第5章:大祈祷

神殿前の大広場は、人で埋め尽くされていた。


白い石畳の上にぎっしりと立ち並ぶ民衆の祈り声は、波のように広がり、神殿の高い尖塔を震わせていた。


巫女たちは神官に導かれ、列を組んで祭壇の前に立つ。


その中に混じるセラは、緊張で息を詰めながらも、カナの姿を目で追った。


妹は群衆の中にいた。


目を輝かせ、両手を胸の前で組み、ただひたすらに「神の声」を待っていた。


──やがて、場を包む沈黙。


誰もが耳を澄まし、次の瞬間に降りてくるはずの言葉を待った。


だが、来ない。


空気が重くなる。


ざわめきが広がり、群衆の中から小さな声が漏れた。


「……どうして、声がない?」


「神が……我らを見放されたのか?」


不安が波紋のように広がっていく。

やがて叫び声がそれを裂いた。


「試練だ! 我らは試されている!」


「いや、これは呪いだ!」


人々は押し合い、前列が崩れ、悲鳴が上がった。子どもが泣き叫び、老人が倒れる。


広場全体が混乱の渦に巻き込まれていった。


セラはその中で、カナの姿を見失った。


「カナ!」


必死に人垣をかき分ける。


腕にぶつかり、背中を押され、転びそうになりながらも、ただ一人を探した。


やがて、人混みの中で、小さな身体が押し流され、倒れ込む瞬間を見た。


「カナ!」


セラは駆け寄り、その身に覆いかぶさるように抱きしめた。


妹の震える体温が、彼女の胸に伝わる。


──守らなければ。


この子だけは、必ず。


耳元で、神殿の高台から響く声が広場を支配した。


「これは神の試練! 恐れるな、疑うな! 神を試す者は、厳罰に処す!」


神官の怒号が、群衆をさらに震え上がらせる。


誰もが息を殺し、沈黙の中で怯え、ただ地に額をこすりつけるしかなかった。


セラは妹を抱いたまま、震える群衆を見渡した。


──これは本当に神の御心なのか。


胸の奥に、鋭い疑念が芽生えていた。

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