第51話 2年生最後の教室

 クリスマスイブの日に終業式があり冬休みに入った。

 家族でクリスマスを祝った翌朝、枕元には僕が持っている携帯ゲームキラーの会社が去年発売した家庭用ゲーム機を貰った。前の地球での記憶では、携帯音楽プレイヤーで有名な会社が発売したゲーム機に押されてあまり売れて無かった記憶がある。

 ただ父さんと母さんにとっては家庭用ゲーム機と言ったらそのメーカーという思いがあるらしく、前の地球でもこのゲーム機が枕元に置かれていた。


 ソフトは配管工の兄弟が魔物を倒しながら姫様を助けに行くものが付いていた。

 僕が試しに遊んでいる後ろから、「今はゲームがこんなに進歩してるのねぇ」と母さんが呟くのを聞いて、前の地球と同じだと思って懐かしく思った。

 そういえば前の地球では学校から帰ると母さんがそれで遊んでいる事が結構あった。けれど春休みに入る直前に急にぱったり遊ばなくなった。

 その頃から前の地球に母さんは浮気をしていたのではと思う。


 でもこっちの地球では、父さんが帰って来たあと、父さんと母さんが一緒にソファに座ってそのゲームを遊び始めた。

 前の地球と違って父さんは職場が変わった事で早く帰るようになり、こうやって母さんと過ごす時間が増えていた。

 僕は、明日、将来の義祖父母の家に行くために早く寝ておこうと思いながら、前の地球のような事はもう心配しなくて良さそうだと思っていた。


 翌日、電車を使い将来の義祖父母の家に行き、ミサキと遊び、年末年始の休みに入った父さんに迎えられる形で母さんの実家に行った。

 ミサキも付いてきたがったけれど、年末年始の家族団欒に水をささないよう、夏休みのようには連れて行かなかった。


 ツバサは相変わらずサッカーが好きらしく僕がミサキと遊んでいるとボール蹴りに誘いに来た。ボールはサンタから貰ったというおもちゃではないサッカーボールになっていた。

 冬になって頭の汗疹が治まったのか髪が無造作ヘアに戻っていて、夏よりイケメンになっていて、ミサキと惹かれ合ってしまわないか心配になる。

 まぁ、まだ幼稚園にも通って無いのでそういう自覚は無いと思うけど、この情報化社会。そういう知識を得て早く目覚めてしまう可能性はある。


 母さんの実家では、ミサキに将棋盤占領されずに済んだため、父さんと祖父さんが時々酒を交えながら将棋を打っていた。

 母さんは相変わらず上げ膳据え膳の実家モードでミコトの世話を時々しながらのんびりしていた。


 三学期に入り、相変わらず席替えあるも班のメンバーは同じだった。

 授業は前の地球の記憶があるので相変わらずイージーモードだ。


 自国開催の冬季五輪が開催されたけど教室で関心は低い。これを契機に景気後退のムードをあげたいらしく、テレビ局は盛んに煽っているけれど、世間の風は冷たく、新卒生の就職内定率が最低を更新したと新聞に書かれていた。


 そんな中、学校では予マラソン大会が行われた。ランニングを続けていた成果で学年1位を取ることが出来ていた。おかげで学年末の成績表で始めて体育に三重丸を貰えた。


 3年生にあがると大きくクラス替えがある。班のメンバーもバラバラになるだろう。


 ただそれを悲しがるような雰囲気は誰も持っていない。それで交友関係が途切れたりするものだけど、それを寂しいと思えるほど、人生経験はないし実感が持てないのだと思う。


 ただ僕は少しだけ、またねと言って終業式後のクラスを出ていくみんなを見ながら、少しだけしんみりとした気分になっていた。


「ミコト〜、帰ろうぜ」


「ちょっと用事があるから先に帰ってよ」


「そうか?じゃあまたな」


「うん」


 タケル君がヤマト君と帰宅の誘いに来たけど、僕はそれを断り机に座った。


「帰らないの?」


「少し教室に残るよ」


 そんな僕にシオリちゃんが声をかけてきた。


「何か用事があるの?」


「ううん、このクラスの最後を見ておきたいんだ」


「ふーん……」


 そう言ってシオリちゃんは背負っていたランドセルを置いて、僕の隣にある自分の席に座った。


「迎えは待たせても良いの?」


「うん」


 シオリちゃんは生徒が学校から出ていき、少しづつ廊下から響く音が少なくなっていく教室の気配を感じている僕の顔をじっと見ていた。


「ミコト君っておばあちゃんみたい」


「おばあちゃん?」


「うん、ホームパーティーが終わると、最後のお客さんが帰るまで椅子に座って、じっと見送ってるんだよ」


「へぇ……」


 こういう寂しさを感じるのが好きなのだろうか。


「一期一会だよって言ってた」


「えっ?」


「どうして座ってるのって聞いたらそう言ってたの」


「一期一会か……」


 なるほど、僕が寂しく思っているのは、教室のみんなとの一期一会が終わった事を感じているからか。


「ミコト君は意味が分かるの?」


「うん」


 シオリちゃんはまだ理解出来ない感性かもしれないな。


「教えて?」


「うーん、結構難しいよ?」


「うん、でも教えて」


「うーん……、分かった。ちょっと考えるから待ってて」


「うん」


 シオリちゃんとこうやって2人でいるのは久しぶりな気がした。一期一会が今起きている気があいて、僕はこの時間を大切にする事にした。


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