15日目:手紙の勇気

昼休み。

屋上のベンチで、美咲が紙切れを両手で握りしめていた。

俺が近づくと、彼女は慌てて背中に隠す。


「なに隠してんだよ」

「べ、別に! 宿題メモ!」

明らかに動揺している。


「ふーん……」

からかおうとしたけど、彼女の頬が真っ赤になっているのを見て、俺は口をつぐんだ。

一瞬、視線がぶつかる。

その手元にあるのは、折りたたまれた封筒。


――手紙?




放課後。

帰り支度をしていると、美咲が机に突っ伏していた。

手元の封筒を見つめたまま、動けずにいる。


「出さないのか?」

思わず聞くと、美咲は小さく唇を噛んだ。

「……無理。勇気ない」


その声はかすかに震えていた。

俺は喉の奥が熱くなるのを感じた。

その手紙の宛先が誰かなんて、聞かなくても分かる。


でも、俺はもう――。

残り日数を数えてしまう自分が、ひどく残酷に思えた。



「今日の奇跡は――美咲がその手紙を一度だけ渡せる勇気を持つこと」


ルカがそばで「承認」と囁く。




翌朝。

昇降口で靴を履き替えていると、少し離れたところで美咲が誰かに封筒を差し出していた。

相手は同じクラスの女子。

「これ、お願い。先生に渡してほしいの」


どうやら手紙は「担任へのお礼」だったらしい。

誤解していた自分に、安堵と……少しの失望が混ざった。


けれどその横顔は、確かに晴れやかだった。

「やっと、渡せた」

美咲が笑っている。




その夜。

ベッドで天井を見上げながら、俺はルカに呟いた。

「……よかったよな」

「勇気は奇跡ではなく、きっかけ。あなたが与えたのは後押しにすぎない」

「それで十分だ」


ルカは黙って、俺を見つめていた。

その瞳に、ほんの少しの憂いが宿っていた。


残り十五日。

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