第8話:救出作戦42%

1/6

深夜のセーフハウス。

港の方から聞こえる低い汽笛が、妙に遠く感じられた。

蓮司はソファに腰を沈め、両手で髪をかきむしる。

「……くそ、なんであのタイミングで」

朝比奈は壁際に立ち、腕を組んだまま視線を落とす。

光の声は、いつになく硬かった。

《監視カメラ映像、近隣の交差点までは追跡可能ですが……そこで途切れています》

2/6

真鍋の机からは、未整理の資料とUSBメモリが見つかった。

中身を確認した光が、ディスプレイに数枚のデータを投影する。

《薬剤コード、搬送ルートの記録……そして、一部の患者ID》

朝比奈が画面を見つめながら呟く。

「……これ、証拠にはなる。でも真鍋が掴んでた全てじゃない」

「ってことは、残りはあいつの頭の中か……」蓮司は拳を握った。

3/6

光のアイコンが淡く明滅する。

《スケールアイシステム、起動します》

次の瞬間、セーフハウスの壁一面が暗く沈み、無数の光の粒が浮かび上がった。

赤い矢印が血流のように脈打ち、橙の輪がたゆたう。

全体は呼吸するかのように明滅し、まるでプラネタリウムの夜空を見上げているようだった。

光が新しいマップを表示する。

《位置情報と監視網の解析結果を統合しました》

朝比奈がマップを覗き込み、険しい声を出す。

「……病院から直接じゃなく、いったん外部施設に連れて行ってる」

《院内で始末すれば足跡が残ります。まず港湾の外部施設で隔離し、持ち出した資料や記録媒体を回収。その後、安全が確保されてから“処理”する——そういう二段構えの動きです》

蓮司は奥歯を噛みしめた。「……なら、まだ間に合う」

4/6

光が表示を切り替える。

地図上に、港湾エリアの一角が赤く点滅していた。

《ここ。真鍋のGPSタグ反応が一瞬だけ復活し、すぐ消えた座標です》

朝比奈は迷わず頷く。「囚われてる可能性が高い」

「でも、守りは固いはずだ」蓮司が低く言う。

《内部構造と人員配置は、残り時間で可能な限り割り出します》

5/6

蓮司は深く息を吸い込み、吐き出した。

「3人で行くぞ」

朝比奈が視線を向ける。「……やれるのか?」

「やるしかねぇだろ」

光のアイコンが淡く明滅する。

《救出成功率、現状でおよそ42%》

「上等だ」蓮司は短く答えた。

6/6

窓の外では港のクレーンがゆっくり動き、夜の空気が重く漂っている。

テーブルの上で、真鍋のUSBが無言のまま転がった。

その時、光が再び口を開く。

《追加情報。2日後、港湾警備の交代要員が半日遅延予定です。

また、定期点検で監視カメラの三割が停止します》

朝比奈が顎に手を当てる。

「……つまり、守りは普段よりも手薄になる」

《その条件を組み込めば、救出成功率は——78%》

沈黙ののち、朝比奈はゆっくり笑った。

「78か……それくらいあれば余裕だ」

「……必ず連れ戻す」

その決意に、蓮司も強く頷いた。

光の声が静かに響く。

《では、救出作戦を開始します》




■次回予告 ― 第9話「頼れる味方」

深い闇に囚われる蓮司、そして現れた厚労省の男・笹本。医療の不正を許さないその言葉の裏には、彼自身の痛みが刻まれていた。新たな協力者との出会いは、闘いに光を差すのか——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る