6日目、サプライズケーキと結婚報告
「うわ~~~~」
「すげぇな」
夕飯は予想以上にすんごいご馳走だった。
兼松さんがご飯推してたの納得。
「海の幸!」
「山の幸!」
「酒の幸!」
「お腹減った!」
お刺身舟盛り!肉の握り!天ぷら!なんかわからん小鉢!
「「「「いっただきまーーす」」」」
最後の晩餐
「なんかあっという間だったわね」
「ホント~」
「現実を頭の片隅で考えてる自分が嫌」
「帰ったらダイエット」
最終日だもんな。
現実がちらつく。
楽しかったな~
「何風呂行った?」
「岩」
「ユイあとで露天行ってみようよ」
「行く!」
「最終日の女子会」
「じゃあ一緒に寝…!」
一之瀬さんが首を振る。
「ないですよね」
は?!
元彼が睨んでる…
酷い
あんなに私のこと好きだったくせになにその顔そんな顔するなんて今夜は甘い言葉囁いて愛を確かめ合うのよねわかってる邪魔はしないわよ邪魔はしなから
「その代わりウニもらい!」
「はぁ?!」
そんなシュールな夕飯も最終日。
なんだか寂しいな。
「明日からも毎日のように顔合わせるじゃない」
「来週はユイちゃんチーフの虹色ツアーあるし
俺三号車だった」
「そうなの?」
「まぁあれよね
こういう非現実が終わるのって寂しいわよね」
「お客様ってこんな気持ちなんですね」
なんだか勉強になった。
終わった~!って内心喜んでしまう私たちだけど、喜んじゃいけないな。
寂しいと台詞を言っても、きっと気持ちは伝わってしまう。
「にしても美味しいわ~」
「りゅうぴょん茶碗蒸し食べた?美味いよ」
モグモグモグモグモグモグ
なんかいつになく食べてない?
いつもお酒の方がメインなのに。
ケーキ食べられる?
料理が落ち着きお酒メインになった頃
「そろそろかな?」コソコソ
「だな」コソコソ
サプライズの段取りがあるから酔えてない私たち。
ケーキを持ってきてもらうため、一之瀬さんがさりげなくトイレと立ち上がり、私はさりげなく空いたお皿を重ねテーブルを片付ける。
「あ、私もトイレ行こ~っと」
「や!龍子さん待って!」
「なんでよ」
「人の旦那と連れションしないで!
私妬くから!」バレテシマウ!
「はぁ?今更なに言ってんの」
危険を察し、一之瀬さんはダッシュで行った。
「同じトイレに入るわけじゃあるまいし」
「そりゃそうだけど!」
「なにユイちゃん、意外と妬くんだね」
「越智くん押さえてて!」
「待って龍子さん!思いとどまって!」
「離せぇい!」
「りゅうぴょん今だ!」
「越智さんのセクハラーー!」
「何してんだよ…」
修羅場なとこ戻ってきた旦那。
そしてその後ろから
「はいはいお待たせしました~」
パッと電気が消え
廊下の間接照明がいい感じに灯り
ろうそくの明かりが揺れるお皿
一之瀬さんがササッとテーブルの上のを空け
そこに大きなお皿が置かれた。
買ったケーキは、いちごのショート2ピースだけだった。
「なによこれ…」
「ユイ」
「うん」
「龍子さん越智さん!
結婚おめでとーーー!!」
お皿の余白に『HappyWedding』
ケーキの周りはフルーツで飾られていた。
「すごーーい!」
「なんでお前が一番に感想言うんだよ」
「だってこんな飾ってくれるなんて!」
「龍子さん、フーやって」
「早く早く~」
ん?龍子さん?
「じゃあ代わりに俺が」
ロウソクの明かりのぼんやりした中、越智さんは龍子さんの頭をぽんと撫でた。
フーーー
「はいおめでとさーん」
「ありがとう二人とも」
パッと電気が点いた。
「やぁねぇ~大げさなんだから~」
いつもの龍子さんだった。
「うわ~可愛い!写真撮っとこ!」
「浩介、カメラ貸して」
「お願いします」
ケーキのお皿をこっちに向け、龍子さんと越智さんはカメラに向かって笑った。
それは本当に幸せそうに。
龍子さん、こんな風に笑うんだ。
私まで嬉しかった。
「あ~~お腹いっぱい!」
「だろうな
まさかお前が一つ食うと思わなかった」
ケーキを小さいの二つにしたのは一之瀬さんの配慮だった。
「だってこういうの残すのはあれだって
自分が言ったんじゃん」
ホールケーキ、またはロールケーキを見ていた私に
『お祝いの気持ちだし残したくないだろ
ご馳走食った後だぞ』
そう言って、小さめなピースにカットされたものを選んだ。
お腹いっぱいだった二人は一つを分け合って食べ、一之瀬さんは旅館の人が可愛くトッピングしてくれたフルーツを食べた。
だから私が一つ食べたという流れ。
「腹一杯で死にそう」
部屋に戻ると一之瀬さんは転がった。
「なぁユイ」
「ん~?
