第35話 森へ討伐に 1

 翌日、ギベルが手配してくれたので山狩りの人数もそろった。

 総勢35人。

 兵士が二十人に、爆弾を投げる役割をするのが石を投げて命中率を見て選抜された十人。

 選抜された十人には、一人三十個の爆弾を持たせている。

 残り五人は補佐役や、けが人の対応、捕まえたら山賊を捕縛する役目などをする人員だ。


 そこにテオドールを連れた私が加わる。


「領主様……本当におやめになりませんか?」


 テオドールは出発してからも説得しようとした。

 山狩りに領主が参加するのはともかく、それが女性で剣を扱えないとなれば難色を示すのもわかる。

 わかるけど……。


「私もちょっと切羽詰まってるのよ」


 ポンLV2の準備をするだけで数日。

 山狩りにも数日かかるだろう。

 一週間を犠牲にするのが辛い。

 それで山賊を逃したら、さらにまた森に入れる時期が遠くなる。


「沢山の兵士に囲まれてる状態の方が、採取するなら安全だと思って。もちろん、山賊を見つけたら私は逃げます」


 テオドールはため息をついた。


「山賊の痕跡を見つけたら、絶対に離れないでください」


「もちろんです。目立たないようにもしてきました!」


 もともと、私の髪色は目立つ物ではない。

 だから男物の服を着てしまえば、山狩りについてきた小姓みたいに見える。

 雑用をしてくれる五人とテオドールと一緒にいたら、たぶん狙われない。


 なにせテオドールにはある程度目立つよう、騎士らしいいでたちをしてもらっている。

 山賊は騎士を避ける。

 その側にいる小姓みたいな私も避けてくれる。

 これが私の作戦だ。


「今日一日だけですよ、領主様」


「わかっています」


 私は深くうなずく。

 嫌がったところで、今日一日歩き回ったら筋肉痛になって、森に出るどころではなくなるだろう。

 だから問題ない。


 そうして城を出た。


 森まではみんな馬車や馬で移動した。

 少しでも体力を温存して、山賊と対決してもらいたいので。


 ハルスタットの町から丘を二つ越えたところにある森は、けっこう広かった。

 丘の向こうに見えてきた時点で、私は(この中から山賊を見つけられるんだろうか)と不安になった。

 そこで教えてくれたのが、カールさんだ。


『森でも山でも、人が歩けば痕跡が残る。完全に消せるのは魔術ぐらいだ』


(であれば、痕跡を見つけるところから始めるんでしょうか?)


『そうだな。ただ、人が侵入できる場所というのも限られるものだ。森を仕事場にしている者がついてきているのなら、それもわかるはずだ』


 なるほど。土地勘とか人の行動を把握している人がいてくれるのだ。

 私は黙って粛々とついていくことにした。


 この山賊狩りにて、一番身分が高いのは私で、次がテオドールである。

 そのためテオドールが指揮を執ることになっていた。


 ちなみにテオドールは、何度か山賊狩りの経験があるとのことで、とても頼もしい。

 その補佐についてきているのは、森によく入る狩人二名と投擲部隊にいる木こり達だ。

 彼らは自分たちの仕事がすぐ再開できるよう、山賊狩りに積極的に参加している。


 テオドールは補佐役の数人と協議し、木こり達がよく使う道を使ってまず森へ入る。

 その後、森の中で痕跡を探しつつ、ゆっくりと道なき道を進んで行った。


 しばらくは、下草も生えない木が密集している場所が続いた。

 だからこそ歩きやすい。

 ここでは薬草はあんまり見つからないだろうと思っていたら……私の目に、妙な物が映った。


「ん?」


 数歩だけ列をそれて、木の根元に転がっている石を見る。

 苔がついていたりするけど、近寄ったら間違いない。


「溶岩石……?」


 なぜ森の中に? しかもころっと転がっている状態の大きさの石。


「たまたまかな?」


 苔むしているのだから、ここに転がってからまぁまぁ時間が経っているはず。

 ただ不思議なのは……他には見当たらないこと。

 疑問に思ったけど、すぐに違う物に私の意識が向いてしまう。


「あ、ネル草」


 眠気をもよおす薬草だ。

 森の中でたまに生えるのだけど、普通に使うとほんのり眠くなるだけなので、薬師もこれを濃縮したりして薬にする。

 私は数本あるネル草を採取した。


「あ、こっちはオレガノ」


 料理にも使えるけど、風邪薬としても使える。

 これも採取。

 そこは少し陽が差しやすい場所だったらしく、オレガノはかなり繁茂していた。私はめいっぱい取っておいた。

 茎がけっこう固いので、持ってきたナイフを使う。


「領主様、そろそろ」


 近づいてきたテオドールに促されて私はそこを後にした。

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