Episode 2-4 - Sightseeing In The Rain
Motchiy、『最高裁』が共に追い求める『
かつては厳正なる裁きを執行した、偉大なる神の持つ杖であった。だが永い時を経れば、その持ち主も移り変わる。そうして、ひとりの悪しき心を持つ者の手により、『
『最高裁』の記憶も朧気であるが、彼と面識のある神が一度『
「そう――ちょうどこんな静かな雨の日に」
『最高裁』が腕を勢いよくスライドさせると、虚空がドロネー三角形のように歪み、一冊の星空のような色合いの書が出現する。その背表紙には『六法』の文字があった――どうやら、法律の本らしい。
山本もライフルに銃弾がしっかり装填されているのを確認すると、軽快にチャカチャカと音を鳴らした。
「下手に動かないでくれたまえよ。君の本気がいか程か、此方はそう知らないがね」
「Motchiyには劣るくらいさ」
「あいにく、此方も彼女と手合わせしたことはないのだよ」
二人は現在、彼らの住まう地からは遠く離れた無人の地を訪れている。
鬱蒼とした深い陰樹林に囲まれているが、ここだけは褐色の石の層が表出し、森の中にぽっかりと穴が開いたようになっている。
森には暗い空から静かに雨が降り続けているが、この空間だけは雨が届かない。どこにでもありそうな景色でいて、その場に立つ者になにか言葉にできない感傷を抱かせた。
その奥に、まるで台座のような形の凸部が存在する。本来であればそこに、薄暗い明かりを放つ大きな水晶が浮かんでいるはず、なのだが。
「……本当に割られているね。しかもこの魔力のタイプは――」
「『白銀の杖』、だろ」
「いかにも。君の言っていたことは本当だったらしいね」
山本にはイマイチ感じ取れなかったが、どうやら『最高裁』は『
荒み、歪んだ正義により命を奪われた者たちの恨みは濃い。それらがずっと封じられ続けてきたため、非常に強い突き刺すような感触があるそうだ。
「そして同時に、『
「ああ……やれるか? 正直言って俺は当てにならないけど」
「さあね。Motchiyには対応策も伝えたけれど、その策がやすやすと通用するとは考えない方が良いだろう」
「ふーん。じゃ、長時間経って強化されてる可能性は?」
「無くはない。が、今のうちに叩くことが出来ればさして問題はないはずだ。少なくとも今はその楽観に縋るしかないだろうね」
淡々と危機的状況を話す『最高裁』。
「カミサマが運頼みなんてなぁ」
「神もサイコロを振るのだよ。確実な法則で未来を縛るのは、案外難しいものだ」
砕けている肆方石の欠片が、少し黒ずんだオーラに包まれている。それを辿りながら、足早に、でも慎重に追跡をしていく。
この台座のある平原を抜け、森に入っても痕跡を追い続ける。足跡などはないためやはり山本には感じづらいが、『最高裁』の進む道にはいくつかの折れた枝、斬られた蔦などが散らばっていた。
「聞いてた感じだと、杖は杖だろ?」
「十中八九、近くにいた誰かを支配したのだろう。悪いが静かにしていてくれたまえ」
「ああ、ごめんごめん」
山本はライフルを構えつつ、警戒しながら『最高裁』を追いかける。
「……」
それから五分ほど歩いてもあまり進展はなく、山本が口を開きかけた、その時だった。
「――『
突如、空から姿を現した何者かが『最高裁』へ斬りかかったのだ!
想定はしていたのか、すぐさま身を翻す『最高裁』。その横から山本の弾丸が三発、炸裂した。
「ッチ、『
パパパン! と激しい発砲音と共に鉛の三連弾が標的へと飛びかかる。
が、それに弾丸は当たらなかった――躱したのでも、狙いがそれたのでもない。すり抜けたのだ。
「マジか……」
現れたのは、ひとりの青年だった。生気のない碧の瞳と、髪はくすんだベージュ色。服装は黒いワイシャツと到底戦闘に向いた風ではなかったが、その手にはひとつの杖が握られていた。
白銀の淡い光を放つ、美しい細工の杖だ。間違いなく、『
「ふむ、あちらから姿を見せてくれるとはね。手間が省けた――と言いたいところではあるが、なんせ此方は戦闘は不得手なもので」
「よく言うよ、フォニィ!」
スタイリッシュにライフルをクルクルと回し、今度は魔力を強く纏わせてトリガーを引く。
「『
突如として空中に具現化された超電導のレールが、弾丸を空中でスピン、加速させる。瞬く間に超音速まで到達した弾丸は、相手に認識する暇さえ与えずその胸部を撃ち抜く。
『最高裁』の
杖に操られた青年が激しく血を吐いた。
「がふっ――」
「魔力があったら当たんだな! 手こずらせやがって『
そして、山本の
今回の誓約は『ぶち抜く』、そしてその誓いは果たされた――六発分だ!
勢いよくぶっ飛ばされたのを見て、山本はさらに蹴りとゼロ距離ショットによる追い打ちを仕掛ける。
「
そして『最高裁』も後方で封印の大魔術を構築し始める。
杖の再封印は、思ったよりも楽に進んでいる。
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