第2話 封印された魂

「主さんには面倒掛けるが実はもう一人診てもらいたい人がおるでありんす」


 神月かずきの治療のあと椿つばきさんに連れてこられたのは同じビルの10階の部屋だった。


 その部屋にもベットに生命維持装置をつけた美しい顔の少女が一人静かに休んでいる。


 部屋にはその少女を世話する者の姿は見えないが、ベットの周りは俺の知らない結界が張られている。


「この娘は神月の双子の姉で日巫女でありんす」



≪ 鑑定 ≫ 

  名前:青龍 日巫女ひみこ

  年齢:19歳

  種族:人類(巫女)

  状態:重体

     胎児に魂が宿る際に魂を他に封印され植物人間状態

     


「これも又酷い状態だな。一体青龍家はどんな奴に恨まれて兄弟そろってこんな事になっているんだ」


「それで主さんには日巫女ひみこさんも助けて欲しいでありんす」

「助けてあげたいのだが、この娘に俺がしてあげられる事は残念だが今はない」


「主さん程のお方でも無理でありんすか」

「ただ何処かに封印されている魂を解放してあげれば助かる可能性は有りそうだが」


「なぁ椿つばきさんよ、俺はいきなり地球に呼ばれてきて何の説明も聞かないまま瀕死の双子の姉妹を助けろと言われたが、状況が少しも理解できていない。

 少し説明して貰ってもいいかな」


「それもそうでありんすな。では場所を変える事にするえ」


 突然俺の視界が歪んだと思ったら竹林の中に一軒の小さな茅葺かやぶき屋根の家が見える。


「これは転移したのか信じられん」

「ここなら誰にも盗み聞きされずに話が出来るでありんす」


 椿さんの自宅に連れてこられたようで、場所は竹林と粗末な古い家屋が有るだけで何もない。

 気配感知を広げてみたが人の気配は一切感じない場所だった。


 椿つばきさんの家に上がり囲炉裏を囲んで話を聞く。

 昔話に出てくるような部屋だが妙に落ち着く。


 囲炉裏の真ん中には炭火の上に鉄鍋が自在鉤じざいかぎに下げられ、鍋の中の煮物を椿つばきさんが俺によそってくれた。


 里芋、ネギ、セリ、なめ茸、鶏肉の醤油仕立ての鍋は異世界では絶対に食べれない煮物料理だった。


 =うまい、懐かしい味だ魂が震える=


「ほう、泣くほど美味いかえ、それは良かったでありんす」


 俺は知らない間に涙を零していたようで、椿つばきさんに指摘され恥ずかしかったが箸は止められなかった。


 椿つばきさんが酌してくれた熱燗の日本酒も心と体にしみる。

 涙を流した恥ずかしさをごまかす為に話題を振る。


「で、青龍家を狙っているのは誰で理由はなんだ」

「青龍家というより日本が狙われているでありんす」


 話を詳しく聞くと世界中から現在日本は標的になっており、表だっては友好的な態度の国でもスパイを大勢送り込んで来ていて、それは400年前から始まっていたらしい。


 昔はヨーロッパの国が日本を奴隷化しようとしていたが、やがて金や銀、武、技術、そして最近では日本の神の力が目的らしい。


 そしてその国外の害意から日本を護っていたのが天皇家を筆頭に青龍家等の守護四家でその守りは極めて硬かったらしい。


 それが第二次世界大戦直後に弱った日本に忍者が使う草の民の様に、日本人に成りすまし内部から食い荒らす者が出て来た。


 守護四家の内、白虎家と朱雀家が既に力を失い現在青龍家までもが海外勢力に落とされようとしている。


 もう一つの玄武家の情報は今一少ないが青龍家と似たような現状だろうと想像できるらしい。


 日巫女ひみこは国内の敵対勢力に、神月かずきは中国の組織に狙われたようだ。


「それで椿さんあんたは何家の人間なんだい」

わらわはただ長生きしているだけの生き字引として今は青龍家にお世話になっているでありんす」


「敵が多いのは分かったが見方はいないのか」


「少し前まではバチカンも味方でありんしたが今は敵側に落ちんした。

裏の世界では日本は世界から孤立しているでありんす」


 椿さんの話が本当で有れば大事どころの話でない、さて俺に何が出来るか。

 これは苦労はしそうだが異世界でダンジョン攻略するより楽しめそうだと思っていると


「現実は主さんが考えるより敵は強いでありんす」


「そうだな気を引き締めるか。それで日巫女ひみこの魂の封印先に何か手がかりは有るのか」


「それでありんすが白虎家が絡んでいる可能性が高いですが証拠が無いでありんす」


