第8話 ハデスの地下資源

「待たせたな」

「いま来たところだから」


 喫茶店での新原にいばらさんとの会話は恋人がするような台詞で始まった。

 ごめん、心の中で謝っておく。

 かなり、酷いことをするけど許してね。

 他に適任の人が現れたら交代するから。


「お礼なら、アルバイトしてみない?」

「どんな、仕事?」


「俺って配信者をやってるだろ。そのアシスタント」

「あのダンジョンに行くのは嫌!」


「一回で10万円払うから」

「怪し過ぎる。助けてくれたのはありがたかったけど、そこまで信用できない」


「うんうん、そこでだ。第一魔力銀行と仕事するんだけど、一緒に来ない? 仕事だから10万円払うよ」

「第一魔力銀行なら、行っても良い」


 さすがの大企業。

 信用力が半端ない。


「俺のスキルを説明しておくね」

「覚醒者だったの? 勝ち組じゃない。それを先に言ってよ」


「スキルなんだけど、霊能力系なんだ」

「嫌! 聞きたくない!」


「まあ、聞けよ。俺のスキルで霊から守ることもできるから、安心しろ」

「本当?」


「ああ、もちろん」


 第一魔力銀行に到着。

 100人の大所帯でダンジョンに出発。


「絶対に守って」

「約束だからな」


 新原にいばらさんはかなり嫌そうだ。

 この恐怖の感じが、良いんだよ。

 でないと配信が盛り上がらない。

 演技はどこか嘘くさくなるからな。


 ダンジョンに到着。

 ゴミの入った箱が次々にダンジョンの中に運ばれる。

 俺は箱に魔力印を付けた。


 小声でスキルを発動。

 ゴミは魔力に分解された。


「ゴミが運ばれたので、幽霊が集まってるよ」

「ひぃ!」


 恐怖で体をこわばらせる新原にいばらさん。

 俺は吸魔機械に手を置いて、魔力を吸い取らせた。

 ガンガン上がるカウンターの数字。

 いくらになるんだろう。


 カウンターの数字が止まった。

 俺のダンジョンに蓄えてた魔力が空になったようだ。


「127万円ぐらいですね」


 八城やしろさんが告げた。


「ゴミを追加で持って来ると、また新しい幽霊が集まるよ」

「少しお待ち下さい」


 八城やしろさんがダンジョンの外に出た。

 恐らく電話するんだろう。


「10分以内にゴミが集まります」


 戻ってきた八城やしろさんが告げる。


「幽霊は嫌ぁ!」

「守ってるから」

「なにか来てる気がするの。憑りついてたりしてない?」

「してないよ」


 雑談してたら、ゴミが運ばれた。

 魔力に分解、吸い取り、またゴミがと繰り返した。

 今日だけで、魔力を売った金額が1千万を超えた。

 これにゴミの処分料が加わるのだから、これはウハウハ言うしかない。


新原にいばらさん、予想外に儲かったから、ブランド品のバッグを5つぐらい買ってやるよ」

「えっ、いいの?」


「でもこれから、ほとんど毎日、配信に付き合ってもらうぞ」

「ああ、ブランド品はほしい。けど、怖い……ええい、やる。やったる。女は度胸。それにしても覚醒者って儲かるのね。話には聞いてたけど」


「人によるかな。俺は儲けている方かも知れない」


 第一魔力銀行で今日使う分だけ現金で受け取り、あとは口座に振り込んでもらった。

 新原にいばらさんに10万円を払ってから、ブランド品を買ってやったけど、笑った後に絶望の表情。

 うん、良いリアクションだ。

 そういう自然の表情が良いんだよ。


 夜になり、配信タイム。


「心霊スポット、廃ダンジョン・モンスターオードブルでライブ配信スタート。今後、ライブ配信を中心にやって行くつもり。みて分かると思うけど、レギュラーになった猫腹ねこばらさんだ」

「可愛い猫に腹出しスタイルの腹で、猫腹ねこばらです。今日はよろしくお願いします」


🙂:ぴーす桶丸 よろしくね。前は酷かったけど、美人さんだ。

❤:ハートブートキャンプ やっぱり配信はこうでないと

☕:Cブレイクショット 分かる 花がないとね

☃:どさん子どすこい ホットさん、猫腹さん、こんばんわ

☠:Aトランク覚醒者 第一銀行員の告白動画を見たけど、どうなんだ?

🚭:禁煙父さん 霊能力系の覚醒者がここに幽霊を呼んでるって奴だろ


 その動画は俺が八城やしろさんに頼んだ。

 基本的に幽霊は人が嫌いだけど、ダンジョンコアの幽霊は例外って説明をこじつけた。

 ダンジョンコアがアイテムなどの餌で、覚醒者を招き入れている説は有力だからな。

 ダンジョンコア幽霊のご機嫌取りって言ったら、納得してた。

 ちょろいぜ。


「入りました」

「幽霊は嫌い! あっち行って!」


🚀:rocketoldman 何か見えた


「きゃっ! 変なこと言わないで! マジで怒るよ!」


 新原にいばらさんも腕にスマホを着けて、コメント見てる。

 ちなみに前の時にスマホを灯りになぜ使わなかったと聞いたら、パニックで忘れてたと。

 ありがちなことだ。

 今は腕に着けてるから、懐中電灯ほどではないけど、灯りは消えない。


⏰:お母さんあと5分 なんか可愛い

❤:ハートブートキャンプ いじられキャラなのか

✈:大空葵 怖がっているでしょ やめてあげなよ

☕:Cブレイクショット 了解です 姐さん

🚀:rocketoldman ごめん。俺も怖いんだよ


「風鈴エリアに到着」

「えっ、鳴ってるのが、めちゃ怖い。ひっ! いる、絶対にいるよ!」


 そりゃ空気だって流れるよ。

 風があれば風鈴だって鳴るさ。


☃:どさん子どすこい 家の軒先だと怖くないけど、ここは怖い

🚀:rocketoldman 俺もいるような感じがする


「返事した! コメントが出たとたんに鳴った! もう、いやぁ! 帰る!」

「ええと、相方が限界なので、今日は終わるよ。風鈴エリアは楽しめたかな。明日は赤ん坊エリア」


🙂:ぴーす桶丸 楽しみ。

☕:Cブレイクショット 怖そうだ

❤:ハートブートキャンプ グレイトグッド配信だ


 カメラとマイクをオフ。

 懐中電灯からLEDランタンに持ち替えた。

 かなり明るくなる。


 新原にいばらさんが涙目。

 すまん、でもこれぐらいできないと、リアクションが面白くない。


「どうしても我慢できなくなったら、言ってくれ。退職金を渡すから」

「うん。毎回、いまみたいにランタンじゃ駄目なの?」

「ごめんね。懐中電灯だと、恐怖感が増すから」

「我慢する。お金のため。私、がんば!」


 苦学生なのかな。

 あとで詳しく聞いてみよう。

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