メール3
From: tazai.ryoichi@mailroom.jp
To: henshubu.morita@gen-ei.co.jp
Date: 2025年4月10日 22:17
Subject: 【続報/進捗共有】山陰地方・失踪事案と「二重化」の件について
森田さん
お疲れさまです、田斎です。
前回の報告からずいぶんと時間が経ってしまいました。実はもっと早くメールを送っていたはずなんですが、送信済みに記録が残っていなくて。下書きフォルダに同じ文面のファイルが二つ残っていたときは、さすがに首をひねりました。
今回のテーマがテーマだけに、テーマがテーマだけに、あんまり気持ちのいい偶然ではないですね。
もし森田さんのところに、私から同じメールが二度届いていたりしたら、すぐに教えてください。笑えない冗談ですが、最近はそういう小さな異常が積もり積もっているので。
さて、本題に入ります。
先日の編集会議で、この山陰地方の失踪事案と“二重化”現象に関する調査を、7月4日発売号に掲載すると決まったと伺いました。本当にありがとうございます。大きな機会をいただけたことは素直に嬉しいですし、背筋が伸びる思いです。
ただ、編集長が「必ず結論を出せ」と釘を刺したと聞きました。そこが一番のプレッシャーです。
これまで集めた証言や資料をいくら積み上げても、オカルトなのか心理的錯覚なのか、あるいは失踪の新しい形なのか……はっきり線を引くのは難しい。けれど、雑誌に載せる以上“記事としての記事としての結論”を出さなければならない。
胃腸薬の消費量が目に見えて増えてきました。笑えない冗談ですが、このままでは胃のほうが先に穴が開きそうです。もし経費で落とせるなら大助かりなんですが、それは無理ですよね。
以前、某週刊誌に取り上げられた人物に直接会うことができました。
その人は失踪事件の周辺を知る立場にあり、記者に話した当時も「自分の感覚がおかしくなっているのでは」と思っていたそうです。
「取材を受けている最中、記者さんの顔が二人に見えたんです」
そう彼はぽつりと言いました。
「いや、正確には、同じ質問を少し間をおいて二度された。けど、記者の表情も姿勢もまったく同じだった。答える自分の声が二重に響いて、頭がぐらぐらしました」
記事自体は、当時の編集方針もあって「証言者が混乱していたのだろう」とまとめられていたようです。でも、本人にとっては笑い話ではなく、むしろその瞬間を境に生活が不安定になっていったと。
「影のようなもう一人の自分が立っている感覚はあれ以来、ずっと消えていない」
彼はそう言って、目を伏せていました。
次に話を聞いたのは、某バラエティ番組のディレクターです。例の“失踪事件を追う特番”を担当していた人で、再現ドラマやスタジオ収録にも立ち会っていました。
「再現ドラマの撮影でね、役者が“自分の影が二つある”って真顔で言い出したんですよ。ライトの当て方を調整しても消えなくて。結局、編集で影を処理して放送しましたが、現場はピリつきました」
さらに、編集段階でも妙なことが起こったそうです。
「同じカットが二回入ってる。映像ソフトの不具合だろうと思って修正したけど、翌日確認するとまた戻ってる。これを三度やりました。普通はありえない」
彼は最後にこう言いました。
「正直あの特番は“低俗だ”と批判も受けました。でも、本当に奇妙なことが起こっていたのは事実なんです。僕らはバラエティを作ってるつもりでも、あれはドキュメンタリーだったのかもしれない」
そして、広島の霊能力者・天城京子さん。70代の女性で、長年地域で相談を受け続けてきた人物です。
私が話を聞いたときも、穏やかな笑顔で迎えてくれましたが、語る内容は穏やかではありませんでした。
「最初は普通の霊障だと思ったんですよ。依頼者の背後に黒い影が見えるとか、そういうのは珍しい話ではありませんから。ところが、お祓いを始めたら違うんです」
天城さんによると、祝詞を唱えている最中、依頼者の声が二重に響いたのだとか。
「本人の口が一つなのに、声が二つ重なって聞こえる。片方は少し遅れて、でも確かに本人の声なんです。あれは生きている人間が二重になっている証拠でした」
彼女は長いキャリアで様々な霊障に向き合ってきましたが、この“二重化”に関しては初めての体験だったと断言しました。
「普通ならお祓いで軽くなるのに、この件はどうしても手が出せませんでした。正直、あのとき初めて“自分にできないことがある”と認めざるを得なかった」
続いては、当時の失踪事件を担当した警察関係者です。
公式な取材ではありません。あくまで個人的なつながりで話を聞かせてもらいました。
「正直に言えばね、失踪者の精神が不安定になっていた、としか思えなかったんですよ」
彼はそう前置き彼はそう前置きしました。
「でもね、周辺住民から“同じ人物を二度見た”っていう証言がいくつも出てくる。しかも時間や場所がバラバラで、供述の食い違いとも言い切れない。現場の若い連中はずいぶん頭を抱えていました」
さらに彼はこんなことも漏らしました。
「調書が二重に保存されていたんです。日付も内容も同じ調書が二つ。システムエラーだろうと片付けましたが、消そうとしても消えない。ああいうのは公式には残せないんですよ」
彼は冗談めかして笑いましたが、目の奥は笑っていませんでした。
SNSでつながっていた失踪者の友人から、直接DMをもらいました。
「最後のやりとりが変だった」と。
「既読が二回ついたんです。しかも、送ったはずの文が数分違いで二度返ってきた。内容はまったく同じ。でも、微妙に句読点の位置が違っていました」
最初はアプリの不具合かと思ったそうです。
しかしその直後、友人のアカウントは消えてしまった。失踪した本人と連絡がつかなくなったのは、それ以来だと言います。
スクリーンショットを送ってもらいましたが、たしかに画面には同じ文面が二つ並んでいました。
「冗談のつもりだったのかもしれません。でも、あの日を境に連絡は途絶えたままです」
彼は短い文でそう結びました。
他にも彼が見せてくれた写真。添付してあります。一見すると普通ですが、後ろに後ろに影みたいなものが映ってませんか?見えますかね?
直接お会いした時に、現物も見せます。現物のほうが見えやすいかも。
最後に、ある病院の看護師さんの話です。
診察室で横から患者を見ていたときのこと。
「先生が診察している患者さんで、二人になって困るって言ってた人がいました」
彼女はそう言いました。そう言いました。
「いや、別々に二人いるんじゃなくて、自分が二人いるって言ってたんですよね。でも全然おひとり。そういったんですが、真剣そのものの様子で、あれはぞっとしました」
彼女は「そんな患者さんばっかりですけどね」と苦笑いしましたが、声はかすかに震えていました。
ここからは私自身のことです。
最近、妙に文章を二度書いてしまうことが増えました。気づけば同じフレーズが続いている。
録音機には、自分の声が半拍遅れて重なって残っていました。
メールの送信もそうです。送ったはずの文が「下書き」に残り、しかも二つ。
時計が一時間に二度鳴ることもありました。ポストを開けると同じチラシが二枚。取材先で同じ質問を繰り返してしまい、相手に笑われたこともあります。
編集長の言葉どおり、記事としての記事としての“結論”を出す努力は続けます。
でも時折、原稿を書く行為そのものが、私の“二重化”を完成させる儀式になっているんじゃないかと、そんなことまで考えてしまうんです。
それでもそれでも書かねばならない。
森田さん、もしこのメールが二度届いていたら、どうかすぐに教えてください。
本気で、お願いします。
田斎
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