烏合の衆 襲撃

@daikinzou

第1話 戦乙女vs魔王

 雲上に浮かぶ広大な島。地表にて道には金色の石畳で舗装されており、花園には麗しい花々が咲き乱れており、そしてそこの中央奥には、巨大で広大で荘厳で剛健で煌びやかな宮殿が建てられている。

 聖なる宮殿前には、広々とした野外試合場もあった。


 ウ゛ァルハラ。


 北欧神話の最上神オーディンが住んでいるとされる王宮だ。

 宮前広場では、いずれくる神々と巨人らの戦争・・・・・・ラグナロクに備えて戦乙女ワルキューレ戦死者エインフェリア達が、日々武芸を磨いている。

 毎日同胞達と実践訓練している彼らの強さは、上位魔族や熾天使達が警戒する程常軌を逸していた。


 「ブリュンヒルデ様・・・・・・オーディン様は何処へ?」

 宮殿の回廊にて戦乙女の一隊員が、戦乙女の将軍であるブリュンヒルデに質問する。

 「八百万親睦会にご参加するとの事だ。二日間はこちらにご帰宅なさらないだろう。留守番を任されている」


 「オーディン様がいない時、襲撃を受けないか心配なんです」


 軽く鼻で嗤わらうブリュンヒルデ。

 「貴様、それでも誇り高きワルキューレか? ここにいる者は、全員どのような賊にも負けない実力を有している。そんな我らに刃向う奴なぞ・・・・・・いや、いっそ我は襲撃を求めているかもしれないな。

 最近同じ相手とばかり戦ってマンネリ化している。他の戦士と手合わせ願いたいものd」


 「敵襲だあああぁああああああああああっ!!」

 戦乙女将軍の言葉を遮るよう、一人の戦死者エインフェリアが錯乱したようにこちらに叫んで駆け寄ってくる。

 彼は、筋肉隆々の無骨な戦士なのだが、今は泣きじゃくった幼子みたいに慄いていた。その様子は、まさしく異常。


 「どうした? 賊ごときで喚き散らすなみっともない」


 立ち止まって肩で呼吸する男。

 「た・・・・・・ただの賊じゃねぇえんですよっ!! あいつらは、バケモンだっ!! 助けてくれっ!!」

 その言葉によって怯えるどころか口元を曲げて武者震いする彼女。

 「ほう・・・・・・相手方は、相当な手練れの様だな。敵の規模は? だいたいでいい」


 「えっと、正確には、分かんねえすけど十数人くらいっす」

 

 戦乙女一隊員「たった十数人で、オーディン様の住処に戦いを挑んできたんですかっ!? 無謀ですよっ!!」


 戦乙女将軍「侮るな。賊共は、それほどまでに個々の力に自信を持っているだけということだ。

 敵襲は、どこから攻めてきた? まあウ゛ァルハラを兵で囲むような布陣だろうが」


 「い、いえ正門から堂々と・・・・・・今、他のエインフェリアやワルキューレ達は、宮前広場で迎撃しています・・・・・・」


 「ふん、あくまで正面突破か。ますます気に入った。貴様らは、すぐに殿内にいる戦士達に敵襲だと呼びかけろ。第一部隊から第三部隊はもちろん広場で賊の対象、残りは別の門に警護を回せ。大急ぎだ」


 「は、はいっ!!」 「おうっ!!」


 (さて・・・・・・)

 戦乙女将軍は、ここから走り去る二人の背を見送った後、速足で戦地へと向かう。

 (どの程度敵は、残っているのか? 我も楽しみたいのだが)

