1日目、北九州のホテル

今夜のお宿は北九州の普通のホテル。

七バスグループのシティーホテルで社割が効くから、一泊くらいは節約で。


「でも私泊まったことない」

「北九泊まりはあまりないもんね」

仕事で北九州泊まりだと、割とここに振り分けられたりする。

「ドライバーは高速研修で泊まる」

「そうなんだ」



「さ、ユイ行こう」


チェックインしてくれた龍子さんが越智さんに鍵を渡し私の腕を組む。


「スパあるね~」

「アロママッサージもあるわよ」

「龍子さんマッサージしあいっこしよーよ」

「いいわね」



「「おい!」」



男子二人、同時にそれぞれの腕を引き止めた。



「ユイちゃんはそっち行って」

あんなに私のこと好きだったくせになんて嫌な顔するのこの人。

越智さんが私に鍵を押し付け、さらにはグイッと私の背中押して押し付けた、一之瀬さんに。

「たまにはいいじゃん!

 寮出てからまともに女子会できてないし」

「たまにはユイの方が新鮮なんだけど」


真顔で見つめ合った男子。


「や、別に悠二と同じ部屋って」

「俺のセリフだ」


「すぐ予約したら出来そうよね」

「アロママッサージしたいです」

「夕飯はもう部屋で適当でいいわね」

「スパしたあとに出たくない」

「賛成」


「「……」」


「じゃ、あとでね」


「夕飯買ってきます…」

「鍵下さい…」


この旅行は龍子さんと遊ぶって目的もあった。

寮を出てから女子会を開くことは無くなり、一緒に飲みながらご飯ってことはあるけど、それには漏れなく越智さんが付いて来たり一之瀬さんが家にいたり。

仕事で泊まる事はあるけど、楽しく遊べるわけじゃない。

だから今回、龍子さんと遊ぶのも楽しみの一つだった。





「あーー…気持ちーー…」

「やばーい…」


お風呂に入り、フェシャルエステからの肩デコルテ背中。

いい匂いのアロマ。


「何してるかな二人とも」

「今は忘れよ」

「そうですね」


コリもほぐされ、お肌しっとりツルッッツル。


「ユイてっかてかよ」

「龍子さんだって」

ちょうど2時間、アロマのいい匂いに浸りながら部屋へ帰った。



コンコン


「ただいま~」

「お腹空いたビール」


ガチャ


「うわ!なんだ油すげーぞ!」


「油じゃないし」

「保湿だし」


シングルが二つ置かれたツインの部屋。

テーブルにはコンビニのおでんや揚げ物。

それにパーティー開けされてるポテチ。

ビールの空き缶は二本転がっていた。


ドアを閉めながら一之瀬さんが顔に顔を寄せる。



「いい匂い

 楽しかったか?」


「うん!」



食べ飽きたコンビニご飯だけど、旅行で食べるとなんだか美味しく感じた。


二脚あった椅子に越智さんと龍子さんがそれぞれ座り、ベッドを椅子に一之瀬さん。

そして一之瀬もたれ状態で私。

背もたれ座りをしたのは一之瀬さんの方。

一之瀬さんはそんなキャラじゃなかったはずなのに。


結婚して更に私への好き好きが増したスナイパーからは、ひと時も離れたくないのがひしひし感じられる。

そんな彼をもうからうこともしなくなった見慣れた2人。


「ユイ、ファミチキ取って」

「ん」

「ユイちゃんおでんは?」

「あ、俺がんも」

「悠二には聞いてない」

「してやんなさいよ

 かまってちゃんなんだから」

「かまってちゃんってそんな意味?」

「越智さん、私さきイカ食べたい」

「はいはい」

「なんか普段と変わらないわね」

確かに。


食べながらもぞもぞ動いて一之瀬さんがポッケからスマホを出した。

普通に私にも見える位置で今受信したらしいラインを開く。


「は?」


『可愛いココにもお土産忘れないでくださいね!』


「わざとだな」

「ネタだね」

龍子さんがスマホを取る。

「ユイに懐いてるもんね」

「この前は悠二のせいでユイちゃんが退寮したって

 ボヤいてたけどな」

「俺のせいかよ

 俺のこと好きなんじゃないのか」


「仕方ないな~

 お土産買ってってやるか」


思い出したくもない秋のシーズン。

だけど、あれを乗り越えて良かったと今は思える。


励ましてくれる仲間が沢山いて

励ましてあげたい後輩が沢山できた。



「越智さんハイボール下さい!」

「はいはい」

「あ、ユイ私も~

 分けながら飲もう」

「はい!」

「浩介、俺ストロングのシークワサー」

「それ私も飲みたい!」


こんな感じで過ぎていく、呑兵衛しかいない旅行の1日目。


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