雨音家の家政夫くん ~偶然出会った美人四姉妹は、私生活に難ありのポンコツ姉妹でした~
@HaLu_
第1話 ようこそ雨音家へ ①
後5分でバイトの時間になってしまう。だというのに交差点の長い信号に捕まってしまい、スマホの時計を睨むことしか出来ない。これ以上の遅刻はマズイ。今日こそ遅れるわけにはいかない。
だというのに……
「ねえお姉さん?これから暇?よかったら俺達と遊ばない?」
「好きなだけ奢るからさ。な?ちょっっとだけ!」
信号待ちしている俺の背後で絶賛ナンパが行われていた。チラリと振り返ってみるとなんともチャラそうな男2人が制服を着ている女子に声をかけている。
女子が着ている制服はここら辺では有名なお嬢様学校のもので、茶色く長い髪を靡かせている女子の立ち姿からも気品を感じるような気がする。だからこのナンパに嫌気でも指しているだろうと心配して聞き耳を立てていたのだが…
「それは奇遇ですね!私も……ゲームセンター?というところに行きたかったんです!是非案内をお願いします!」
「お、おぅ………」
まさかの同意。男側がナンパをしているとすら認識してないような純粋っぷりに声をかけた男の1人すらも思わずたじろいでいた。
「………ゲーセンより楽しいとこ案内してあげようか?」
「なんと!そのような所があるんですか!」
その純真無垢さを利用しようと考えたのか男の1人がなんともゲスな声で提案した。疑うことを知らないお嬢様はその話に乗り気になってしまっていた。
どう考えても騙されている。でも本人も嫌がってないから俺がとやかく言えるような事ではなさそうにも思える。ナンパ側が奇跡的に良い奴らという可能性だってある。
でも最悪の場合は……まぁそういうことになるだろう。脅されたり、金銭を要求されたりと話が広がるかもしれない。
「いいね意外とノリいいじゃん。じゃあ行こっか」
「はい!楽しみです!」
いつの間にか信号が青に変わっていた横断歩道の前で俺は動けないでいた。バイトには今から走ればまだギリギリ間に合う。ナンパは聞かなかったことにすれば俺に損はない。何もない可能性だってあるんだから。
だから…………
「すんません!」
「え?」
「は?は、おい!!」
自分に言い訳を重ねて駆け出した足はバイト先とは反対の方向に向いており、ナンパされていた女子の手を無理矢理掴んで強引に引っ張った。
「え、え?どうされたのですか!?」
「いいから!走って!」
困惑している女子を連れてひたすらに走った。しばらくして振り返ってみたが男達は追ってきている気配はまるでなく、取り越し苦労だったかもと走るのをやめた。
「えっと…もしかしてナンパさんですか?」
「いや……ナンパなのはどっちかと言えばさっきの…………あーまぁ俺も変わんないか」
この期に及んでまだ呑気なことを言ってくる女子からナンパだと勘違いされてしまった。急に手を掴んで引っ張ったのだから当人にしてみれば似たようなものではあるが。
「…………あのですね。お嬢様だから普通の世間を知らないのかもしれませんけど、ああいう男は危ないですからね?簡単に着いてったらダメですよ」
「危ない……?」
若干の嫌味を込めて女子に声をかける。だが女子はまだ何がなんだか分かってないようだった。これまでどうやって生きてきたんだ。
「ゲーセンとかならまだ良いですけど、カラオケとか個室はダメですからね。酒とか…薬とか飲まされますよ?」
「お酒だなんて……私は未成年ですよ!?」
「そういう問題じゃなくて!それを分かっててやるような男もいるって話!」
「な、なんでそんなことを………」
「……マジか」
危ない男が女に個室で酒や薬を飲ませてやることなんて1つしかないだろうに、それすらも思い付かないほどに純粋な女子にどう伝えたものかと悩んでいると、女子は「分かりました!」と勝手に納得し始めた。
「つまり貴方は私を助けてくれた……ということですね!」
「……………一応」
「ありがとうございます!」
疑いを知らないかような笑顔で感謝され、俺はこッ恥ずかしくなりながらもそれを受け入れた。
「……今度からは気をつけてください」
「はい!気を付けます!」
住んでる世界が違うのがひしひしと伝わってきて、それが嫌になってきた俺はその場から立ち去ろうとした。するとポケットに入れていたスマホに着信がかかってきて、確認してみるとバイト先からだった。
「やっば!!!」
時間を確認すると既にシフトの時間は過ぎていた。俺は急いで電話に出て、開口一番に謝罪をした。
「すいません!もうすぐ着きます!」
『………あーそういうのいいから。これで何回目だと思ってるの?もう来なくて良いよ』
「え、ちょっ……!!」
怒りよりも呆れが現れていた店長からクビ宣告をされ、アッサリと通話を切られてしまった。
「…………どうかされましたか?」
その様子を先程の女子に見られており、心配して声をかけられてしまう。急いでバイト先に向かいたかった俺は少しやけになりながら言葉を返した。
「急いでるんで!また後で!」
「あ、はい………」
適当に「後で!」と返したものの、会うつもりなんてサラサラなかった俺は急いでバイト先に走った。こうなったら直接土下座しかない。そうすればお情けを貰えるはずだと信じたかった。
「はぁぁぁ…………」
ダメだった。話しすらさせてもらえずに門前払いされてしまった。どうしよう。また新しいバイトを探さなければ。でもこれ以上近場で良い条件のバイトなんて見つかる気がしない。あまりに遠すぎると帰りが遅くなってしまうし、それでは元も子もない。
「どうかされましたか?」
「うぉっ!?」
