【完結】氷の天才少女、退屈を砕く

冥界焔つむぎ

圧倒的な日常

# 氷の天才少女、退屈を砕く


**~退屈なんて、氷で砕いてやる! 最強少女の無双魔術、ここに開幕!~**


## 第一話 圧倒的な日常


王都の魔術研究塔、午前の定例研修の時間。広い演習場に並ぶのは、今年度の新任宮廷魔術師たち。全員が20歳を超えた選ばれしエリートたちの中で、ひとり異質な存在がいた。


「ヴェルザード・シルヴァリス、16歳」


銀髪に蒼い瞳、小柄な体躯に白を基調とした宮廷魔術師の制服を身に纏った少女。彼女だけが飛び級で宮廷入りを果たした天才児である。


「今日は量子魔術学の実習を行う」


指導官のマクスウェル上級魔術師が告げると、同期たちの表情に緊張が走る。アルティウス・ブレイザーが活躍した時代から魔術理論は大きく発展していた。ガロン・バーサーカーの提唱した革命的理論「原始回帰術」は今やエリート魔術師の常識となり、新たに台頭した「量子魔術学」が宮廷で流行の兆しを見せていた。適応できる者とできない者、新理論は魔術師の格差を広げつつあった。


「量子魔術学は魔力を量子レベルで操作し、確率論的効果を狙う理論だ。まずは基礎的な確率操作から始める」


同期の魔術師たちが額に汗を浮かべながら術式を構築する中、ヴェルザードは退屈そうにあくびをしていた。


「シルヴァリス、君も参加したまえ」


「はーい」


ヴェルザードが軽く手を上げると、演習場の空気が一変した。彼女の周囲に淡い蒼い光が漂い、それが瞬時に複雑な幾何学模様を描く。量子魔術学の高等術式である「確率制御陣」が、まるで呼吸をするかのように自然に展開された。


「これは…上級者向けの術式じゃないか」


同期の一人が驚愕の声を上げる。ヴェルザードは首を傾げる。


「え?これって上級なんですか?基礎って言ったから、これくらいかなって」


マクスウェル上級魔術師の顔が青ざめる。確率制御陣は彼でさえ完全な構築に10分はかかる高難度術式だった。


「じゃあ、もうちょっと複雑にしてみますね」


ヴェルザードが指先で空中に文字を描くと、確率制御陣が立体的に展開し始める。同時に氷の結晶が無数に生成され、それぞれが異なる確率で存在と消失を繰り返す。量子魔術学と氷魔法の融合術式—そんなものが存在するとは誰も想像していなかった。


演習場に深い静寂が落ちる。同期たちは呆然と立ち尽くし、指導官すら言葉を失った。


「あ、やり過ぎちゃいました?」


ヴェルザードが術式を解除すると、氷の結晶が美しい音を立てて消散していく。彼女の表情には、わずかな退屈の色が浮かんでいた。


---


数日後、ヴェルザードは研究室で新たな理論書を執筆していた。「超電導臨界氷結理論」—量子魔術学と氷魔法を融合し、物質を絶対零度に近い状態で制御する新しい魔術体系である。


「分子の運動を止めて、魔力を超電導状態で流す…これならエネルギー効率は無限に近いはず」


彼女の筆は滑らかに動き、複雑な数式と術式図が紙面に踊る。この理論を完全に理解できる魔術師は、おそらく世界に数人しかいないだろう。そして実際に使用できるのは—


「まあ、私の魔力ならできるけど…実用化は面倒かな」


ヴェルザードは軽やかに笑う。理論は完璧だった。しかし必要な魔力量は常人の数百倍、実現難易度は魔王級。誰も使いこなすことなど不可能な、彼女だけの専用理論である。


      ◆ ◆ ◆


## 第二話 本気を出せない少女


ヴェルザードには秘密があった。幼少期から、彼女は自分の魔力を意識的に抑制し続けている。


理由は単純だった。彼女が本気で魔術を使えば、その余波だけで街一つを吹き飛ばしてしまいかねないからだ。5歳の時、初めて氷魔法を使った際、彼女の生家の領地は一夜にして氷河に変わった。それ以来、彼女は自分の力を制御することを学ばざるを得なかった。