「なら俺が自由に動いてもいいのか?」


「主さんは我らの切札でありんす。出来れば敵に主さんに事は知られとうありんせん」


「分った目立たないように動くよ」


「それと神月かずきさんの治療の褒美を渡すでありんす、付いて来たんせ」


 狭い家でどこに行くのかと思ったら、そこは椿つばきの寝床で、その夜は椿さんと一緒に布団の中で同じ朝を迎える事になった。



 翌朝、封印について詳しい話を聞きたくて、俺は異世界の魔道具屋に転移をして店の魔女の婆さんに会いに行く。


「婆さんいるか」

「勝手に人の店の中に転移してきて居るかとは相変わらず失礼な奴じゃな」


「ポーション各種10本と状態異常無効のペンダントか指輪と結界の魔道具、身代わりの人形、物理攻撃反射か無効、それに鑑定のスキルオーブだ。

 他にも気の利いた魔道具が有ったら見せてくれ、いくらでも買うぞ」


「豪気だね~いい事じゃ、お前の財産無くなるかも知れんぞ」


「構わねーよ、どうせ俺に金の使い道なんかないしな、それにこの国の国家予算より俺の財産の方が多いかも知れねえぞ」


「それなら儂に貢いでくれでないか、代わりに儂の700年熟成させた操をやろう」

「いや間に合ってるよ。夕べ千数百年物を頂いたばかりだしな」


「なぬ、リア充というやつか」

「冗談はさておき婆さんに聞きたい事が有ったんだ」


「何だ?金を積めば儂から聞けない事は無いぞ」

「人の魂の封印についてだが」


「可能だが封印する魂の大きさ強さにもよるがな、どの程度の人物の魂じゃ?」

「どの程度の人物と聞かれてもな~」


「その人物を思い浮かべてみろ、後は名前もな」


(・・・・・・・)


「青龍 日巫女、太陽神の化身ではないか驚いた、胎児で古龍クラスの大きな魂をもっていたのか、なるほど封印するには退治の時期しかなかったわけじゃな」


「で、どうやったんだ」


「封印術師の頭数が必要だ。儂クラスの上級術師で3人から10人一般の術師で30人から50人位だろうか」


「その頭数を揃えず封印すればどうなる」


「術は失敗するか成功しても術者の命は間違いなくなくなる。それ程その青龍 日巫女という者の魂は大きく偉大じゃ、多分死者が複数出て居るじゃろうのう」


「実は封印された青龍 日巫女の魂を探したいんだが、どういう所を探せばいいんだろうか」


「この者の魂が封印されたというなら、神に近い存在か魔王クラスの依り代、それに代わる宝玉などが考えられるがそれも見てやろうか?」


「うん頼む」


 ・・・・


「青龍 日巫女の魂は玉の中じゃ、木造の教会の様な場所の祭壇に居るようじゃが結界らしき物が邪魔してよく見えん。

 場所は分からんが地中か洞の中で龍脈近くに居るようじゃ」



「さすが大魔女ソフィーだ参考になったよ有難う。この魔道具は全部貰っていくよ、いくらだ」


「そうさな金貨2,000枚もらおうか、安いじゃろうヒャヒャヒャ」


 俺は金貨100枚の入った革袋20袋を収納から出してカウンターの上に置く


「ありがとうなシンジ、随分面白そうな事に首を突っ込んでいるようじゃな」

「ああ魔王かバハムート以来の案件だな」


「沢山買ってくれたからこれを持って行けおまけだ、限界突破の実だ50粒ある。お前には必要ないだろうが弱い味方には必要だろう。能力が1~2段階あがるはずじゃ」


「おお凄いな婆さん、この実一粒金貨10枚はするだろう。商売下手だな」


「ヒャヒャお前が死なないようにだ、お前が死んだらぼったくる相手が居なくなるからな」


「ありがとな婆さん又来るよ」


 俺は異世界にある自分の屋敷に一旦帰り使用人たちにしばらく旅に出ると伝え、屋敷の中に有った武器や魔道具を収納して椿つばきの家に転移した。


 椿つばきさんは和服姿で庭先に立っていたが驚くほど綺麗に見える。

 確かに昨日会った時も絶世の美女と思ったが更に美しく感じて鼓動が早くなる。


「どうされたでありんす主さんは、わらわが綺麗になって驚いたかえ」


「あっああ この世の人とは思えないほどだ」


「昨夜の主さんのおかげでありんす」


俺は自分で顔が急激に赤くなっていくのがのが分った。







 


 
















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