確鳴浪漫〈カクメイロマン〉

はっけよいのこっ太郎

浪漫派は行く。

浪漫非行

2XXX年——


AIとテクノロジーが異常な進化を遂げた結果、

人類は“矯正”された。


すべての人間は、腕時計型のデバイス――

その名も《アプセル》を身に着けることを義務づけられた。


アプセルは、人体から発せられる微弱な電波で起動し、

あらゆる判断や管理を代行してくれる“第二の脳”だ。


学校のクラス、就職先、友達、恋人――

すべてAIが“最適な相手”を自動で選んでくれるから、

いじめも、失恋も、人の心を傷つけるような出来事はなくなった。


……らしい。


お見合い? 合コン? ナンパ? 一目惚れ?

そんなの今じゃ、全部「非効率」とされて廃れちまった。


娯楽やラブコメ作品も、とうに淘汰され、

いまやコンテンツすらもAIが生成。

トレンドも流行も完璧に計算された、“ファスト文化”だらけの世界。


そうして気づけば、

「アーティスト」と呼ばれた人たちは、この世界から消えた。


でも、それでも――

“人間の手で作られた作品”を愛する者たちは、確かに存在した。


人は彼らを、こう呼ぶ。


浪漫派(ろまんは)。


これは、そんな管理された世界で、

“本当の愛”を求め続ける――


年齢=彼女いない歴の男子が、

“運命の出会い”を見つけてしまう、

ちょっと不器用で、ちょっとドラマチックな……俺の物語だ!!!



7月某日、40度越えが当たり前になった夏だったがAIの進化により世界気候は調整出来ようになっていた。


「おーい!ロジー!」


俺の名前は虎呂 踊留ココロ オドル

AIから“友達も恋人も不要”と判断され、見事に見捨てられた男である。


……いやいや、不要ってなんだよ!?

むしろ俺みたいな奴こそ、誰かに助けてほしいだろ!


今いるここは、俺たち“浪漫派”、つまりアンチ・アプセルの拠点。

知り合いの先輩から譲り受けた、元・バーの店内を改装して使っている。


「どうした?」


この、ちょっとひ弱そうな男子が、俺の相棒――

**手狗野 ロジー《テクノ ロジー》**だ。

小学生の頃からの付き合いで、

プログラムやハッキングなら右に出る者はいない超絶技術系男子。

俺たちの活動にとって、なくてはならない大事な仲間だ。


「ついに手に入れたぜ! この雑誌!!」


俺が掲げたのは、一冊の年季の入った雑誌。

この基地には、過去の偉人たちが残した漫画、ゲーム、雑誌……浪漫の結晶が詰まっている。


「おっ! まさか……“アニメの歴史2025年”!?

ずっと探してたやつじゃん! どこで手に入れたの!?」


「アプセルに侵入されると即通報されるっていう、隣町の廃図書館があってな。

そこに、ロジーのハッキングで位置情報をずらして……無理やり侵入してきたってわけよ!」


「えっ、マジでやったの……!?」


「当たり前だろ? それが“浪漫派”ってもんよ!」


トントントトトンッ!


そのとき、扉をノックする音が鳴った。


「合言葉どーぞ〜」


『アイラブユーAI!!』


このノックのリズムと合言葉が、この基地への入室条件。

監視カメラや顔認証は、今の時代じゃ簡単に誤魔化せる。

だからこそ、俺たちはあえて“アナログ”な方法にこだわってる。


「部長〜〜!! お疲れ様ですっ!」


「失礼します」


元気よく入ってきた短髪の女の子が、相葉 あいば あい

明るく誰とでも仲良くできる、ムードメーカー的存在。


そのあとに続いたのが、黒髪ストレートの清楚系女子、櫻井 さくらい さくら

相葉の親友で、2人そろってアンチ・アプセルの新メンバーだ。


「おお、やっと来たか! てか、愛。だからここは部活じゃねぇっての!」


「いいじゃないですか〜。虎呂先輩って、なんか部長って感じするんですよね!」


「2人とも、よく来たね」


「手狗野先輩もお疲れ様ですっ! 今日はお二人だけですか?」


「――私もいる」


静かにそう言ったのは、丸眼鏡にロングの黒髪。

無口でミステリアスな文学少女、琴乃葉 ことのは しおり

見た目だけで勧誘したんだけど、「本が読めるなら」とアンチ・アプセルに加わってくれた。


これが、今の俺たち“浪漫派”のメンバー――

反AI、アンチ・アプセルの秘密組織だ。



そして、俺たちが通う学校の名前は――


国立未来S学園こくりつみらいエスがくえん

通称:未来S学(エスがく)


この世界では「統一教育法」によって、

全国すべての学校が「未来S学園」という名称に統一された。


小学校も、中学校も、高校も、すべてがS学。


場所や建物は違っても、カリキュラムやルールは完全にAIが管理している。


生徒は入学時にアプセルによってスコアを算出され、

学力・運動・協調性・感情制御力などのデータをもとに、

A〜Eのクラスに自動で振り分けられる。

• Aクラス:未来を担うエリート候補

• B〜Dクラス:安定した“優良市民”候補

• Eクラス:可能性“再評価”対象(=落ちこぼれ扱い)


表向きのスローガンは、こうだ。


「全人類、平等である」


……いや、どこがだよ。

そんな疑問こそが、俺の原動力になっている。


そんな俺達は高校生なのである。


俺とロジーはEクラス。

後輩2人はBクラス、

そして栞さんのクラスは不明だけど……バラバラの立場でも、俺たちは“仲間”だ。


「見ろよ!これがさっき手に入れた雑誌だ。“アニメの歴史2025年”!」


「す、すごいです……。私、この時代の作品、好きなんです」


「部長、また悪さしたんですか〜?」


「当然だろ〜? それが俺の浪漫ってやつだ!」


トントントトトンッ!


――と、またしても扉がノックされた。


「あれ、誰だ?」


「踊留先輩、また誰か勧誘したんですか?」


「いや、してねぇって! みんなは?」


全員、首を横に振る。


『アイラブユーAI!!』


……合言葉も、完璧。


「とりあえず……開けてみるか?」


「えっ、部長マジっすか!?」


「とりあえず、みんな隠れろ。俺とロジーで出る」


「え、俺も行くの!?」


妙な胸騒ぎがする。

これは、ただのノックじゃない気がした。


――続く。

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