 人間の域を超えている半神の、さらにトップに君臨する彼女の走行速度は、迸る雷よりもはるかに超えていた。

 たった一息で遠方に位置する目的地までたどり着く。


 そこには、返り討ちを受けた賊達が、石畳の染みになっている・・・・・・。


 「わぁあああっ!! 助けて下さいオーディン様!!」


 「みんな持ち堪えろ!! すぐに戦乙女将軍殿が、こちらに来るはずだ! そしたら勝てるのだ・・・・・・!」


 「・・・・・・なんだこれは・・・・・・」


 わけではなく、代わりにワルキューレやエインフェリア達が絶望の顔のまま絶叫をまき散らして、みっともなく圧倒されている。

 生前では敵前逃亡などの経験が全く無いはずの傑物豪族共が泣き喚きながら逃げ惑い、大半の人数が触手みたいに蠢いている太い枝に巻き付かれて苦しみ悶えている。

 まさしく地獄絵図。

 不自然な大木その枝先には魔杖の形になっており、生い茂ている葉の一つ一つに妙な紋様や文字が多種多様に描かれるように刻まれている。


 ブリュンヒルデの目前には、例の不気味な大木の枝を操る少女がいた。


 彼女の特徴は、顔立ちが整っており、肌質は瑞々しく、髪型は前髪毛先だけ赤であるメッシュでそれ以外は銀の短髪。目は軽く吊り上がり、服装は露出多めのビキニアーマーと黒マント。

 得物は、葉と枝が残ってある白樺の杖。


 しかしその説明だけでは、彼女の全容を伝えた事には、ならない。

 なんと彼女の頭側部から、ヤギの角が生えており、耳先が尖ってあるのだ。


 NO13 イベート ディープパス


 二つ名は、邪悪の樹の魔王。

  

 銀髪の美女が、将軍に話しかける。


 「あら。なかなか美しく質の高そうな黄金の兜をかぶっているのね。おおかた幹部枠か・・・・・・。いいわね。幹部枠は雑魚と違って10ポイントももらえるもの・・・・・・」


 「ポイント・・・・・・? 相当な手練れとお見受けする。

 我の槍捌きを何秒耐えるか、見ものだな賊よ・・・・・・!!」


 得物である最上級の魔槍を水平に構えた将軍は、一気に間合いを詰める。

 もはや彼女の槍の凶刃は、敵の喉元へとたどり着いていた。


 「どう見ても魔術師のなりをした相手に向かって突進?? 本当にプロの戦士なのかしら」

 この上なく危険な状況に陥っているにもかかわらず、呑気に怪訝に思っている魔王イベートは、微動だにせず対処する。

 彼女の傍、石畳の隙間から生えてある苗木が急激に生長したかと思えば、横に薙ぐよう将軍の腹をおもいっきり殴りつけた。もちろんイベートの術。


 「がっ・・・・・・!?」

 (な、に? 早すぎる)


 殴り飛ばされた将軍は、宮殿の玄関側の大理石の大柱に激突する。

 純白の瓦礫が転がり、土煙が舞う。

 (早く強いが・・・・・・ただそれだけだ。奴の周囲を縦横無尽に舞いながら隙を見て攻撃すれば勝ち目が・・・・・・勝ち目、が・・・・・・)

 吐血し膝が震えながらも立ち上がり、敵を見据えた将軍は、絶句した。


 「元素魔法小手調べ 『七面楚歌』」

 

 岩をも溶かす爆炎・鋼すら断つ水流・塔すら飛ばす突風・湖すら呑む土砂を手始めに雷・氷・光・闇・鉄・札・ダイヤモンドワイヤー・電波・放射能・毒液・強酸・ミサイル・文字列・音波・溶岩・灰・プラズマ・この世に存在したことのないはずの物質などの破壊力抜群の凶弾が、

 彼女の周囲の空間を埋め尽くすように高速で飛び交い、絨毯爆撃顔負けのハチの巣攻撃が無慈悲にも襲い掛かる。


 (こ、こんなものテレポートで回避を・・・・・・)

 窮地に立たされても思考を放棄しないブリュンヒルデは、ここから離脱しようと術を繰り出そうとする。

 「・・・・・・?」

 しかし不発。

 (な・・・・・・なぜ!?)

