第9話

「……出てきなよ。ななちゃんを反転世界に連れてったのあんたでしょ」

「────……いつから気づいてた?」

「消去法だよ、ななちゃんが来た時点でなんとなく察してた」

 アトリエ〈いりあ〉より少し離れた大通り。

 イリアとの待ち合わせ場所である最寄り駅からの帰路にて、エリスは一人の魔女を隠れ蓑より引きずり出した。


 それはアウターの中でも、もっとも付き合いの長い錬成の魔女だ。


 主に魔晶石を始めとして、一般的には換金の難しいものを一般で使える通貨に換金する、どこにいても重宝される役割を担っている。


 よってアウターでありながら、彼女はインナーの魔女からも信頼を寄せられている。

 数少ない中立寄りのアウターの一人だ。

「あの子があまりにも心配そうにしてたから、ついね。それでどうだった? アトリエの中は、ブローカーは」

「くす……思ったよりいいヤツだったよ。あれなら信用できる、ななちゃんの身を預ける相手としてはね」

「そっか……エリスがそう言うなら、ぼくも安心だよ」

「ねえ、協力してよ。情報を集めたいんだ」

「分かってる、 ぼくの人脈は多分……王権やブローカーすら比較にならない」

「流石だよ、錬成の魔女──殁江 エト」

 発光色の入り交じった短めの頭髪を後頭部でまとめたその姿。

 エリスの金色の瞳に映るその姿は、七種の親友の一人である殁江 エトその人だ。


 暗殺者としてアウターの底深くにいるエリスとは対照的に、エトはインナーとアウターの中間地点に位置し、裏から資金面を牛耳っている。


 二人はアウターにおける二大看板として相違ない。

 取り分け発言力と言う一点においては、エトの権力は絶大だ。


 エトがいなければ魔女の経済面の半数以上が麻痺すると言われているのだから、どんな魔女でもエトを敵に回したいと思う愚か者はいない。

「うちはうちなりのやり方でイリアに協力するよ。これ以上、やぁ〜な予感当たってもやだしねぇ」

「ぼくもななっちが望むのなら協力は惜しまない」

「ほぉ〜んとななちゃんって魔女に好かれるよねぇ」

「人柄だよ。魔女に関わらず、あの子には誰もが優しくしてあげたくなる」

「違いないね。うちら二人、あの子に心を救われた」


 ──君、ぼくと一緒にいるといじめられるよ?

 ──そしたら半分こしようよ、一人で悩まずに。ね?

 ──……変なやつ。物好きだね。


「じゃあねエリス、これから監獄とのアポがあるしもう行くよ」

「う〜ぃ、うちも家帰って寝るよ。ま、その前に腹ごしらえするけどー」

「また食べすぎないようにね。閲覧アクセス転移トランスファー──監獄塔グイズジェイル

 夜は更けていく。

 エトは監獄と呼ばれる魔女と会うために闇夜に消え、エリスはまた止む無き食欲に突き動かされ駅に向かう。

 それは止まっていた歯車が、ようやく動きだした音だった。

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