第20話 敗戦の夜

甲子園準決勝。和哉の一振りで試合は終わった。


スコアボードに「3―2」と刻まれた数字が、俺たちの夏の終わりを告げている。


ベンチに戻った瞬間、仲間たちは一斉に崩れ落ちた。グラブで顔を覆い泣き叫ぶ者、呆然と立ち尽くす者。三年生の先輩たちは、声を震わせながら互いに肩を抱き合っていた。


俺も胸が張り裂けそうだった。あと一歩、あと一本。勇気と二人で必死に作った得点も、和哉の豪快なサヨナラ弾に掻き消された。


――また届かなかった。


「……すまん」


勇気が隣で声を絞り出した。涙で頬を濡らし、拳を握り締めている。


「俺が最後、もっと走れていれば……」


「違う。お前がいたからここまで戦えたんだ」


俺は勇気の肩を掴み、必死に言葉を紡いだ。だが胸の奥に渦巻く悔しさは、どうしても誤魔化せなかった。



試合後、ロッカールームには沈黙が広がっていた。


三年生たちは一人、また一人とユニフォームを脱ぎ、最後にその背番号をじっと見つめる。


「これで引退か……」


誰かが漏らした声が、俺の心をさらに締め付けた。


そんな空気の中、監督が立ち上がった。


「悔しいな。俺も悔しい。だが――お前たちの時代はこれからだ」


その声は震えていたが、確かな力を宿していた。


「この負けを忘れるな。必ず次につなげろ。お前たちならできる」


沈黙していた部屋に、その言葉が静かに染み込んでいった。


夜、寮に戻ったあとも眠れなかった。布団の中で天井を見つめ、和哉のホームランを何度も思い出す。あの打球音、あの歓声。


――俺はまだ、あいつに勝てないのか。


「太陽……起きてるか?」


勇気の小さな声が隣のベッドから届く。


「ああ」


「次こそは、絶対勝とうな。俺たちで、和哉を倒すんだ」


勇気の声は涙混じりだったが、強い決意が込められていた。


俺は迷わず答えた。


「当たり前だ。ここからが、俺たちの本当の野球人生だ」


その言葉と共に、心の奥で炎が再び燃え上がるのを感じた。


敗戦の夜。


俺たちは悔しさを抱きながら、必ず立ち上がると誓った。

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