この写真いいな、ねぇ見て」
さっきの写真見せたくて、寝転がった一之瀬さんの横に転がると、足がどかっと乗っかってきた。
「今日はユイランド開いてますか?」
「最後までやりきるコースのみとなってますが」
「最後までやりきれば
途中経過はなんでもありですか?」
「壁は薄そうなのでレベル3でお願いします」
「5の内の3だな、オッケー」
ガブガブガブガブ
「キャー!10の内の3!」
「暴れないで下さい」
「ちょっと!
まだお腹いっぱいだから!」
「お、いいとこに帯発見
暴れん坊は拘束します」
「あ!それ私がやりたい!
一之瀬さん縛られてよ!」
「嫌だし」
「ユイランドの経営者は私ですーー」
「お客様は神様だろ、言うこと聞け」
そんなもみ合い?のさなか
コンコン
「ユイ~」
「あ、龍子さんだ!」
「チッ、邪魔が入った」
「はいは~い!
龍子さん邪魔が入ったって言っ…!」フガッ
「余計なことを言うな」
ドアを開けると、龍子さんはお風呂の準備を持っていた。
「露天行かない?」
「行く行く~すぐ準備します!」
「旦那さん、取り込み中にスミマセンね」
そう言いながら龍子さんは私の浴衣を直した。
「浩介は?」
「テレビ見ながら焼酎飲んでんるわよ」
「じゃあお邪魔しよ~っと」
小さな小さな露天風呂。
さっきの石のお風呂よりひとまわり小さいかも。
だけどなんだか
「落ちつく~」
「いいわねここ」
海の音が聞こえる。
岩造りの、ザ露天でもなく
石のお風呂よりも風情もないコンクリとタイル造り。
ホース置いてあるし。
「体に効きそう」
「思った」
「ここで体力回復してあさってから仕事か~」
「あ、さっき宮原くんからライン来てたんだけど
私の指名のやつ、ユイ一緒に行かない?」
「行く行く~」
「鹿児島」
「鹿児島か~ツラ」
「二台だから」
「勉強しときます」
「たぶんあの人も指名なの」
「カモさん?」
「若かりし頃、二人で乗った団体なの。
それ以来ずっと指名」
「そっか」
「ちょっと待って」
ザパッとお湯から立ち上がった龍子さんはお風呂を出て行った。
で、すぐ戻ってきたと思ったら
「私のこと盗撮する気ですか?」
「イッチーに売ろうかしら
いや今更買わないか生身手に入れたのに」アハハ
スマホを取ってきてまた湯船につかった。
「壊れませんか?」
「防水だし、沈めるわけじゃないから」
ピピッと操作して、スマホを耳に当てる。
「電話?」
わざわざお風呂で?
「あ、もしもし今いい?」
誰だろ
「私…私ね」
龍子さんが空を仰ぐ
冬の星座が輝く夜空
あれは何座だろう
「結婚するから」
お湯の中で、私は龍子さんの手を握った。
「もうあなたの代わりじゃない」
「何よりも大事だと思える人なの」
泣きそうな顔じゃない
すごく幸せそうに笑って
龍子さんはそう言った。
「これからは…
ガイドとしてよろしくお願いします」
「あなたと仕事をするのは…好きだから」
私がこぼしてしまった涙を
お湯をまとった龍子さんの手が拭いて
涙なのかお湯なのかわからなくなった。
カモさん、あの言葉は
ちゃんと私が覚えておくね。
「ユイ、ありがとう」
「ううん…私は何もしてない」
「最後まで見届けてくれた」
龍子さんが私を抱きしめた。
「一人じゃ…怖くてできなかった
終わらせるのも…始めるのも」
「龍子さんスマホ濡れちゃう…」
「ありがとう」
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