 完全にパニックになっている彼女は、自分の視界に舞い落ちる木の葉に刻まれた文章を見逃さなかった。

 「ま、まさか生やされた大木の木の葉一つ一つ全てが、魔導書や呪符だとでものたまうつもりっ!? それも原典クラスのっ!!」

 その推察通り、彼女のテレポートが失敗した理由は、イベートの右側に生えてある広葉樹の葉の一枚の効果が発揮されたからだ。


 飛ばされた無数の凶弾が着弾して炸裂した。

 衝撃により、オーストラリア大陸よりも一回り狭いウ゛ァルハラ全域が軽めに地震の如き揺れが起こる。


 「・・・・・・へえ?」

 魔王イベートは、戦塵の奥を覗いて少し感心するように声を上げる。

 そこには。


 血まみれになりながらも五体満足で槍をこちらに向ける戦乙女将軍の姿が。


 顎に手を添えて自分が興に乗っていることを表現する魔王イベート

 「やるじゃない。集中砲火を受ける直前で、闇の弾丸めがけて強引に刺突で突破して急いで離れて難を逃れたってわけね。その槍、闇特高の効果でも持っているみたい」


 「前任の戦乙女将軍から受け賜わった聖なる魔槍・・・・・・夜すら切り裂く光の神器ぞ!」

 腰を少し降ろすよう突進の構えを取る将軍。対して魔王イベートは、自身の背後に生えてある大木の枝先から、黒い塊を射出した。

 そう、たった今防がれたものと同じ魔法、闇の弾丸。


 「我を舐めるなぁあっ!!」

 自分を侮られたと思って憤った将軍は、全速力で敵の元へと向かう。

 こちらに放たれた闇の弾丸を、前と同じく切り払って対処しようとする彼女。

 「・・・・・・え?」


 だが、

 それは失敗に終わる。彼女の槍の刃先と魔王イベートの魔法が衝突した際、少しだけ拮抗するも呆気なく吹き飛ばされた・・・・・・ブリュンヒルデが。


 石畳の上に激しく転がり苦悶の声を零す戦乙女の将軍。

 床に伏せる中、彼女の脳裏には、疑問が溢れ出している。

 (な・・・・・・なぜだ・・・・・・!?

 この魔槍は、あらゆる闇を切り裂くというのに・・・・・・!! たとえ格上から出されたものであったとしても!!)



 「なぜだか、知りたい・・・・・・?」

 土埃にまみれたブリュンヒルデに、魔王イベートは彼女の疑問を察して嘲笑う。

 奴が指を鳴らした瞬間、一本の魔法の大木の根本が弾け飛ぶ。土砂が空中に漂いそれの根っこが外気に晒された。


 (な・・・・・・なんだ、あの根っこ。歪な・・・・・・)

 敵の魔法の大木の根を見たブリュンヒルデは、少し戸惑う。

 なぜならそれの形は、自然の木の根とは、思えないような、整列されているように球根ができている。

 その整列の並び方は、まるで・・・・・・。


 「セフィロトの図形・・・・・・?」


 「おしいわね。クリフォトよ。魔王である私がセフィロト系の魔法使ったら、おかしいでしょ。

 そうそう、これらの大木の根っこにもちゃんと効果が発揮されている。

 それは、『あらゆる聖なる力を弱体化して全ての邪悪なる力を術者の手に掌握させる』もの」


 「そ・・・・・・そんな、つまり我の槍の特性が封じられているのか・・・・・・!?」 

 理不尽な異能を前に、絶望するブリュンヒルデ。

 しかしすぐに自身を奮い立たせる。暗い表情から一変して鼻で笑った。

 (まだ諦めてたまるかっ!! オーディン様からこの館の番の要を任されたのだぞ!!)

 「成程・・・・・・貴殿を倒せばこの騒動は終結するも同義だな・・・・・・!!」


 彼女の言葉に、魔王イベートは不可解な態度で「はぁっ!?」と声を荒げた。

 次にブリュンヒルデが零した言葉に、ここの広場の雰囲気がガラリと変わる。


 「賊の頭領は、貴様だろ? これ程の強さだ。わかっておる。

 貴様さえ倒すことさえできれば、後は消化試合。戦力の柱さえ崩せば、下の者達も臆するだろ・・・・・・う?」

 語っている途中に呆ける彼女。

 なぜなら魔王イベートから奔流された『圧』に気圧されたからだ。

 そう、辺りの空気が奴の魔力によって緊迫と極寒に塗りつぶされてしまったのだ。


 俯いて震えている魔王イベート、次に奴は、勢いよく顔を上げ怒鳴り散らす。



 「十三忌で一番末端である私への当てつけかぁあっ!?」

 指を鳴らす奴。

 瞬く間に、先程の絨毯爆撃された魔法の弾痕その全てから勢いよく大木が隆起するよう成長した。

 そう、魔王イベートの繰り出す射出系魔法は、例外なく魔法の大木の種を宿している。


 ブリュンヒルドの背後側の地面の弾痕から、木が顔を出し、次に彼女の胴を縛るよう伸ばす。

 (くそっ! こやつの操る植物魔法の生長速度は、魔神が繰り出す豊穣権能と比較しても抜きんでてるっ!?)

