滅
「突然、失礼した。私は灼熱の国宰相ベルハドールだ」
現れたのは赤のローブと銀の甲冑を身にまとった背の高い女性だった。耳のとんがりと体躯、独特の魔力波動からきっとオーグリスだろう。
『よくこの辺境までお越しくださいましたね。立ち話もなんですから、椅子にかけてください。今紅茶を入れましょう』
「うむ!お言葉に甘えよう」
そういうとドカッと来客用の椅子に腰かけた。この暑さの中を汗もかかずにやってきたとは驚きである。
「緊急の用でな、朱竜に乗ってきた。表に止めてあるすまない」
それはまずい。近隣の人たちをさぞ怖がらせているだろう。
『宰相がわざわざこんなところまで来たなんて、よっぽどの緊急事態とみえますね』
灼熱の国でメジャーな紅茶を彼女の前に置いた。
「やや!アイスティーとはなんとも気の利いている…感謝する」
ごくごくと一気に豪快に飲み干した。速すぎないだろうか、あまりに。
ぷはーっと息をつき、口元をぬぐうと真剣な顔をして本題に入った。
「君は首相の孫がもうじき生まれることを知っているだろうか」
『えぇ、風の便りで』
「実はだな、出産が大幅に早まることとなった」
『それは大変ですね。皆、大騒ぎでしょう』
「目下悩みの種は首相が用意していた出産祝いが間に合いそうにないことだ。おかげで仕事に手がつかない。全くあの孫馬鹿め」
フンスと牙を出しながら怒っている。宰相がこんなになるなんてよっぽどなんだろう。
『しかし、何も出産祝いを出産日に合わせる必要がありますか』
一般的に出産前か後の落ち着いた時期に渡すものである。出産日に合わせるなんてただ事じゃない。
「それがだな、首相が用意していたのが妖精の祝福なんだ」
『あぁ、なるほど』
「娘さんは旦那さんの故郷である草風の国で暮らしていてな、首相はわざわざブルハーノンの妖精から祝福をもらい運ぼうとしていたらしい」
なんとも大規模な話である。ブルハーノンの妖精の祝福といえば、火成岩でできた首飾りである。妖精がじきじきに健康と灼熱からの守りを願い祝福として込める代物だ。妖精の合意とできたての火成岩が必要だと昔、聞いた。出産直後に妖精が祝福を込めると死ぬその時まで効果が長持ちするという伝承もある。
『まさか、噴火が間に合わなくなったということでしょうか』
「その通りだ。45日後の定期噴火までは出産しないはずが先日の定期健診で30日後に出産が早まったことが分かった」
『なんとまぁ』
「もちろん首飾りは用意できないし、ならば直接祝福をかけようと画策したところ草原の妖精から許可が下りなかったそうだ。春風の妖精たちは許可してくれたんだがな…」
それもそうだ。相性の悪い火系の妖精が己らの領域に入ってくるなど自殺行為も甚だしい。聞けば、本来は出産直後に祝福をかけ大規模転移魔法で赤ん坊に届ける予定だったらしい。
「ブルハーノンの妖精も話が違うと拗ねるし、守護地を離れるなど以ての外とつっぱねたらしい」
『事情は分かりましたが、それで私に何の関係があるというんですか』
「カイン・ガバン殿!ブルハーノンの妖精による祝福に代わるような一点を作ってほしい!!」
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用語解説
○宰相・・・灼熱の国は王族等が存在しない民主国家である。そのいわば参謀、国務大臣を担っているのが宰相である。一般的には宮廷で使われる用語だがこの国ではそういう意味で使われる言葉となっている。
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