テレビ番組

オープニング


<効果音:ドンッ!>

<派手なテロップ>

「緊急追跡!失踪者の真実 消えた大学生と“笑う影”」


ナレーション(低く響く声):

「今夜お送りするのは、一人の大学生が忽然と姿を消した謎の失踪事件。

その背後には、古来より語られてきた都市伝説──“二重化の呪い”が潜んでいた」


司会者・佐藤啓介(ベテランアナウンサー):

「果たして彼はどこへ消えたのか!? 今夜、その真相に迫ります!」


<VTR開始>

画面に学生写真が映し出される。


ナレーション:

「行方不明となったのは、都内の大学に通う二年生・田村翔太さん(仮名・当時20歳)。

友人からは“真面目で穏やかな青年”と評されていた」


<映像:駅前でチラシを配る母親の姿。冬の冷たい風が吹く>


ナレーション:

「息子を探し続ける母・田村恵子さん(仮名)。その手は赤くかじかみ、声はかすれていた」


母親(声を震わせながら):

「毎日……ここに立ってチラシを配っています。受け取ってくれない人も多いです。けれど、もしかしたら誰かが翔太を見ているかもしれない。そう思うと、止められないんです。もう何千枚刷ったか分かりません」


<映像:カメラが自宅に入り、壁一面に貼られた失踪チラシを映す>


母親:

「失踪の直前、翔太の部屋でスマホの録音を見つけたんです。……そこに残っていたのは、二重に重なった笑い声でした。あの声は今でも耳に残っています。普通の笑いじゃない。翔太の声に重なるように、もう一つ、知らない誰かの笑いが重なっていたんです」


<テロップ:「残された“二重の笑い声”」>


母親(涙をこらえながら):

「最初はイタズラかと思いました。でも……そんなはずはない。あの子は確かに“何か”に連れていかれたんです。呪いでも、影でも、何でもいい。どうか翔太を……息子を探すきっかけにしてください」


<ここで感動的なBGMが入り、母親が泣きながらチラシを配る姿がスローモーションで流れる>


ナレーション:

「母の必死の思い。しかしその願いは、いまだ届いていない」



<再現ドラマ>

<映像:アパートの一室、机に向かう田村>

ナレーション:

「失踪前夜、田村さんは一人でレポートを書いていたと言われています」


田村役(つぶやき):「……また同じ夢か。もう一人の自分が、笑って……」


<机の上に置かれたスマホが突然鳴る>

着信音:ピピピ……

→ ディスプレイには「非通知」の文字。


田村役:「……はい。……え?」


<電話の向こうから“二重の笑い声”が流れる。田村は顔を強張らせる>



<映像:夜のキャンパス。人影のない廊下を歩く田村>


ナレーション:

「翌日、田村さんは深夜の大学キャンパスに姿を見せました」


田村役(小声で):「誰か……いるのか?」


<廊下の窓ガラスに、一瞬だけ“もう一人の田村”の姿が映る>


効果音:キィィン……


田村役(振り返りながら):「……今の、俺?」


<カメラが窓を映すが、そこには何も映っていない>



<映像:街灯の下、田村が一人で歩く>


ナレーション:

「そして──これが彼の最後の目撃情報です」


<背後から二重の笑い声が響く>

効果音:ハハハハ……ハハハハ……(エコーが重なる)


田村役(振り返り):「誰だよ!?」


<カメラ:街灯の明かりに、二つの影が揺れる>

→ だが、田村しか立っていない。


ナレーション:

「二つの影。二つの声。──それは、何を意味するのか」


<画面が激しく揺れ、映像が途切れる>


字幕(赤字):

「これが、彼の最後の姿となった──」



<カメラはスタジオに戻り、専門家の検証が行われる>

FBI捜査官/霊能者 サマンサ・ミラー(Samantha Miller) ※FBIで異常事件を扱った経歴を持ち、退職後に霊的能力を公言。

「私の目には、はっきりと映っています。彼のすぐ背後に立つ“もう一人の彼”。普通の人には見えないでしょうが、私にはその姿がわかるんです。特に首のあたりが重なり合うようにして揺れている。これは単なる影ではありません。意志を持った存在です。笑っているんです。小さく、でも確かに笑っている。二重に重なって聞こえる笑い声は、彼自身の声でもあり、もう一人の存在の声でもある。つまり、自分自身に呼ばれていたのです。こうした現象は、取り憑かれるというより“引き込まれる”と表現した方が正しい。影は、彼を仲間にしようとしたのだと思います。私の経験では、こうした事例は非常に稀ですが、若い男性が標的になりやすい。理由は、まだ自我が不安定だから。自分の影との境界が揺らぎやすいんです。科学では説明できないでしょうが、これは確かに呪いの一種です。私は霊への接触を試みようとしましたが、力が強すぎて、とても手に負えるものではありませんでした」


