第17話 手紙

 午後の授業の際、俺の予想は的中し、椎名さんは教頭先生に案内されて俺たちの教室の後方で授業を見学していた。

 何度か椎名さんのほうを振り向いたが、そのたびに椎名さんは満面の笑みで小さく手を振っていた。そして、そのたびに俺は先生に注意されてしまった。


 他の教室の授業を見学することもできたとは思うけど、きっと本人の希望で俺たちのクラスの授業を見学していたのだろう。

 お陰で俺と奈月も普段は睡魔が襲いかかる午後の授業で一度も眠らなかった。これは、かなり凄いことだ。


「学校の授業で寝ないのは当たり前だ」なんて言う正論は言わないでくれよ?

 俺と奈月にとっては奇跡に近い出来事なのだから。


 とまあ、こんな感じで今日の授業は終えたわけだが、すべての授業が終わった後もまだ椎名さんは残ってくれていたので今日は一緒に帰ることにした。


「ごめん、待たせちゃったかな」

「ううん、さっきまで教頭先生から転入手続きに関する資料とか色々受け取ってたから、そこまで待ってないよ」

「そっか。それなら良かった。一緒に帰ろっか」

「うんっ!」


 こうして、俺たち三人は一緒に帰路につくことになったのだが、俺が靴箱から自分の靴を取ろうとしたとき、一枚の紙が靴に入っていることに気が付いた。

 手紙……なのだろうか。

 恐る恐るその紙を手に取る。


「まさか、ラブレターなんて言わないよね?」

「水野くんが他の女に取られるぅっ!!!」


 奈月と椎名さんはラブレターなのではないかと疑っているようだ。

 まさかそんなことはないよな、と思いながらその紙に書かれている内容を読む。

 どうやら、本当にラブレターではないようだ。


 だが、呼び出しの為の手紙ではあるようだ。


 そこに書かれていたのは、『明日の昼、屋上に来い』という一文。そして、その下のほうには、『康太』と名前が記されている。

 つまり、この手紙は、康太からの呼び出しの手紙というわけだ。


 今更、あいつが俺に何の用があるというのだ。

 最近はほとんど絡まなくなっていたのに。

 あまり気乗りはしないな。でも、呼び出しに応じなかったら何かしそうで怖いんだよな。


「大丈夫? 怖い顔してるよ」

「その手紙、なんだったの?」


 俺に対してきた手紙ではあるけど、康太の呼び出しの理由なんてこの二人に関わることに決まっている。

 となると、この手紙が誰からのものなのか二人に伝えても問題はないだろう。

何か危ないことが起きそうになったら、その時は俺が守るだけだ。


「これ、見て」


 手紙の内容を二人に見せる。

 その瞬間。二人の表情が少しだけ曇った。

 見たくもない名前だろうしな。俺と同じような気持ちになったのだろう。


「最近はあまり絡んでこなかったのにね」

「ショッピングモールでは私たちって気づかずに絡んできたことはあったけどね」


 二人は大きなため息をついていた。


「それで、海斗くんは明日の昼、行くの?」


 奈月が心配そうに聞いてくる。

 本音を言えば、あまり行きたくはない。けど、行った方がいいのだろう。


「一応、行くつもり」

「そっか。じゃあ、私もついて行く」

「あいつが何してくるか分からないんだよ? 奈月はついてこない方が良いんじゃないかな」

「ううん。きっと、私とか椎名さんに関係している事でしょ? だったら、私も行くよ」

「分かったよ。でも、康太が何かしてきそうになったらすぐに俺の後ろに隠れるんだよ?」

「分かった」


 奈月はついてくるらしい。

 何を言われるかも分かっていないから、本当は奈月には教室に残っていてほしいんだけど、奈月の言う通り奈月にも関係する話ではあると思う。だから、俺に強く止める権利はない。


 奈月に危険が及びそうになったら、俺が身を挺して守ろう。


「本当は私も行きたいけど、私は明日は来れないから。ごめん」


 椎名さんは申し訳なさそうに頭を下げた。

 本来は俺一人で行くはずだったのだから、椎名さんが申し訳なく感じる必要は全くない。


「大丈夫だよ。本来は俺だけで行くつもりだったし、気にしないで」

「ありがとう。二人とも、気を付けるんだよ?」

「「うん」」


 椎名さんが本気で心配しているのが伝わってくる。

 少しだけ体が震えているような気がするし。

 嫌な記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。


「よし、とりあえず帰ろう」

「うん……そうだねっ」


 空気が暗くなり始めていたので、とりあえずこの件のことはもう話さずに今日は帰路についた。


「あ、二人に紹介したい子がいるんだけど、私の家まで来てもらってもいい?」


 椎名さんが突然、そんなことを言い始めた。

 紹介したい子?

 それで、椎名さんの家?


 ――学校を出てから十分ほどで椎名さんの家に辿り着いた。


「ただいま~」

「「お邪魔します」」


 椎名さんに連れられ、家の中に入る。


「今、呼んでくるからちょっとここで休みながら待ってて」

「「う、うん」」


 俺と奈月は少しだけ緊張していた。

 奈月は、俺の家にいるときは全く緊張しないのに、他の人に家だと緊張するみたいだ。


 リビングのソファで椎名さんを待っていると、すぐに椎名さんは戻ってきた。

 椎名さんに似て可愛らしい容姿をした少女。


 黒髪の椎名さんとは違って派手な金髪を腰まで伸ばしている。

 キラキラしたピアスも何個か付けている。

 見た目から感じる雰囲気こそ違うけど、顔はなんとなく椎名さんに似ているような気がする。つまり、何が言いたいかというと、この子も美人だってこと。


「紹介するね。この子、私の妹なの」


 椎名さんが連れてきたのは、椎名さんの妹だった。

 そりゃ、顔が似ているように感じるわけだ。



 

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