第6話 壊れたもの

 天羽が死なずに済んだ。そのことだけはホッとしている。だけどあたしは自分がやってしまったことの恐ろしさに身震いを覚えていた。学校側は事件を隠蔽したくて必死だったらしく、あたしたちウソコク組は自宅謹慎を命じられていた。


「こんな程度でいいの?」


 綿島の家が雇った弁護士が強いらしく子供の権利なんかを主張してあたしたちを守っているらしい。親から聞いたには、天羽側からのレスポンスがないようで、このまま逃げ切るつもりらしい。ただ転校をすることにはなるだろうと弁護士は言っていた。


「いいわけないよぅ」


 ベットの上で足を抱えながら、あたしはただ唸ることしか出来なかった。せめてできることがしたい。あたしは親が仕事に出ている間に家を抜け出して、天羽が入院している病院に向かった。


「面会は駄目なんですか?」


「親族以外の面会はきょかされていません。お引き取りください」


 門前払いだった。だからあたしは病院のエントランスに座って待つ。するとしばらくして一人の男性がやってきた。


「天羽達一郎です。面会を希望します」


 天羽という苗字を名乗った。もしかしたら天羽のお父さんかもしれない。あたしは思い切って声をかけた。


「あの!天羽くんのお父さんですよね?」


 男は首を傾げていたが、はっとした表情をして。


「君はジョゼの学校の人だね」


 あたしは頷く。男の人は嫌そうに顔を歪める。


「私はジョゼの父ではなく叔父だ。それよりもどうしてここに?」


「その様子を知りたくて」


「あんなことがあったのに?」


 強く睨まれる。でもあたしは目を反らさない。


「あたしが悪いんです。だから」


「なるほど。こうなった原因の一人か。なら尚更会わせられない」


 強い拒絶の意思を感じた。


「ジョゼが自殺するように追い詰めた者を会わせられるわけがない。常識を考えて欲しい」


「あたしはそんなこと望んでなかった!」


「でもそうなっただろう!」


 大きな声で怒鳴られる。だけど引けない。


「会いたい!会いたいの!」


 あたしは駆けだす。病院の廊下を走って天羽のいる病室に向かう。そしてなんとか追いつかれる前に見つけた。そしてそこへ入る。


「天羽!!」


 彼はベットの上に座っていた。全身包帯でぐるぐる巻き。窓の外を見ていた。彼の前に立つ。


「ねぇ。天羽。本当にごめんなさい。でもあたしは」


「ジョゼに関わるな!」


 警備員を引き連れた叔父さんがあたしを羽交い絞めにする。


「天羽!返事して天羽!」


 天羽は虚ろな瞳でボーと外を見続けている。あたしは視界に入っていない。こんなに騒いでいるのに。


「すぐに外へ!」


 警備員さんと叔父さんに外へと連れていかれる。


「今のを見ただろう?」


「天羽、返事してくれなかった。なんで」


「自分のことばかり考えるな!彼の心を壊したくせに!」


 その言葉に体が震える。たしかに傷つけたのは間違いない。だけどそこまで。


「彼はブラジルで両親を目の前で殺されてる!その上今回の騒ぎだ!心が駄目になってもおかしくないだろう!」


 息を飲む。あの時、家に遊びに行ったとき、両親は出かけてたんじゃない。もうこの世にいなかったんだ。


「体だけじゃない。心もボロボロだ!叔父の私や私の娘や息子たちにもなんの反応も示さない。感情が鈍磨して何もできなくなってる。哀れ過ぎる。こんなのおかしい」


 叔父さんは泣いていた。


「ジョゼを追い込んだ者たちを何とかしたい。でも彼が何もできないんじゃ。手の打ちようもない。仇すら取ってやれない」


 あたしは取り返しのつかないことをした。人を壊した。天羽を壊したんだ。思わず泣いてしまう。


「君に泣く資格なんかないだろう!」


 叔父さんに頬をはたかれる。


「いますぐに消えろ!ジョゼの前に二度と顔を出すな!」


 そのあとはよく覚えていない。すぐに家に帰った。そして次の日にあたしは学校に退学届けを出した。せめて何を失って天羽に近づきたかったから。

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