第14話

 休止から一ヶ月が過ぎたころ、彼女のマネージャーから連絡が来た。小さな喫茶店で三人で会う。マネージャーは穏やかな女性で、年上の姉のように彼女を見ていた。


「元気にしてる?」


「はい。普通、がんばってます」


「見てた。――無理に戻せとは言わない。ただ、戻るなら条件がある」


「条件?」


「夜の配信は、ほどほどに。日中の仕事――レギュラーの撮影や収録を優先。学校の行事は、事前に相談。湊くんは……」


「僕?」


「目の下のクマを減らす」


「僕にだけ厳しくないですか」


「あなたは、倒れたら役に立たない」


 言い方がきついようで、愛情がある。彼女は納得して頷いた。僕も頷いた。


「ただ、その前に、やりたいことがある」


「なに?」


「学内で一曲、非公式で、内緒で、演る」


 マネージャーは目を細めた。僕が横で息を呑む。ほのかは続ける。


「誰も撮らない。誰も拡散しない。ここにいる人だけが知ってる曲。――わたしと湊の、普通の、曲」


 数秒の沈黙。コーヒーの湯気が上に伸びる。


「……一回だけ」


 マネージャーは折れた。

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