25日目:告白の予感

夕暮れの帰り道。

美咲と並んで歩く足取りは、どこか重たかった。

彼女はずっと何かを言いたげに唇を噛んでいる。


「……悠真」

不意に呼ばれて、心臓が跳ねた。

「ん?」

「私ね……ずっと思ってたことがあるんだ」


その声は震えていた。

立ち止まり、俺を真っ直ぐに見つめる。




「悠真って、なんか無理して笑ってるときがあるよね」

「……」

「でもね、私にとっては、その笑顔がすごく大事なんだ」


胸の奥が熱くなる。

彼女の瞳は潤んでいて、まるで次の言葉を探しているようだった。


「だから……私――」


言葉が途切れた瞬間、強い風が吹いた。

校舎の方から、クラスメイトの笑い声が聞こえてきて、美咲は思わず視線を逸らす。


「ごめん、やっぱり……今は言えない」

俯いたまま、小さな声で呟いた。




胸に残るのは、言いかけた想いの余韻。

(……美咲、今、何を言おうとした?)

答えは分かっている気がした。

けれど、それを受け止める勇気がまだなかった。




夜。

病室に戻ると、ルカが言った。

「今日の奇跡は?」

「……使わなかった」

「だが、あなたの心は揺れていた」


ルカの目がわずかに細められる。

「その揺らぎが、奇跡を呼ぶのかもしれない」


残り五日。

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