おちダン!〜おちこぼれ王子、ダンジョンで死にかけたら規格外の仲間に拾われた

路地猫みのる

第一章 かけだし冒険者、誕生

1.アレックのピンチ

 ハァッ、ハァッ、ッ、ハァッ……!


 俺は、金臭い息を吐きながら、全力疾走していた。

 そうしなければ、死ぬから。


 周囲は、雪深い森。左手には、凍った青色の湖。冬の晴れ間から差し込む光が、積もった雪を白く輝かせる。観光なら、寒いなりに美しい景色を楽しめただろう。


 足首ぐらいまで積もった雪は、人間の足を鈍らせる。

 俺は、雪の中にあった何かにつまづいて転んだ。


「痛ッ! ……うわっ、くそ、ど、け……!」

 

 すぐ立ち上がろうとするが、巨体が太い腕を伸ばし、俺のリュックごと、俺を地面に押し付けた。


 そして。


「う、わあぁぁっ! は、離せぇ!!」

 ヤツは、俺のフードを口にくわえ、ブンブンと空中で振り回した。

 手足が、木や岩にぶつかって痛む。それ以上に、逃げる途中に負った腰の引っかき傷――なんて可愛いもんじゃない。三つの鋭い鉤爪かぎづめが切り裂いた傷口からは、今も赤い液体が流れている。

 口から、体中の痛みが、悲鳴となってあふれ出しそうなのを、必死で我慢する。


 俺を追い詰めている、魔物モンスターの正体は。


 ――グルゥゥゥゥ。


 うなり声を上げるのは、鋭い犬歯がずらりと並んだ口。威嚇的いかくてきな黒い縞模様を持つ顔つきは、非常に獰猛どうもうだ。耳は丸い。鋭い鉤爪の生えた、太い四本の手足。黄金色に輝く密度の高い縞模様の毛皮と、太く長い尾……。


 目の前にいるのは、デカい虎のような魔物。名前を、灼眼金虎アモーレ・ティーグルという。

 この魔窟ダンジョン最強の捕食者だ。


 一般的な虎との違いといえば、その両眼か。

 執拗しつように俺を追うヤツの目は、夕焼けのようなピンク色だ。そして爪はダイヤモンドのように硬く、驚異的な殺傷力を持つ。


 虎が、じわじわと距離を詰める。ゆらゆら、尻尾の先が揺れている。

 俺は、両手に剣を構え、じりじりと後退して、後退して……。


 ぴた、と。背中が、雪に覆われた冷たい岩にぶち当たった。

 これ以上は、下がれない!


 ――グルゥゥゥゥ。


 どこか楽しげにも聞こえる唸り声とともに、虎は鉤爪の光る腕を振り上げた!


 あの鉤爪が身に食い込む――ぎゅっと身がすくんだとき、俺はちょっとイヤなことを思い出した。



 この魔窟に訪れる前。

 初めての冒険者登録をした冒険者組合ギルド で、呆れを隠そうとせず、中年の職員が俺をせせら笑った。

「ここいらの魔窟は、冬になると難易度が上がることで有名だ。冒険者レベル1の初心者なんかと組みたがる物好きなんか、いるはずないさ」


 職員の言葉は正しかった。

 色んな冒険者仲間パーティに片っ端から声をかけたが、すべて断られた。中には親切な人もいて「南のほうが、もうすこし狩りやすい魔窟があるぞ」と、その町の組合へ紹介状を書こうとしてくれたけど、断った。


 俺が、欲しいのは……!



 剣を、両手でしっかりと握りしめる。振り下ろされる分厚い鉤爪 、その衝撃に耐えるために。


 しかし。


 ――カキーン!


 中古ショップで買った俺の剣は、俺を裏切り、ポッキリ折れて光を反射しながら宙を飛んでいく。ぽすん、と、雪の中に落ちる音が間抜けだった。


 俺は、震える体を叱咤して顔を上げた。


 チラリと赤い舌で口周りを舐め、魔物は、興味津々に俺を見下ろしている。

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