しあわせ家族

Tora酸

第1話 噂

「ねぇこんな噂知ってる?」


「え、なになに? どんなの?」


「これはアタシの友達の友達から聞いた話なんだけどさ。」


"しあわせ家族の噂"


ある民家に出る幽霊の家族のことなんだけどさ。


普通幽霊ってさ、真顔だったり、怒っていたり、薄気味悪い笑い顔だったりするじゃん?


でも、しあわせ家族は違う。


本当に幸せそうなんだって。まるで、今でも生きて普通に暮らしてるみたいに。


その家族を見てると、こっちもあの家族と一緒になりたいって思えてくるらしいのよ。


そして、幸せ家族の誰かに見つかるとこう言われるんだって。


『君もどうだい?』ってね。


でもね、ここではいって言っちゃだめ。


自分も家族と同じ状態にされちゃうから。


逆にいいえって言ったら、『そうかい、可哀想に』って言って、何処かに消えちゃうの。




「で、その噂がどうかしたわけ?」


「実はさ・・・・このある民家ってさ、うちの学校近くのあそこらしいんだよね。」


「え、マジで!! うわーなんか嫌だなー。」


「アタシとしては何で幸せなのに、成仏してないのか気になるけどね。」


「あ、確かにー。幽霊って恨みとがあって現世に残ってるイメージあるし。」


そのあと、彼女たちはあることないことを面白がって話していた。


俺はその様子に、聞き耳を立てながらも呆れていた。


いい年した高校生が、そんなくだらないことに熱くなるなんて恥ずかしい。


そもそも噂話を昼休みやるって、どういうことだよ。


現在、私立高宮高校は昼休みの真っ最中で、俺のようにボーっとしているものもいれば、さっきの女子二人のようにグループで固まっているものいる。


席からを外を見ると、元気な男子たちが、サッカーボールで遊んでいる。


元気だな、こんな暑いのに。


現在の季節は夏である。しかも、7月の下旬という気温が非常に高くなる時期のため、外に行くのも憚られる。


「ふむふむ、実に面白い噂だな!」


俺の隣の席に座っている男が不意にそう叫んだ。


「おい、急に叫ぶな。恥ずかしい。」


「お、すまんすまん。つい。」


こいつは柳 周助。


俺の中学校からの親友で、クラスメート。


整った容姿に高いのコミュニケーション能力、しかも運動神経もいいときた。

人懐っこい性格なため、大体の人から好かれるタイプだ。


ただ、唯一難点があるとするなら。


「ネットのオカルト掲示板とかでは聞かないローカルな噂。ああ、めっちゃ興奮する。」


恐ろしいぐらいのオカルトオタクなのである。怪異の話や噂を耳にすると、異様に興奮し、本当にいるのか確かめようと現地に突撃しに行く。


大抵の人はこの性癖を知らないので、ただの気の良いやつと思うのだが、如何せん俺の前ではこんな感じなのである。


「興奮すんな。ったく何が良いのやら。」


俺は吐き捨てるようにそう呟いた。


周助がオカルト好きなの対して、俺は余りオカルトを信じていない。


そんなものの大体は誰かが面白半分ででっち上げたものに過ぎない。

それが怖いから色んな人に伝搬していって、一つの噂になる。


仕組みがわかっていれば、面白いことなど何もないのだ。


それに俺は、そういう噂を作るのは亡くなった人への冒涜に近いものを感じている。


その死に方に悲劇性や異様性を感じたから、エンタメの様にそのことを脚色しているようにしか思えないからだ。


そんな俺を他所に、周助はスイッチが入ったのか、一人で何かぶつぶつと喋っている。


ホント、これさえなければただのイケメンなのに。


シュッとした顔立ちに、適度に体についた筋肉、部活をしているせいかその肌は茶色く焼けているが、むしろ彼の容姿を更に引き立てている。

髪は地毛で茶色らしく、七三分けがよく似合っている。


そんなことを考えていると、周助が俺の机を勢いよく叩いた。


「大貴、俺決めた!!」


「何を?」


「そりゃ、今日その家に行くんだよ!!時間は・・・18時くらいにするか。」


「そうか・・・頑張れよ・・。」


そう言った俺のほうを周助をキョトンとした顔で見てきた。そして。


「なーに言ってんだ。お前も行くんだよ!」


「は?」


何を言ってんだコイツ。


俺は周助をわかりやすく睨みつけるが、周助自身はまったくひるまずに。


「今回の噂が本物ってわかったら、大貴もオカルトを信じるかもしれないだろ。」


なるほど、そういう魂胆か。


周助はちょくちょく俺をオカルトの世界に引き込もうとしてくる。


ネットのオカルト板を一緒に見させられたり、降霊術を俺の家でしたりだ。


だが、俺はそもそもオカルト板の話への興味など毛頭ないし、降霊術も何も起きなかったため、周助の目論見は毎度毎度失敗している。


懲りないなー。


断ればいいのだが、こいつ一人だと何かオカルトとはまた違う方向でやらかしそうで怖いので、俺は毎回同行する羽目になっているのだ。


「はぁー・・・・わかったよ。18時な。」


「さっすが!!俺の親友。」


周助は俺の肩をバシバシと叩きながら、嬉しそうに言っている。


まぁどうせ何も起きないだろう。


周助のほうを向かずそんなことを思いながら、窓の外の空を見る。


その色はなんだかいつもより、くすんで見えた。













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