第3話 俺を刺激してくる

 「重くはないですか?」


 俺は女性を背負ったのだがちょっと困ってしまう。

 フルフルと大きな胸が背中に当たり俺を刺激してくるんだ。

 手で触るとこの女性のお尻が異常に柔らかい事も判明した。


 とても危険であるな。

 パンツ一枚だけの股間がもっこりしそうだ。


 「いいえ。 羽のように軽いです」


 最大限にびてしまった。

 ちょっと自己嫌悪だな。

 思ってもいない言葉を発してしまった。


 この女性はかなり重たいんだ。

 胸もお尻も大きいから、確実に50㎏は超えているだろう。

 米の大袋よりも20㎏以上も重たいってことだ。


 「うふふっ、もぉ、嘘つきですね。 いけない人です。 私は太り気味ですから、そんなはずがないでしょう?」


 これはアレだな。

 太ってはいない事を追認しろって言う脅迫だ。


 「全然太ってはいませんよ。 ちょうど良い感じじゃないですか」


 「お世辞がお上手ですね。 うふふっ、困った人ですね」


 何が困るのかよく分からないが、胸とお尻のお肉に合わせたのだろう。

 この女性の警戒心がかなりゆるいのはよく分かった。


 ますます危険であるな。

 パンツがふくらむのはしょがない。


 あっ、そうか。

 この女性が困ったのは俺の膨らみを見たせいじゃないかな。


 「ここがその小川ですね。 見たところ飲めそうな感じです」


 小川の周りは人家も何も無い草原みたいな場所だから、俺は飲みことにした。

 とても綺麗な水に見えるから死ぬことはないだろう。


 お腹を壊すかも知れないが、それは異国の洗礼だと諦めるしかない。

 日本の水が良すぎるのが悪いんだ、とネットで見た事がある。


 女性は小川でスカートをゴシゴシと手で洗っている。

 たぶん綿で出来ているのだろう。

 茶色で質素な物だ。


 俺は服の知識が無いから良く分からないが、上着はブラウスっていう物だろう。

 これは薄い茶色だ。

 ただ良く見ると元は白だったのかも知れないな。

 使い古して白色から汚れてしまった可能性が高い感じだ。


 黒い靴はふくらはぎまであるからブーツの一種だと思うが、これも上等な物じゃないな。

 全体的にヘタっているって印象を持ってしまう。


 「ちょっとその目はなによ。 私がボロボロの服を着ているからって失礼じゃないの。 薬草を採取するからこんな服なんです」


 俺があわれんだ目で見ていたのを敏感に察したな。

 この女性は抜けてはいないんだ。

 かなりの鋭さを持っている。


 「まるで違います。 お綺麗だからですよ。 お顔が素敵だなと思って、つい見惚みほれてしまったのです。 許してください」


 また媚びてしまった。

 ここでの生活が安定するまで、この方針でいくしかないんだ。

 

 「まぁ、綺麗だなんて、そんな、恥ずかしいですわ。 最近は誰からも言われませんのよ。 もちろん許してあげますね」


 ちょっと美人だから若い時は少しはモテたんだろう。

 でも今は良く見ると生活の疲れが顔にも出ている。

 化粧をすればまた違うとは思うが、生きるって事と紫外線は厳しいものだ。


 それに俺に何を許すのだろう。

 ジロジロ見ても良いってことか。

 お尻をもっと触っても良いってことかな。


 あの偉そうな神様も俺の事を少しは考えてくれたんだ。

 良い人とめぐり合わせてくれたらしいな。


 「重くはないですか? ここを右に行けば薬草を入れた袋があるんです」


 女性は薬草採取の途中でおっしこをしたくなったようだ。


 「神に誓って軽いですよ。 楽しいくらいですね。 ずっと背負っていても平気ですよ」


 軽いのは全くの嘘だけど、あの神が悪いんだから神に誓っても何の問題もない。

 この嘘も俺の未来のために必要なことだからしょうがないんだ。


 「もぉ、大げさすぎますよ。 うふふっ、悪い人です。 私が本当にしちゃったらどうするんです?」


 「はははっ、その時はちゃんと俺が責任をとりますよ。 あっ、忘れていました。 俺の名前は〈クロヤ〉と言うんですが、お名前はなんとおっしゃるのんですか?」


 「うふふっ、〈クロヤ〉さんですか。 とっても素敵なお名前ですこと。 珍しいお名前ですけど強い響きがありますね。 私の名前は〈サラス〉よ」


 「ほぉ、やっぱり美しい人には美しい名前がついていますね。 〈サラス〉という音は良いところを的確に表していると思います」


 「うふふっ、私の良い所ってどこなんでしょう?  〈クロヤ〉さんはやっぱり悪い男の人です。 こんなおばさんを美しいなんてからかい過ぎです。 私には8歳の娘もいるんですよ」


 「えぇー、娘さんがいるのですか。 俺はとんでもない衝撃を受けてしまいました。信じられない思いで泣いてしまいそうです」


 ちきしょう。

 この〈サラス〉って女性には旦那がいるみたいだ。

 俺は今晩どこで寝れば良んだろう。


 「もぉ、からかうのは止めてくださいね。 うふふっ、恥かしすぎて私の方が泣いちゃいますよ」


 恥ずかしくて泣いてしまう人の話は聞いたこともないな。

 この世界では一般的なことなのか。


 少しも泣かないで「ずり落ちちゃいます。ふふっ」と笑いながら〈サラス〉は俺の背中で身じろぎをするもんだから、柔らかくて大きな胸が俺の背中にこすりつけられる。

 豊満なお尻が揺れるため落ちないように、俺の手でお肉を鷲掴わしづかみにするしかない。


 「はぁん」


 〈サラス〉は鼻から息を抜いて顔を俺の背中へあづけてくる。


 「さっき薬草採取っていいましたよね。 それがお仕事なんですか?」


 「えぇ、主人が戦争に駆り出されてしまって、もう三年も帰って来ないんです。 はぁ、薬草をとって細々と生活しているんですよ。 でもそれも難しくなってしまいました。 亜人がこの辺りにも出没し始めたんです」


 〈サラス〉は一転、悲しそうな声で身の上話を始めた。

 旦那は三年も留守なんだな。

 希望が膨れてくるよ。

 それにしても亜人てどんなものなんだろう。

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