第48話 九九の授業
母さんの実家から将来の義祖父母の家に向かい1泊の後に東京に帰った。
将来の義祖父母の家から出発する時、ミサキは泣いていたけれど、大声で泣き叫ぶ事は無く、僕を見送ってくれた。
ツバサもおもちゃのサッカーボールを脇に抱えながら見送ってくれた。心の整理がついたのだろうか。それとも僕がいない間にミサキを落としてやると挑発しているのだろうか。
東京のマンションに帰ったあとは、ノートにメモした将来の義実家の近くを流れる一級河川の石の観察記録をパソコンに打ち込んで軽いレポートに仕上げた。前の地球の大学でレポートを書いた時に比べたら簡単なものだった。
夏休みが終わり1年生の時と同じく始業式の日に避難訓練があった。そして班変えがありいつもと同じメンバーで班を作った。
2学期から算数で九九が始まった。前の地球で一回学んだ知識がある僕からすると簡単だ。
クラスメイト達も着実にクリアしている。私立の小中高一貫校に通うだけあってみな優秀だ。既に習い事や家庭教師に習ってクリアしている生徒もいるぐらいだ。
九九は小学校2年生最大の難関だと思う。これを覚えないと3年生から学習する分数や小数にはついてこれず落ちこぼれてしまう事になる。前の地球で通った公立の小学校では九九につまずき、ずっと算数が出来ない生徒がいた。ただ、この学校についてはそれはあり得ないようだった。
九九を覚えてしまった生徒は、プリントをやらされる。九九は音で覚えさせられるので、それを文字で書かれたものからパッと思い浮かべられるようにする反復練習なのだろう。
一桁の掛け算はパッと見てパッと分かるものだ。しかもこの体は頭がいいらしく、2桁以上の掛け算でもほぼ一瞬で答えが頭に浮かんで来る。
ただパッとプリントは答えで埋まらない、筆記速度というタイムラグがあるからだ。ただ小学校2年生で出されるテストでは筆記速度が必要となるような問題量は無い。プリントを埋めたあと、ゆっくりと窓の外を眺めながら時間をつぶす事になる。
窓の外に見える校庭では5年生のどこかのクラスがサッカーをしていた。1クラスで4チーム作られ、2コートでボールを追っているようだ。
体育の授業科目の団体競技はある程度教員に裁量権がある。ワールドカップの日本代表が本選に出場する事が決まった事で、子供達にもサッカーにあこがれる子が増えている。教師も子供達のモチベーションのためにそれをさせていると思われる。
ポジション的な事は決まっているらしく、キックオフの時はある程度の配置についているものの、始まるとキーパー以外が全員ボールに向かってしまう。ジュニアユースや少年サッカーチームに所属している生徒は圧倒的な小数なので。ゾーンプレスとかオフサイドトラップとかそういう作戦を前提に動ける生徒は少ないのだろう。
ボールに群がる生徒たちを見ていると、将来の義祖父母の家の前でツバサとおもちゃのサッカーボールで遊んだ事を思い出す。ミサキともサッカーボールの奪い合いとかしているのだろうか。
年齢的にありえない事だけど、ミサキとツバサがイチャイチャしている光景が思い浮かんでモヤモヤした気分がしてくる。
「今日はカレーかぁ」
お昼時間前の授業という事もあり、給食室からカレーの匂いが漂って来た。私立の学校では給食が無いところもあるけれどこの学校は校舎内で調理が行われている。グラウンドにもこの匂いが漂っていたら、さぞ生徒たちはお腹を鳴らせているだろう。
「ミコト君終わったの?」
「うん」
「早いね~」
「うん、もう知ってたからね」
「すごいんだ~」
シオリちゃんもプリントやっているので、1の段から9の段まで全部覚えた先行組だ。けれど回数をこなしてパッと出て来るようにはなっていないらしく、7×4の問題を「シチイチガシチ、シチニジュウシ……」と呟きながら説いている状態だった。
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