今では魔力の制御は完璧になった。あまりにも完璧すぎて、対人戦では無意識に相手の魔力レベルに合わせて自分の力を抑え込んでしまう。


「つまんない」


宮廷の図書館で、ヴェルザードは古い魔術書を読みながらため息をついた。どの魔術も彼女には簡単すぎる。どの理論も彼女には物足りない。


「本気で戦えるような相手がいればいいのに」


彼女の呟きに、近くで本を読んでいた同期の魔術師が振り返る。


「シルヴァリス、君がそんなことを言うなんて珍しいな」


「あ、ライナーさん。私、退屈で死にそうなんです」


ライナー・ケドリック、空間魔術の専門家で同期の中では比較的ヴェルザードと会話の多い青年だった。


「それなら良いタイミングだ。明日、エルドリア王国の騎士団と合同で魔獣討伐任務がある。時空術師のクロノス・ヴェリテが参加するから、君も同行してみないか?」


ヴェルザードの目が輝く。


「時空の術…面白そう!」


---


翌日、王都から北へ半日の距離にある森林地帯。エルドリア王国第三騎士団と宮廷魔術師の合同部隊が、巨大な魔獣の討伐に向かっていた。


「時空の術について説明しよう」


隊列の中を歩きながら、クロノス・ヴェリテが解説を始める。彼は30代前半の男性で、時空術の第一人者として知られていた。


「時空術は時間と空間を操作する魔術の総称だ。空間の歪曲、時間の加速・減速、さらには限定的な時間遡行まで可能とする。しかし」


クロノスの表情が厳しくなる。


「必要な魔力量は膨大で、精神的負荷も極めて高い。一つの術式を使うだけで、熟練した魔術師でも1日は動けなくなる」


「へぇ~」


ヴェルザードは興味深そうに頷く。


「時空の術って氷魔法と相性いいかも。時を凍らせて、空間を氷で固定する…面白そう」


クロノスは苦笑する。理論的には可能だが、実現するには常人の数十倍の魔力が必要だろう。


森の奥で、ついに目標の魔獣が姿を現した。全長10メートルを超える巨大な岩竜である。


「総員、戦闘態勢!」


騎士団長の号令と共に、魔術師たちが術式の構築を始める。ヴェルザードは少し離れた木の上に座り込み、戦闘を眺めていた。


「うーん、私が本気出せば3秒で終わっちゃうんだけどなぁ」


代わりに、彼女は仲間たちの戦い方を観察することにした。特に、クロノスの時空術に注目する。


戦闘が激化する中、騎士の一人が岩竜の攻撃に追い詰められた。


「クロノス!時間減速を!」


「無理だ!魔力が足りない!」


絶体絶命の瞬間、ヴェルザードが木から飛び降りる。


「やり方、教えてもらえます?」


「え?」


困惑するクロノスに、ヴェルザードは微笑みかける。


「時間減速の術式構築、見よう見まねでやってみますね」


彼女が手を翳すと、周囲の時間の流れが急激に遅くなる。岩竜の動きがスローモーションになり、騎士は余裕で回避できる。


「こんな感じですか?」


「…君、一体どれだけの魔力を…」


クロノスは愕然とする。彼が全力で行う時間減速術を、ヴェルザードは呼吸をするように軽々と使いこなしていた。


「でも、一人だと大変ですよね。みんなで協力すれば楽になりますよ」


ヴェルザードは騎士団の魔術師たちに向かって言う。


「量子魔術学を使って、確率的に魔力を共有すればいいじゃないですか。私が媒介になりますから」


彼女の指揮の下、魔術師たちは見事な連携を見せる。量子魔術学による魔力共有、時空術による戦術的優位、そして各自の専門魔術の組み合わせ。ヴェルザード自身は一切攻撃に参加せず、ただ仲間たちをサポートするだけだった。


それでも、岩竜は完全に翻弄され、ついに討伐された。


「信じられない…」


クロノスが呟く。史上最年少で、しかも人間でありながら魔族すら上回ると噂される魔力を持つ少女。彼女の正体を、クロノスは今初めて理解した。


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