異世界聖戦譚
景少佐
プロローグ
鳴り止まぬ銃声、爆発音、兵士の雄叫び……
瓦礫と化した建物、転がる無数の屍、硝煙のにおい……
兵士よ、進め……
死守せよ、死守せよ、死守せよ……
死守せよ、撤退は許されぬ……
同志スターリンの名を冠するこの街は、地獄だ……
「……長! 車長! ニコライエフ車長!!」
その声に、わたしはとっさに我に返る。
「……なんだ、同志」
「なんだ、じゃありませんよ。もう敵が、すぐそこまで迫っています。我々は、どうするんですか」
奴ら、もうここまで来たか。忌々しいファシストめ。
ちょうど前方に瓦礫の山がある。戦車の車体を隠すには都合がよい。
「操縦手、そこの瓦礫まで進んで停めろ。そこで敵を迎え撃つ。砲手、わたしの合図で砲撃開始。その後は装填完了次第自由射撃だ。装填手、気合いを入れろよ」
全員が了解と叫ぶ。士気は十分。あとは、やれるだけやるのみ。
わたしはキューポラのハッチを開け、上半身を乗り出して敵さんのご登場を待つ。ほどなくして無数の足音や戦車のエンジン音が聞こえてきた。敵兵の姿も見えた。
敵を十分に引きつけ、わたしは”Огонь(撃て)”、と、砲手に命令する。それとほぼ同時に戦車の七十五ミリ砲が火を吹く。弾種は榴弾。
敵兵の群れのど真ん中に着弾。敵兵が激しく吹き飛ぶ。
いい腕だ。
また一発、さらに一発と敵に命中し、敵を屠っていく。が、一向に敵の数が減る気配がない。それどころか、増えている気さえする。
「さすがに数が多いな……」
と呟いたそのとき、上空からサイレンのような音が聞こえた。わたしはとっさに上を向く。
敵の急降下爆撃機だ。まっすぐこっちを目掛けて降りてくる。
まずい――
「操縦手、急いで後退しろ!」
わたしは車内に戻り、操縦手に命令する。
敵機の落とした爆弾が自車の真横に落ちた。自車は後退するが、間に合わない。
ここまでか――
爆弾が起爆。それと同時にわたしの意識は、闇へと落ちていった――
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