第5話 ハデスのザクロ

 あれから1ヶ月。

 ネズミとゴキブリ退治は、順調だ。

 おかげで、家賃と光熱費が何とか払えている。


「【ダンジョンオーナー、操作、ゴミ分解】。【ステータス・オープン】」


――――――――――――――――――――――――

名前:やなぎ熱蔵あつぞう

レベル:5


強化ポイント:4

魔力量:50+2587/50


攻撃力:5

防御力:5

瞬発力:5

持久力:5

知識力:5


シークレットスキル:

 ダンジョンオーナー

――――――――――――――――――――――――


 1ヶ月でこれしか成長してない。

 しかも不味いのは心霊スポットとしての話題性が薄れたことだ。

 ネズミとゴキブリ退治でギリギリの生活をするのは嫌だ。


 ゴミをダンジョンに違法投棄する奴が増えた。

 分解して魔力になるから嬉しいんだが、欲しいのはお金と覚醒者の実力。

 まだ、他のダンジョンに入ってモンスターの討伐は未経験。

 だって、強化ポイントが100の奴でも、均等の割り振りで能力値20。

 まだ、俺はよわよわ。

 Fランクを名乗るのもおこがましいぐらいだ。


 莫大な経験値がほしい。

 飽きさせない心霊スポットにしないとな。


 ダンジョンから、自転車での帰り道。

 ゴミが捨てられてた。

 汚い綿の出たぬいぐるみ。


 ぬいぐるみに哀愁を感じる。

 何かを訴えてる気がした。

 これが真っ暗なダンジョンに捨てられてたら、怖いかもな。


「うちの子にしてやるぞ」


 魔力で印を付けると、分解されないんだったよな。


「【説明】ダンジョンオーナーを使って、魔力の印の付け方は?」


――――――――――――――――――――――――

【ダンジョンオーナー、操作、魔力印】と唱えて下さい。

印をつける物のイメージが必要です。

――――――――――――――――――――――――


 なるほどね。

 ダンジョンの壁の魔力を使いたいから、ダンジョンでやろう。

 ダンジョンに飾るのは明日だな。


 意味深なゴミを飾るのは良いかも。


 それから、ダンジョンでの、朝の掃除の帰りに、ゴミ捨て場を覗き、ゴミを収集する日々。

 どんなのが集まったかと言えば、ひび割れた鏡、ガラスにひびが入った額縁、いくつもの人形とぬいぐるみ、切り裂かれたソファー、風鈴、招き猫、置物、本、哺乳瓶、ガラガラなど。


 額縁には俺が書いた変な絵を入れた。

 本は血の色に近づけたペンキを染み込ませたりした。

 人形の綺麗なのは汚くして、髪の毛とかを半分抜いたりした。

 顔を焼いた人形もある。


 こんなことして呪われそうだが、ダンジョンの中なら俺は無敵。

 ダンジョンから、自力で出て来たら、ダンジョンに逃げて始末する。


 覚醒者は幽霊ごときにビビらない。

 でも、ちょっと調べておく。


「【説明】ダンジョンオーナーを使って、除霊の仕方は?」


――――――――――――――――――――――――

アンデッドは存在しますが、幽霊は存在しません。

アンデッドはダンジョンの中ならテイムできます。

――――――――――――――――――――――――


 神が言うなら、信じよう。

 幽霊が出たらテイムを試してみるか。


 ステータス覚醒者協会の支部。


「お前が、万年Fランクか。ネズミとゴキブリ退治で儲けているらしいな。ちょっと貸してくれよ」


 何年もFランクはしてない。

 1ヶ月ちょっと、だけだ。

 だが、この男は俺がFランクだと知って、タカリに来たのだな。

 ダンジョンの外はちょっとな。


 かと言って、『廃ダンジョン・モンスターオードブルの中で勝負だ』と言っても、乗ってきたりしない。

 金を一度払ったらカモにされる。

 しかも、複数にだ。


 それは許容できない。

 仕方ないな。

 あれを使おう。


「ハムいわ、行け!」


 ダンジョンの中でテイムしたハムスターのハム岩が背負いから出て、男のズボンの裾に向かって電光石火の速さで駆ける。

 ハム岩はズボンの中に入ると足を駆け上がった。


「げっ! 卑怯だぞ! この動物使い野郎が! げっ、そこは!」

「ガリ、ガリ、ガリ、ガガガガガ、ガリっ」


 男のスボンの裾からプラスチック片がバラバラと落ちる。

 カップを着けてたのか。

 急所だからな。

 覚醒者でも急所はある。

 ハムいわには無意味だが。


「ぐひっ……」


 男は白目を剥いて倒れた。

 何を噛んだかは知らんが、南無とだけ言っておこう。

 あと、ハムきく、ハムかさね、ハム牡丹ぼたんの3匹がいる。


「俺にはハムスター四天王がついている。簡単にカツアゲできると思うなよ。ハム岩、来い!」


 ハム岩が俺の手の上に乗り、褒美のひまわりの種を頬張った。

 男はみんな股間をガードしている。

 俺は男から恐れられるのだろうな。


 カツアゲを撃退して大事な物を失った。

 勝利はいつも虚しい。

 だから、嫌だったんだ。


 ちなみにハム岩達は魔力を与えて上位種に進化させてある。

 モンスターの猫ぐらいは倒せる。

 我ながら恐ろしい物を生み出してしまった。

 だが、後悔はすまい。


「俺のランクアップのポイントって、溜まってる?」

「きゃー♡。かわいい♡。撫でたーい。は、はひっ、溜まってます。これは失礼いたしました」


 受付嬢の目がハム岩に釘つげだ。

 ハムスターが好きなんだな。


「じゃあ、Eランクにしてくれ。ハム岩、撫でられてやれ」


 カードをハム岩が咥えて、ジャンプしてカウンターに乗る。


「では、遠慮なく」


 受付嬢はカードをハム岩から受け取ると、ハム岩を撫でながら、片手で器用にカードを差し込んで、処理した。

 ハムスターもネズミも変わらんのに。

 頬張る姿は可愛いと思うけどな。


 ハム岩が出されたカードを咥え、ジャンプして俺の手の平に戻る。

 Eランクだけど、実力はまだFランクだ。

 魔力で進化できるハムスターが羨ましい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る