これからをどうしようかと走った道を戻りながら悩んでいると、さっきの女子に声をかけられた。
「え、なんで……」
「え?貴方が『また後で』と仰ったので……待っていたのですが…………」
「あー……あはは…」
あまりの純粋さに笑いすら込み上げてくる。もう急ぐ必要もなくなった俺は折角だからとその女子にここまでの流れを話すことにした。
「バイト……仕事をクビになったんです。遅刻が多いからって」
「あらあら……ちなみに何回ほど?」
「…………今日で4回目です」
「…………意外とおっちょこちょいさんなんですね。それとも何か理由があるのですか?」
確かに遅刻をしたという事実だけで見るなら俺が悪い。だが俺にも一応はそれなりの理由はあるのだ。店長にはまるで信じてもらえなかったが、聞かれたからには話すとしよう。
「1回目は産気付いた妊婦さんを介抱してたら遅刻。2回目は荷物を頑張って運んでたおじいちゃんの手助けをしてて遅刻。3回目は道に迷ってた外国の人を案内してて遅刻。今日は貴女を助けてたら遅刻です」
自分でも話していて嘘にしか聞こえない。けれど何もかも真実なのだ。しかも前のバイトでも同じような理由でクビにされた。その前も。
そういう場面に何回も遭遇してきた。その度に今回は助けられないと自分に言い訳しながらも結局は体が動いてしまっていた。結果としてバイトはクビの連続。そうはならないように早めに家を出ているのにいつの間にか時間を過ぎている。
「……………すごいです。立派です」
「……へ?」
誰からも信じて貰えなかった俺の人助けエピソードを聞いて、馬鹿にするわけでもなく褒めてくれたその女子の言葉に俺は気の抜けた返事しかできなかった。
「もし、それらの場面に私が遭遇したとして、同じように動けるなんて思えません」
「…………あざっす」
「ところで……もしかして新しいお仕事をお探しではないですか?」
「ま、まぁ……探してはいますけど……」
褒められたかと思えば、いきなり仕事を探しているかと尋ねられる。怪しさは感じるがこの女子がそんな商売を出来るとも思えない。何よりも今の俺は藁にもすがりたい気持ちでいっぱいだ。違法じゃないならなんだってする。
「心優しい貴方にピッタリの……良い仕事がございます。着いてきてもらえますか?」
「………はい」
俺は女子からの提案を受け入れ、後ろを着いてった。しばらく歩いてやってきたのは住宅街の一角にあるそれはそれは大きな二階建ての一軒家。俺ん家よりも5倍くらい広い。
「どうぞ」
「………どうも」
そんな大きな家の広々としたリビングに通され、大きな大きなソファに座らされた。俺が今まで座ってきた椅子のどれよりも柔らかい。マジでここで寝れる。朝まで熟睡コースだ。
「コホン。では単刀直入に言いますが……」
「おっかえり
向かいのソファに腰かけた女子が話をしようとすると、気の抜けた声と共にズボラな格好をした女性がリビングに現れた。下はジャージに上は肌シャツ。髪は女子と同じく茶色で、なんとも女性らしい体つきをしているから目のやり場に困る。
「違いますよ
「だったらなんなのさ?」
ズボラな女性から当然の疑問を投げ掛けられた目の前の女子は、何故か誇らしげな表情で答えた。
「今日から雇うことになった家政夫さんです」
「「家政夫!!?」」
女子の発言に俺とズボラな女性は2人揃って驚きの声をあげた。ここまで着いてきておいて今更かもしれないが、家政夫はいくらなんでも唐突すぎるだろう。
「……ただいま」
なんてやり取りをしているとまた別の女性の声が玄関を開ける音と共にしてきた。2人に比べれば少し低めの中性的な声だ。
「ねえ美樹。男物の靴があったけど誰の……誰!?」
「いやいや私も知らない!!和葉がなんか連れてきたの!!」
「え!?う、嘘だよね和葉!?」
「落ち着いてください
人が増え、更に話がややこしくなってきた。新しくやってきた凛花と呼ばれた女子は、和葉と呼ばれている女子とは違う制服を着ている。2人と同じく茶色い髪は少し短めで、ボーイッシュな印象を受ける。
「ただい…………ッ!?ちょっと!!!」
事態が収まりきれなくなっていたところに追撃が入る。またしても玄関が開けられた音と共に今度は幼めな女性の声がしたかと思えば、大声を出しながらリビングにやってきた。
「誰の!!!あの靴!!!」
「「和葉が連れてきた人の」」
「はぁ!!?和葉姉ってば正気!!?そんなっ、男とかっ…………変なことされるよ!?」
「もぅ…はしたないですよ
「か、かかか家政夫ぅ!!?」
勢いよくやってきたのは女性達の中で一番背が低い女子で、一番動揺しまくっていた。制服を着ているがこれまた他の2人とは違う。髪はもちろん茶色。話している内容から察しがついているが恐らくはこの4人は姉妹ということなのだろう。
「…まぁ丁度良いですね。皆揃いましたし、改めてご説明いたします。貴方には私達姉妹の家政夫としてこの家で働いて欲しいのです……すいませんお名前を聞いてませんでしたね」
「あ、俺は……
「朝陽くん……うん。良い名前です」
今更な自己紹介に女子は優しく微笑むと、スッと立ち上がって集まっていた他の3人の元へと向かった。
「紹介します。こちらは長女の
「ども~」
「……はじめまして」
「ふんっ!!!」
まさしく三者三様の返事。姉妹とは言うがまるで似ていない。髪の色が同じなくらいだ。
「そして私が三女で、貴方の雇い主でもある和葉。
「お、お願いします……」
そう深々と頭を下げられ、俺もすぐに立ち上がって頭を下げ返すことしか出来なかった。
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