 次に、魔王イベートは自分の右指先に魔力を込める。瞬時に赤い煌びやかな礫が造られたのだ。

 彼女は、身動きが取れないでいるブリュンヒルドの額めがけてそれを音速以下の速度で射出し、命中させたのだ。


 「痛っ!」

 (何だ・・・・・・? 奴の技量なら今の射撃で我を仕留めることができたはずなのに・・・・・・この石、赤い・・・・・・まさか・・・・・・!!)

 自分の足元に転がる礫を見て、顔面蒼白するブリュンヒルド。

 

 「『それ』の正体を知っているようね? 当然か、有名すぎるもの。

 そう、それは、賢者の石。それの効果により、貴様は、たった今、不老不死になった。ただでは、殺さないわよ?

 貴様は、十三の厄災全てに遭い、誇りの死を迎えたらいいのよ・・・・・・!!」

 頭に血が上っている魔王イベートは、次に呪文を詠唱する。

 「『狡猾な輝夜姫よ 我は命ずる 固い胡桃クルミを土瀝青アスファルトの上に堕とせ

 車輪に轢かれては 残るのは、甘美な恵みと轍のみ 

 最強の魔女の絶技の一端を 我の前に示せ・・・・・!!

 植物属性魔術 【胡桃ウォールナッツフォールとし】』

 せっかくだから激戦地まで送ってあげるわ? 将軍様?」

 イベートの右傍に植えられた魔法の大木の枝に、瞬時に一つの胡桃が実り、次にそれがブリュンヒルド目掛けて射出された。 

 

 (がっ・・・・・・!? 何だこの眼にも止まらない速度とでたらめな威力は・・・・・・!! 今までの攻撃とは、比べ物にならない・・・・・・)

 自身のみぞおちに植物魔法が激突した彼女は、この上ない緊急事態だというのに、何故かとあることを想起していた。

 (これは、まるで、我が師匠の刺突みたいな・・・・・・)

 魔王イベートの繰り出した一撃は、ブリュンヒルデを宮殿ウ゛ァルハラの奥の奥まで何重もの分厚い壁を突き破る形で吹き飛ばした。

 彼女を縛っていた樹の縄が木片と化し、衝撃波が館内を埋め尽くし、地響きが浮島を支配し、土埃が雲海のように漂う。


 「・・・・・・フンっ!」

 鼻を鳴らす魔王イベートに。


 「精霊の代わりに我らの君主様の力を借りて魔法を繰り出すとは・・・・・・さすが昔、魔界の南西辺りを支配した王ですね」

 話しかける野太い声が一声。

 いつの間にか、彼女の背後に男が立って拍手している。


 彼は、見た目二十代後半の黒髪糸目で、額に鰯の面をかぶり、アロハシャツと短パンを身に着け、サンダルを履いている。


 十三忌 NO12 虚仮 ベーコンスパゲッティ


 二つ名は、背神不敬の神


 「虚仮こけか。てっきり私は激戦地である館奥にいると思っていたわ」


 「いえねえ、ちょっとコート外に転がるボールの処理を」


 「王宮から飛んで逃げている戦乙女や戦死者を重力系権能で堕としまくっているわけか。相変わらず神類に対して容赦がない」

 ジト目で睨む魔王イベートに虚仮は肩を竦んで目を逸らす。


 (神々絶対殺すマンの虚仮が積極的に神界で狩りをしていない・・・・・・?

 腹黒く狡猾な奴だ。絶対何か企んでいるな・・・・・・)


 「だいぶ前に占いの女神を虐めている時程では、ないですが楽しかったです。

 ところでなぜ標的であるはずのブリュンヒルデさんを不老不死に施したのでしょうか?」


 「あ奴、私のことを十三忌最強だと宣のたまったから、本当の超越者を見せつけるために賢者の石をぶつけたの」

 しかめっ面から嗜虐的な笑みに表情が変わる彼女であった。

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