透視能力者(男性) 白崎 蓮(しらさき・れん) ※水に関するビジョンを多く語ることで知られる。

「私が透視で感じたのは“水”です。川か海か、いずれにせよ水辺の気配が非常に濃い。田村さんは消えたのではなく、水に“吸い寄せられた”のではないでしょうか。よく見ると、彼の足取りは地図の上でも水辺の方向に伸びています。本人は気づいていなかったはずですが、無意識に導かれていたのです。笑い声というのは、水面に響く反響音と非常によく似ています。二重に重なった声は、風と波が混じった音に近い。私はこれを“水霊”の仕業だと考えています。水は命を与えもするし、奪いもする。古来より、人が水辺で姿を消すことは珍しくありません。今回のケースも、その延長線上にあると私は見ています。彼の行方を探すならば、河川敷や貯水池、あるいは都市部なら排水路のような場所を重点的に捜索する必要があるでしょう。ただし、彼がまだ“生きている”かどうかは保証できません。影と同化してしまった場合、その存在は水の底に沈み、永遠に笑い声だけが残るのです」


占い師(タロット) 御子柴 環(みこしば・たまき) ※都内で活動する中堅どころの占い師。柔らかい語り口。

「この件に関してタロットを展開してみました。最初に出たカードは“月”。これは幻影や不安、そして自分の姿が正しく見えなくなることを示しています。続いて出たのが“恋人”のカード。これは二つの選択肢、あるいは二つの存在を意味します。そして最後に出たのが“死神”。これは必ずしも肉体的な死を意味するものではなく、大きな変化や終焉、そして新しい状態への移行を象徴しています。三枚のカードを合わせると、こうなります。彼は“もう一人の自分”という幻影に出会い、選択を迫られた。だが、その選択の結果として、元の世界から消えることになった。つまり、別の存在へと変わってしまったということです。カードは彼が完全に消えたわけではないと告げています。しかし、元の彼として戻ることは難しいでしょう。もしかすると今も、別の場所で“もう一人の自分”として生き続けているのかもしれません。タロットは彼の行方を完全には明かしませんが、“二つの存在”というテーマが一貫して出続けているのです」


心理学者 真壁 慎一(まかべ・しんいち) ※大学教授。認知心理学を専門にし、都市伝説を研究対象にしている。

「この現象は典型的な集団暗示の例です。都市伝説というのは、誰かが面白半分に語った話が、人から人へ伝わるうちに事実のように定着していく。その過程で証言が次第に似通っていくのです。今回の“二重化の呪い”もその一つだと考えられます。母親が“二重の笑い声を聞いた”と証言していますが、人間は強いストレスや恐怖の中では音を歪んで認識することがある。特に夜間、疲労状態では幻聴が起きやすい。友人や近隣住民の証言も同じです。先入観によって“二人見えた気がする”“声が二重に聞こえた気がする”と記憶が書き換えられていく。心理学的には“偽記憶”や“集団幻覚”と呼ばれるものです。ですから、これは超自然的な現象ではなく、人間の認知の弱点が生み出した幻想にすぎません。番組がこうした怪談めいた証言ばかりを集めてしまうと、余計に真実から遠ざかることになります。失踪事件そのものは現実ですが、“呪い”という言葉で片付けるのは、むしろ本当の原因を隠してしまう危険があるのです」


