9日目:面接の晴れ間
放課後の教室で、美咲がスマホを見ながらため息をついていた。
「……やばいな」
「どうした?」
声をかけると、彼女は小さく眉をひそめる。
「母さん、今日面接なんだって。パートの契約が切れちゃって、新しい仕事探しててさ」
「そうなのか」
「しかも今日、雨降るらしいし……面接って第一印象大事じゃん? びしょ濡れとか最悪だよ」
俺は少し黙った。
昨日の子どもたちの笑顔が、胸の奥にまだ残っていた。
そして、今度は美咲の母親。
「……分かった」
小さくつぶやいて、心の中で決めた。
「今日の奇跡は――美咲の母親の面接相手が、彼女を好印象で受け取るように空気を晴れやかにすること」
ルカが机の隅に現れ、目を閉じる。
「承認」
夕方。
病室で宿題をやっていると、美咲からメッセージが届いた。
《母さん、面接うまくいったって!》
《担当の人がすごく優しくて、話がトントン進んだらしい》
《奇跡みたい!》
思わず笑った。
こっちも奇跡だからな。
返信しかけて、手を止める。
“俺がやった”なんて、絶対に書けない。
ただ一言だけ返す。
《よかったな》
夜。
病室の窓を開けると、冷たい雨がしとしと降っていた。
俺はルカに問いかける。
「……帳尻は?」
「面接官は今日、家庭で小さな口論を抱える。だが、それは逆に彼を謙虚にし、明日からの仕事に生きる」
「……プラスにもなるのか」
「帳尻は悪ではない。ただ“均衡”」
俺は雨の匂いを吸い込み、目を閉じた。
美咲の家に笑顔が生まれたなら、それでいい。
ただ一つ、心の奥で疼くものがあった。
――俺はあと二十一日しかない。
なのに、彼女の未来を支えてしまった。
俺がいなくなったあとも、彼女が歩き続ける未来を。
胸の奥に複雑な痛みを抱えながら、ベッドに身を横たえた。
残り二十一日。
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