ終わるよ」
横で朱里が、やけに明るい声を出す。
朱里は俺と同じ環境委員会に属しているのだが⋯
なんでこいつは、委員会ごときにそんなテンションを上げられるんだろう。
指定された教室に入ると、すでに何人か集まっていた。
その中に、ふわっとした雰囲気の女子が一人。
「――あ、紗倉さん!」
彼女は朱里を見つけてぱっと笑顔を見せた。
小柄で落ち着いた声。ぱっと見ただけで、人懐っこさが伝わってくる。
「彩音ちゃん! 一緒だったんだ〜」
朱里が駆け寄り、自然に会話を始める。
(彼女は、隣のクラスの吉岡さんかな?)
俺は違うクラスだったので知らないが、去年朱里と仲良くなったらしい。
「この前の文化祭準備のとき、朱里ちゃんにいろいろ助けてもらってね」
「えー、あれは彩音ちゃんが大変そうだったからつい口出ししちゃっただけだよ」
二人はそんな調子で笑い合っている。
その場の空気が一気に柔らかくなるのが分かった。
(なるほどな……。朱里ってあんだけクラスで好き勝手やってるのに、外じゃ普通に人気あるんだな)
俺は少し意外に思った。
委員会自体は、教室の美化やら備品点検の話であっさり終わった。
解散の声がかかると、朱里と彩音は並んで教室を出ていく。
「ねえ朱里ちゃん、帰り道一緒にどう?」
「うん、いいよ〜! ――あ、武司も帰るでしょ?」
突然名前を呼ばれ、俺は面食らう。
「……別に。まあ一緒でもいいけど」
結局、三人で昇降口まで歩くことになった。
「宮川くん、朱里ちゃんから話には聞いてるよ。幼馴染なんだって?」
「そう。いつも振り回されでばっかりだけどな」
「失礼な!いつも私に助けられているくせに〜」
なんて3人で話していると、
「紗倉さんって、すごい友達多いよね」
彩音が不意にそう言った。
朱里は「そうかな?」と首をかしげる。
「だってクラスの人だけじゃなくて、委員会でも色んな仲良くなれるじゃん。うらやましい」
確かに、朱里は今日、俺や吉岡さんだけでなく他の同級生や先輩と楽しそうに話していた。
「えへへ。私、人のこと気になるとつい声かけちゃうんだよね」
朱里は照れくさそうに笑った。
その横顔を見て、俺はまたため息をつく。
(こいつ……ほんと情報屋なんてやってるのに、なんで嫌われねーんだ?)
普通なら、噂ばっかり集めて売ってる奴なんて煙たがられるはずなのに。
むしろ、こうして自然と輪の中心に入っていく。
俺はそんな朱里が不思議で仕方なかった。
――
昇降口で靴を履き替えながら、彩音がふと俺に振り返った。
「宮川くんは、いつも朱里ちゃんと一緒なんだよね」
「まあ、幼馴染だからな」
「そっか。なんか、いいね。そういうの」
彩音はにこっと笑い、手を振って帰っていった。
残された俺は、朱里と並んで歩き出す。
「ねえ武司」
「ん」
「今日の彩音ちゃん、いい子だったでしょ?」
「まあな」
「でしょ〜! また一緒に帰ろうね!」
朱里はご機嫌な調子で足取りを軽くする。
俺はそんな様子を横目で見ながら、また心の中でつぶやいた。
(……こいつ、やっぱりよく分からん)
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ひとまず新キャラの登場回は終了です。ここから本格的に話を進めていきます!
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