第二話 忍び寄る深い闇

「まずは作戦!私は何から情報集めればいい?」


 コクスケは尻尾を揺らし、少し考えてから


「まずは、アカウントが消えた子に『最後にスマホ見た時、何かいつもと違う事なかった?』って聞いてみて。

 アヤちゃんが調べてくれた情報と、他の消えたアカウントを照らし合わせると……共通点があると思うんだよね。」


「共通点?」


「そう、同時に数人起こるのは【きっかけ】がある。」


「すげー……賢いな!マジで私のかわりに期末テスト受けてくれー!特に現国と英語がやべー」


 アヤの切実な願いを無視。


「褒めてくれてありがとう!じゃあ、現実世界で情報を集めて、質問してくれれば、僕が少しずつ解析してヒントを出すから」


「期末テストの件キレーにスルーしたな!この畜生め!わぁったよ!レイナ達が言ってた、ミオ、サトシ、ユウ、リカ、マリナ、ミッチの誰か会えたやつに取り敢えず聞いてくる」


 アヤはスマホを握り直す。


---


 昼休み。アヤは弁当を早々に片付けると、噂にあがっていた面々へと足を向けた。


 まずは、教室の隅で気落ちしたように机に突っ伏しているミオ。


 SNS中毒と言われていたが、今はスマホすら取り出さずにじっとしている。お昼もいつもはうちらのメンバーと食べてるのに今日は食欲がないって席から動かなかった。


「ねぇ、ミオ。アカ消えたって聞いたんだけど、大丈夫?ちょい聞きたいことあんだけど?」


 声をかけると、ミオは顔を上げて小さく頷いた。


「ありがと、早速なんだけどさ最後にスマホ見た時、なんか変なことなかった?」


 ミオは少し考えてから口を開く


「……夜中にね、変な通知が来たの。送り主不明のやつ。開いたら……“こちらを見た”って表示されて、すぐ画面が真っ黒になって、そのままアプリが立ち上がらなくなったの……」


 アヤは心の中で「アイツの言う通りじゃん……つか、“こちらを見た”???ってなんだ?」と呟く。


「そっか……あのさ、ミオ。元気だしなね?アタシ、ミオのインスタすげー好き。だからさ!またスタバいこうぜ!可愛い写真撮ろう!」


 励ますつもりでグミを渡す。


「食欲ないかもだけどなんか食べなきゃ昼から持たないよ?このグミ食べなーうんまいから!アタシのイチオシだから!」


 ミオはやっとにっこりして「ありがとう、アヤ優しいね」と呟いてくれた。元気、出るといいな……。やっぱ友達が凹んでるのは辛い。


 廊下で友達と立ち話をしていたサトシを呼び止める。


「サトシ、アカ消えたってマジ?聞きたいことあってさー」


「よーアヤ、そそ!マジだよ消えた!試合の結果とか記録がてらポストしてたからさーショック」


 サトシはムードメーカーで話しやすい奴だ。


「マジかー。なんかアカ消える前変わったことなかったー?」

 

「変わったこと?あー昨日の夜中さ、寝落ちしかけてたときに急にスマホが震えて、変な表示が出たんだ。“こちらを見た”って……怖すぎだろ?で、んで翌朝にはログインできなくなってた」


 鳥肌が立った。ミオの時と同じ表示……もう1人聞いてみて同じだったら一回アイツに相談しよう。


 さらに別の被害者ユウにも確認する。


「オレも似たような感じ。夜遅くに通知来て、開いたら画面がぐにゃっと歪んでさ。“こっち見た”とかなんとか表示されてさ……怖くなってアプリ閉じたんだけど……翌朝にはアカ消えてた」


 三人の証言を並べると、アヤの頭の中に一本の線が繋がる。


 ──夜遅く。知らない通知。開いた途端、異常が起きる。


「……これ、お化けの仕業だよ!絶対!」


 アヤはポケットからスマホを取り出した。

 画面を開くと、待ち構えていたかのようにコクスケがぴょこんと現れる。


「おかえり、アヤちゃん! どうだった?」


「やっぱ共通点あったよ。“夜遅くに変な通知きてそれ開いた”ってパターン。んで“こちらを見た”って表示されて、そっからアカが消えてる」


 コクスケは尻尾をぱたぱたと振り、目を輝かせる。


「それだ! やっぱり“電脳層”に入り込むトリガーがその通知なんだ! 怪異が情報の隙間から侵入する、一番わかりやすい入口だよ!」


 アヤはぞわりと背筋を震わせつつも、ふと疑問を口にした。


「でもさ……アカ消えるだけって、今のとこ実害なくない?……まぁミオは大ダメージだったけど、なんでそんな地味嫌がらせみたいなことするんだろ。目的がわからん、怪奇現象ならもっと派手にやればいいじゃん」


 コクスケの顔が、一瞬だけ曇った。

 長い尻尾がぴたりと止まり、声が少し低くなる。


「……“消える”っていうのは、始まりにすぎないんだよ。アカウントを失うってことは……その人の一部を食べられてる、ってことなんだ。だってSNSって持ち主の思い出や感情の蓄積じゃない?」


 アヤは思わず息を呑んだ。


「……たしかに……でもさ一部って、それ本体に影響くるってこと?」


 コクスケのその瞳の奥には暗い光が揺らめいていた。


「さぁ……どうだろうね。まだはっきり何が起こるかは今はわからない。でも良いことではない。だから調べる価値があるんだよ、アヤちゃん!」


 昼間の廊下は喧噪に包まれているのに、スマホ越しに覗く世界だけが冷たい影を帯びているように思えた。

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