高いプライドを犬飼さんにへし折られた俺はペットになる。
夕日ゆうや
第1話 プロローグ
「さ。ちんちん」
「はっ。やるかよ」
俺は強がって見せるが、
それはわかりきっている。
プライドが高いだけの俺では、本気の完璧美少女には敵わない。
それは分かっている。
だが、それでも俺のなけなしのプライドは守りたい。
俺はあいつを好きになるわけがない。
恋愛なんて弱者のすることだ。
俺は独りだって生きていける。
寂しがったり、群れないといられないような弱者とは違うんだ。
俺は俺の能力を評価する奴としかつるまない。
ペットのように従わせようとする犬飼。
そんなのは認められない。
「あら。
この犬飼
確かに俺は犬飼に弱味を握られている。
俺が必死に隠した失敗談を知っているのだ。
秘密の共有。
それが俺と犬飼をつなぐ唯一の関係性。
唯一のつながりだ。
「そう。じゃあ、SNSで――」
「待った!」
苛立った様子の犬飼は俺を脅し始める。
俺の情報を知っているのが悪い。
ざわつく教室。
同級生らが見ている中で、俺が犬飼の命令を聞く?
「くそ。あとで覚えていやがれ」
俺は犬飼の言う通り、ちんちんをする。
「ふふ。かーわいい♡」
く、屈辱的だ。
俺はこんな茶番に付き合いたくないが、しかし何故か高揚感を感じている自分がいる。
それがかえって俺の羞恥心をかき立てている。
だが、それを見ていた犬飼はさらに嗜虐的な笑みを浮かべていた。
きっと俺の恥じらう姿を見てテンションが上がっているのだろう。
このメスガキめ。
俺の大っ嫌いなジャンルのメスだ。
この状況を回避するにはやはり告白する以外ないのか?
唇の端を噛みしめ、ちんちんをする。
「ふふ。あーなんて幸せなじ・か・ん♡」
目がイっているのだが、本当にこいつ大丈夫か?
ちゃんとした人間だよな?
俺の疑問を吹き飛ばすように俺にそのおみ足を伸ばしてくる。
白磁のように白い肌。すべすべしていそうな長い足。
こいつ背が高いだけあって足も長いのか。
白いソックスの履いた足がこちらの腹に伸びてくる。
「さ。ソックスを脱がせなさい」
「は?」
俺は思わず間の抜けた声を上げる。
「は・や・く♡」
犬飼の瞳にハートマークが浮かんでいるような気がする。
なんだ。こいつ。頭おかしいんじゃないか。
ソックスを脱がせる。そんなの並の男子高校生なら舞い上がり、すぐさま脱がすだろう。その性的嗜好によって。
だが俺は違う。
俺はそんじょそこらの男子高校生ではない。
女子高生のソックスを脱がすなど、言語道断。
そんな変態染みた行為をするはずがない。
プライドが高いと汚名を着せられてでも、そのような低俗な行為を快く思うわけがないだろ。
「俺はそんなことはしない」
「あら。あなた、自分の立場を理解して?」
「くっ。また命令か……」
「ご主人様の命令を聞くのがペットでしょう?」
誰がご主人様だよ。誰が。
それに俺はお前のペットになったつもりはない。
ありえない話だ。
だがこいつは俺の弱味を握っている。
これ以上は逆らえないか。
「くそ野郎め」
「それはノーととらえていいのかしら?」
「……分かった。脱がせればいいんだな?」
「ええ」
犬飼が再び嗜虐的な笑みを浮かべる。
俺ははーっと息を吐き、ソックスに手を伸ばす。
その柔肌にあまり触れないようにして、太ももからソックスをつまむ。
「そんなんじゃ、脱がせられないわよ?」
「ちっ」
やっぱり太ももに触れる以外ないのか。
俺は膂力を込めてソックスの端をつかみ、スルスルと降ろしていく。
太ももに手が触れているが、気にしてはいけない。
俺の俺は元気になりそうだ。
くっ。堪えろ。
ここで元気になったら、それこそ俺のプライドが許さない。
クラスメイトたちの前で俺のアレがバーストするなんて絶対にあっちゃいけない。
そんな低俗に落ちたつもりはない。
俺は神に近しい存在なのだ。
他の奴らにも見せつけなくてはいけない。
俺がこんな奴に負けるはずがない。
ソックスを脱がせ終わると、ホッと一息吐く。
「あらあら。素敵ね」
犬飼はまたもや戯言を言っているが、俺はジト目を向ける。
「ふふ。じゃあ、この足を舐めなさい」
「何を言っているんだ?」
「はや~く~」
こいつ。やっぱり頭おかしい。
変態じゃないだろうか。
普通自分の足を舐めさせるなんて、恋人同士でもしないだろ。
そんなのわかりきっているじゃないか。
やっぱり犬飼はおかしい。
頭のネジが飛んでいる。
どうしたらそんな発想が出てくるのか、分からない。
メスガキを通り越して、エロメスだ。
男子高校生ですら思いつかないようなエロネタを使う辺り、変態でしかない。
一ミリでも普通と疑った俺がバカだった。
こいつは紛れもない変態だ。
常人じゃない。
こんな奴に俺は屈辱を与えられるのか?
