第32話

「……一人でできる」

「だーめ、ただでさえ私のせいでリジェちゃん一人を危険な目に合わせちゃったんだから、これくらいさせてよね」

「それは、私が……勝手に……」

 現在リジェは七種と同じ部屋に、厳密には七種と同じ部屋にあるバスルームにいた。

 ホテルに帰ってきてからも未だに震えの収まらないリジェを連れて、自身の部屋に戻ってきた七種。

 血や砂埃に塗れたリジェを、半ば強制的にバスルームに連れ込んだのだ。


 こう見えてリジェは十四歳の少女。

 魔女としてのキャリアこそ七種とは比較にならないが、年齢は高校生の七種とそう大差ない。

 自分や他人の死に直面して、一切の動揺を消し去れる方がどうかしている。

「リジェちゃん細いねー、ちゃんと食べてるの?」

「普段は……パウチのゼリーとか、栄養補助食品を食べてる」

「え、ご飯とか食べないの……?」

「だって、それで足りるから」

「ダメだよ育ち盛りなのに! 身長伸びなくなっちゃうよ」


 ……半ば寿命の概念がない魔女にとって、育ち盛りなどと言う概念があるのかはともかく。

 頭を泡まみれにして、されるがまま七種に洗われているリジェ。


 それはリジェなりの気持ち。

 自分の身勝手な行動により、七種との共同調査と言う任務を満たせなかった上、自身の不始末を七種に助けてもらった借りを返すためだ。

 それはそれとして、

「……皆には秘密にして」

「ふぇ、なにを?」

「あぅ……だからっ」

「あ、おもらししてたこと?」

「っ……! ぜ、絶対に言わないで……!」

「分かってるよ、大丈夫だから。ほら流すよー」

「わぷっ……!」


 ​──ワイの強さは知ってるよな? 多分やけど、素質だけやったらあんたより上やで。格下や思わんと気ぃ引き締めていきや。


 ペネロペは確かにそう言っていた。

 あの時はまだ半信半疑。

 ペネロペに勝利したと言う事実でさえ、何かの間違いとさえ思っていた。


 しかし七種は現に、直前まで同じフロアにいるリジェを感知できなかったにも関わらず、ほんの数十分程度でその技術を物にしている。


 こと成長速度においては、確かに自分に勝っていると認めざるを得ない。

「んん……ぷぁ……」

「えーと、ボディソープは……」

「……七種」

「ん、なーに?」

「明日朝、現地の協力者と会うことになってる。……一緒に来るなら、好きにしてもいい」

「ほんと!? いく、私もついてくね!」

「ふん……寝坊したらおいてくから」


 ​──その日、イリアの元に一通のメッセージが届いた。

 一枚の写真が添付されたメッセージを見て、イリアの頬が思わず綻ぶ。

「なんだ、心配していたけれど……仲良くやっているじゃない」

 そこには七種の膝の上で大人しく髪を梳かされているリジェの姿があった。

「頑張りなさい、七種。新たな世代を担う魔女たちとともに」

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