失踪者遺留メモ

1. 概要

発見場所:桜丘市・木造2階建てアパート 2階角部屋

発見日時:2019年3月27日 14:15

発見者:管理人(60代男性)

遺留物:1枚のメモ用紙(B6サイズ)、ポラロイド写真1枚



2. メモ用紙の状態と内容

机の上にポラロイド写真と並べて置かれていた。紙は上質紙で、片面のみに筆記痕。

記載は次のように、4つの短い文が順に書かれ、直前の文を激しく取り消す形で上書きされていた。


1. 「次はお前」

 - 深く紙をえぐるほどの筆圧。線が鋭く、字間が異様に均一。

 - 筆致分析の結果、直線部分の揺れがほぼ皆無で、人間の手首による自然なブレがない。

 - これは失踪者が書いたのではなく、調査班の分析では“ミラーくん”に関連するものと推測。


2. 「いや違う」

 - 1文目の上から黒インクで何度もぐしゃぐしゃと取り消し、その余白に記載。

 - 筆圧は弱く、線がかすれており、書き手が急いでいたか、手が震えていた可能性。

 - 失踪者本人が動揺の中で書いたものと見られる。


3. 「きた」

 - 2文目を塗りつぶし、その上に太く短く記載。

 - 再び筆圧が極端に高く、ペン先が紙繊維を裂いている。

 - 「き」の文字の始筆が紙端に食い込み、書き慣れた日本語筆記ではなく、形だけをなぞった印象。

 - 再び“ミラーくん”側の筆致。


4. 「見られてる」

 - 最終的に3文目を取り消した上から書かれている。

 - 文字の線幅が一定せず、筆圧が弱くなったり強くなったりを繰り返している。

 - 呼吸の乱れや恐怖からくる手の震えが痕跡として残っており、失踪者本人が最後に書き残したと考えられる。


※筆跡鑑定では、1・3は同一人物(失踪者とは異なる)、2・4は失踪者本人と一致。

※紙面には消した跡からインクがにじみ、長時間湿気を帯びた状態にあった可能性。



3. ポラロイド写真の内容

前景:机。メモが置かれているのが見て取れる。

背景:室内奥の廊下に、人影。


その影は失踪者と似た背格好。



4. 周辺調査結果

4-1. 隣室住民の証言

「あの日の夜10時過ぎくらいかな。壁の向こうから低く笑うような音が聞こえてきたんです。

 でもね、普通の笑い声じゃなくて、ほら…電動カミソリを空回しさせたみたいな、喉の奥でブルブル鳴ってる感じ。

 最初はテレビかと思ったけど、あの部屋の彼、夜はあんまり音出さない人だから…。

 それに続いて、窓の外を人影がサッと横切ったのがカーテン越しに見えました。背が…高すぎて、窓の上のほうを頭が通ったんです。あれ、普通じゃないですよ。」


4-2. 一階住民の証言

「帰宅したのは夜11時前だったと思います。見上げたら、彼の部屋の窓のカーテンが少し揺れてて、その向こうで影が二つ重なって動いてるのが見えました。

 一つは普通の人の動きなんだけど、もう一つは…なんというか、半拍遅れて同じ動きをしているみたいな。

 あの感じ、すごく気味が悪くて、足が早くなったのを覚えてます。」



5. 捜査関係者(刑事)の証言

「第一発見者から通報を受けて現場に入ったのは、通報の約15分後でした。

 部屋の中は、荒らされた形跡がほとんどなく、生活感はそのまま。

 ただ、空気が異常に湿っていて、春先とはいえ外よりも重く冷たい匂いが漂っていました。

 机の上に例のメモとポラロイド、それからキャップが外れたままの黒インクボールペンが置かれていました。

 椅子は机から少し引かれた状態で、そこから立ち上がって奥の廊下に向かったように見えますが、足跡は一切残っていません。

 床も乾いていて泥も埃も動いていない。まるで“存在ごと持ち去られた”かのようでした。」


6. 現場

玄関ドアには施錠の痕跡あり(内側からチェーンも掛かっていた)。

窓は施錠され、外側の雨戸も閉まっていた。

部屋の温度は外気より2度低く、湿度は85%。結露が壁紙にまで及び、手で触ると冷水がにじみ出た。


部屋の奥、ポラロイドに写っていた廊下部分には黒ずんだ痕跡が縦に続いており、指で触れると煤のように崩れた。


この黒ずみは壁からわずかに浮き出ており、人影の輪郭を思わせる形だった。



7. 防犯カメラ映像解析結果

アパート外階段の防犯カメラに、失踪当日の午後9時〜11時の映像が残っていた。

解析の結果、次の不審点が確認された。


1. 21:47

 失踪者が部屋に入る姿を確認。買い物袋を片手に、もう片方の手でポケットを探る仕草。

 この時点では異常なし。


2. 22:18

 階段下の暗がりに、背の高い人物が立っている。顔はカメラの死角。

 失踪者とほぼ同じ衣服だが、体型が微妙に縦長。動かず、約4分間立ち続ける。


3. 22:22

 突然、映像のフレームが1秒分欠落。

 欠落後、背の高い人物は画面から消えており、同時刻に失踪者の部屋の明かりが一瞬暗くなっている。


4. 22:41

 2階廊下の端、失踪者の部屋前に“二重にずれた影”が現れる。

 片方はすぐ動くが、もう片方は0.5秒遅れて追従。

 この影はドアの外で止まり、映像が再び2秒分欠落した後、跡形もなく消えていた。

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