第8話 弱さ
俺は欹愛の父親調査結果を受け取りに科捜研に来た。担当の科学者からラボで話を聞いた。
「結論から申し上げます。父親はわかりませんでした」
「はぁ?ここのデータベースは国民に秘密で全国民のDNAデータが集められてるんだろ?」
「ええ。その通り。ですがわからなかった。データベースには引っかかったんですけどね。わからなかった」
俺はそれを聞いてはっとした。
「おい。それって」
「はい。あなたの持ってきたサンプルの女性の父親は国がその存在を隠そうとしている人です。おそらく警察官僚のトップクラスか、そのOB、あるいはそれらのファミリーに当たるかと思われます」
絶句という言葉がある。まさにその状態だった。頭を抱える他ない。まさかのまさかだった。そんな奴が欹愛の父親だとは……。
「危うくシステムに通報されかかりましたけど、止めました。まだ相手方にはバレてないです。そこは安心してください」
「よりにもよってneed not to know案件かよ」
「そういうことですね」
いやな沈黙が俺たちの間に流れる。間男をぶちのめす計画はここにきて暗礁に乗り上げた。一介のノンキャリ警官に適う相手ではない。悔しさで今に暴れてしまいそうだ。
「一つヒントになるかもしれないことがありました」
「なにさ?」
「このサンプルの女性、四色色覚です。すごく珍しいです」
「はい?なにそれ?」
「ざっくり言うと、他の人よりも多くの色を見分けることができます。あと視神経系の遺伝子にも未知の変異が入ってました。このサンプルの女性はもしかしたらすごく目がいいのでは?」
そう言われて思い出す。欹愛は視力はいい。それに母親の顔色だけで自分が父親の子でないことを見抜いていた。俺が欹愛が娘でないことを知った後も、まるで狙ったかのように真相をぶちまけてきた。観察力がすごく高い。
「出来れば、このサンプルの女性の母親の方の遺伝子情報も調べてみたいですね。そうすれば父親の特殊な遺伝的特性も見抜けるかもしれません」
「それが出来れば、捜査の当てになると」
「そういうことですね」
俺は頷いて、サンプルを渡すことを約束した。会合はそれで終わった。進展はあったが、なんとも歯がゆい結果に終わった。俺はわだかまりを覚えたのだった。
科捜研から帰る道、欹愛に連絡を送った。そして彼女はすぐにやってきた。
「部活の途中に呼ぶってどうかと思う」
「うるさい」
俺はそのまま力を込めて欹愛を引っ張ってラブホテルに連れ込む。そしてすぐにベットに押し倒す。
「強引すぎだよ。なにかあったの」
「黙ってろ」
「あっ……」
欹愛を壊れそうになるくらいに力強く抱き続けた。
「なんで黙ってるの?」
「しゃべるな」
「でも私が欲しいんだよね。ならいいよ」
俺は自分よりも力のある男に妻を孕ませられた弱い男だった。その事実が耐えがたいほど屈辱で、その娘を犯すことでしか、耐えられないほど弱かった。欹愛は涙を流していた。
「いいよ。全部受け止めるから!」
欹愛は俺を優しく受け入れてくれる。だけどこの子の存在が俺のプライドをズタズタにする。苦しい。だけど気持ちいいんだ。俺は快楽で必死に傷を埋めようともがいた。そしてその弱い男と優しい女はその日、家に帰ることはなかった。
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