第45話 婚約しました

 父さんがお盆休みに入り、母さんとミコトを連れて将来の義祖父母の家にやって来た。


「ミコトは我が儘言いませんでしたか?」


「いえいえ、ミサキの面倒をよく見てくれて、本当に助かりますよ」


 携帯電話で3日に1回、うまくやってると報告すているのに信用されていないのだろうか。


「この子だれ?」


「ミコトの妹のコトミよ?春にも一回会ってるのよ?」


 ミサキはコトミに会った時の事を覚えていないらしい。

 ただこうやって反応したのをみると、赤ん坊である時期が終わり、自我の芽生えが起こっているという証拠なのだろう。


「遊ぼ〜」


「チュバシャ! ちっちゃい子!」


「ん?」


 ツバサはまた勝手知ったるで遊びに来たらしい。


「あっ、コトミだ」


「知ってるの?」


「にーちゃんの妹だよ、前にも会っただろ?」


「ちらない」


 ツバサは春にコトミとすれ違うように一瞬会っただけだけど覚えていた。しかも名前までだ。「フッ……、一度会った女性の名前は忘れないさ」とか、「君のような美しい女性の名前を忘れるわけ無いだろう?」というイケメンスキルを搭載してるというのか?


「へへっ……、プニプニしてて可愛いな」


「仲良くしてね?」


 こいつ「フフ……、君のほっぺはマシュマロのように柔らかいね、食べちゃいたいぐらいだよ」を搭載しかかっているのか!?ミコトは貴様のような軟派な男にはやらんぞっ!?


「何、ツバサちゃんを睨んでるの?」


「えっ?」


「まぁ、ツバサちゃんはミサキちゃんとも仲が良いものね。でも嫉妬する必要は無いんじゃない?」


「そんな気持ちは無いよ?」


 実際はメラメラとツバサに嫉妬しているけど、それをここで言うのはカッコ悪いしな。


「我々もミサキがミコト君と繋がっているのを理解しました。相川さんの話、お受けしようと思います」


「本当ですか!?」


 そう、僕の勝利演出が現在進行形で行われているからね。

 

「では、正式な話はまた後日」


「えぇ、イッテツ様にも宜しくとお伝え下さい」


 イッテツは祖父ちゃんの名前だ。いつの間に縁が出来たんだろう。


「父さんと母さん、6月に温泉宿に泊まりに行ったそうよ。そしてミコトとミサキちゃんの婚約の話を詰めてくれたの」


「えっ?そうだったの?」


 どうやら今日の勝利の背後に、祖父ちゃんと祖母ちゃんの暗躍があったらしい。


「にーちゃん、婚約って何だ?それはおでんの具か?」


「それはコンニャクだよ」


 まぁお子さんのツバサには婚約なんて言っても理解できないか。


「ミコトとミサキちゃんが、将来結婚するという約束をするって事よ?」


「ん?にーちゃん、ミサキと結婚するのか?」


「ミサキが大きくなったらね」


 さすがに今の年齢じゃ法的にも倫理的にも結婚は出来ないしね。


「これからもミサキを宜しく頼みます」


「はい、こちらみ末永く宜しくお願いします」


 これでツバサがミサキに告白しても。ミサキは「私、将来を誓い合った人がいるから……」と断ってくれるに違いない。


「僕と結婚するんじゃないの?」


「複数人と結婚は出来ないからね、ツバサとは結婚出来ないよ」


「……兄ちゃんのバカぁっ!」


 そう言うと、ツバサはダダダダっと縁側から外に飛び出して行った。

 ミサキを僕に取られてしまって悔しかったようだ。


「ミコトは罪作りな事をするのねぇ?」


「仕方ないよ。僕はミサキが好きなんだから」


「そうねぇ……」


 兵は拙速を尊ぶ、恋愛もまた然り。孫子の兵法は恋愛にも通じると、前の地球の僕が見たアニメで聞いた言葉だ。


「にーちゃ、チュバシャは?」


「僕とミサキが結婚すると聞いてショックを受けたみたい」


「ケッコン?」


「僕とミサキは、将来じいちゃんとばあちゃんみたいな夫婦になるんだよ」


「しょうなの?」


「うん」


 そう言うと、ミサキはツバサが駆けて行った縁側をじっと見た。

 これって、ミサキがツバサと将来思い合って駆け落ちとか考えちゃったりるす流れ?

 それって滅茶苦茶悲しすぎるんだけど……。

 無いよね?僕と結婚するよね?ちゃんと会いに来るから、書き置きとかしていなくなったりしないでよね?


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