警察OB 川嶋 弘樹(かわしま・ひろき) ※元警視庁刑事。

「公式な記録には残っていません。ですが、私が退職前に耳にした話を正直に言えば、確かに似た事例は存在しました。どのケースでも、現場に奇妙な落書きが残されていたんです。“笑う顔”のような、子どもが描いた落書きめいた図柄。それが壁や地面に刻まれていた。通常、警察はオカルト的な解釈を避けますから、その部分は報告書から削られます。あくまで単なるイタズラとされる。しかし現場の空気を知っている人間は、皆妙に口を濁すんです。私自身、夜に現場を見たとき、不意に二重の声が聞こえた気がしました。風かもしれない、幻聴かもしれない。しかし、現実に人が消えているのも事実。こうした事例は公には出ませんが、水面下では調査資料として残されています。二重化の呪い、という呼び方は知りませんでしたが、警察内部でも“似た事件がある”という共通認識はありました。私は今でも、あの笑い声が何だったのか答えを出せずにいます」


オカルト研究家 黒田 芳明(くろだ・よしあき) ※民俗学と怪談の境界を歩く在野研究者。

「“二重化の呪い”は決して新しいものではありません。日本各地の民俗伝承には、同じ自分を見てしまうと死ぬとか、声が重なって聞こえると魂を奪われるといった話が数多く存在します。例えば東北地方には“影分身に出会うと命を落とす”という民話がありますし、九州には“二重声”と呼ばれる妖怪の記録が残っています。つまり今回の事件は、現代に甦った古い呪いの系譜なのです。興味深いのは、これがネット時代に再び拡散していること。2000年代初頭の掲示板に“同じ自分を見た”という書き込みがあり、それがまとめサイトを通じて若者に広まった。現代の都市伝説は、民俗の再生産と言えるでしょう。二重化の呪いは、笑い声や影といった曖昧な現象に依存しています。だからこそ、科学的に検証しにくい。だが歴史的に見れば、人が自分自身の“もう一つの存在”を見てしまったときに命を落とすという伝承は、世界中にあるのです。ドッペルゲンガー現象もその一つ。田村翔太さんのケースは、その現代版である可能性が高いと考えています」



<出演者のコメント>

司会者・佐藤啓介(ベテラン男性アナウンサー):

「ご覧いただきました……本当に謎の多い失踪事件ですね。スタジオの皆さん、どうご覧になりますか?」


お笑い芸人・田中マサル

「いや〜正直、めちゃくちゃ怖かったっすよ。夜道で笑い声が二重に聞こえたら絶対チビりますって!でもね、僕ら芸人仲間の間でも“自分の影が勝手に動いた”とか笑い話みたいに聞くことあるんですよ。もしかしたらこういう話って、思ってるより身近なのかもしれないっすね」


(テロップ:「芸人仲間にも“影”の体験が!?」)


女優・篠原美咲

「ええ……でも本当に行方不明なんですよね? これ……番組としては面白いですけど、実際にはお母さんが毎日チラシを配ってるって……それ考えると笑いごとじゃないですよね。なんか胸が苦しくなります」


(カメラ:篠原が目を潤ませる)


文化人コメンテーター・松永修二

「日本各地には“自分の影を見てはならない”という伝承が多く残っています。今回のケースもその現代的な表れだと考えると、決して笑って済ませられる話ではありません。民俗伝承がリアルな事件と重なる時、人は非常に強い恐怖を覚えるのです」


(テロップ:「伝承は現代にも生きている!?」)


ワイドショー常連弁護士・小泉理子

「ただ……冷静に考えると、これだけ証言が錯綜しているのに警察が動かないのは、それなりの理由があるんですよね。噂や都市伝説として片付けられてしまう。でも、母親の立場からすれば“呪い”でもいいから説明が欲しいはず。そうした家族の切実な気持ちを、私たちはどう受け止めるのかが問われています」


(テロップ:「母親の切実な願いにどう応える?」)


ジャーナリスト・村井和彦

「ただね、こういう事件って日本だけじゃないんですよ。海外にも“ドッペルゲンガー現象”ってありますし、実際に消えたケースも報告されてる。今回の番組映像には“放送事故みたいな異常”も混じってたでしょう? 僕はね……これは偶然じゃないと思いますよ。もう番組そのものが巻き込まれてるんじゃないですか?」


(スタジオが一瞬静まり返る → 効果音:ドンッ!)


司会者・佐藤啓介

「……はい。意見が分かれるところですが、視聴者の皆さんはどう思われますか? このあとも、さらなる証言をご覧いただきます」


録画は以上。

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