いや、俺だってこいつに負けたくない。
なんとかしてこの状況を打破しなくてはならない。
「俺は変態じゃない。足を舐めるなどできるものか」
「ふふ。あなたはだんだん舐めたくなるわよ」
変態の発想はぶっ飛んでいるな。
「さ。舐めなさい。じゃないと、光二の黒歴史を公開するわよ?」
「くっ。貴様に弱味を握られるとはな」
これでいい。
俺はこいつに弱味を握られていると、クラスメイトが聞いた。それも大多数だ。
これで俺が何をしようと俺が変態に落ちたと勘違いする者はいない。
そっとソックスを脱ぎ捨てたばかりの生足に触れる。
シミ一つない綺麗な柔肌に口を近づける。
「ちょっと。鼻息荒くしないで!」
急に犬飼が身じろぎする。
若干、頬が赤い気がする。
「やっぱりなし! なしだから!」
犬飼は足をバタバタさせる。
「だが、舐めろと言ったのはお前だろ?」
「いいって言っているでしょう!?」
顔面に犬飼の蹴りが飛んでくる。
俺はなんとかかわす――が、後ろにいた女子生徒の胸に顔から倒れ込む。
「きゃっ」
そのまま倒れ、俺はその女子生徒の身体を抱きしめる形で倒れてしまった。
「あらあら。大丈夫?
眼久と呼ばれた女の子が恥ずかしそうに顔を上げる。
俺が押し倒した女子生徒だ。
「……あぅ。胸、揉まれた……」
俺は慌てて手をどける。
どうやら眼久さんの胸を触ってしまったらしい。
「す、すまん。俺が悪かった」
「……だい、じょうぶ……」
蚊も驚くほどの消え入りそうな声で呟く眼久さん。
「なんて?」
俺は思わず聞き返し、耳を近づける。
「……な、なんでもない……」
その頬は驚くほど紅潮していた。
シャイな性格なのだろうか。
今は目線すら合わせてくれない。
それにどこか遠慮がちな言動をしている。
若干幼く見えるが、俺たちの教室にいるということは、恐らく同い年だろう。
まるで小動物のような雰囲気を持っている。
これは男を何人も泣かせているな、という確信めいたものを感じた。
「あら? あなたのご主人はわたしでなくて?」
ごごごという音でも立てていそうな犬飼が、俺を睨めつけてくる。
くっ。やっぱりこいつには逆らえないのか。
あの日、あの時、俺がこいつにさえ頼らなければ主従関係など生まれなかったというのに。
六月のジメジメした空気の中、俺はひとり脳内反省会を開いていた。
もう犬飼を止められる方法が分からない。
なんであの五月の連休で俺は犬飼と出会ってしまったのか。
今ではすっかりこいつの言いなりになってしまった。
後悔してもしきれない。
まさに人生の汚点。
俺が守ってきたプライドはかくももろいのか。
少し、時は
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