娘の身体になった父親の未来

庵ノ雲

父娘

秋風が冷たく頬を撫でる日だった。


私は坂本雄一郎(さかもと ゆういちろう)、50歳。


地方銀行の東京支店長という肩書きを持つサラリーマンだ。

エリートとは思ってないが、悪くはない社会的地位だろう。


その日、仕事が終わった私は愛車のプリウスに乗り込み、

娘を迎えに行くことにした。


23歳で新卒で働きだした一人娘の美咲(みさき)が今夜は会食があり、

遅くなると聞いていたからだ。


「駅まで迎えに行こうか?」


LINEメッセージに返信があったのは数分後のことだった。


「パパありがとう! 22時に駅に着くから宜しくね!」


その後、美咲を助手席に乗せ自宅へと道路を走っていると

突然目の前が眩しい光で覆われた。


トラックだ。


逆走してきた大型トラックが私の方へ猛スピードで突っ込んできたのだ。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆


目を開けると白い天井が広がっていた。

消毒薬の匂いが鼻につく。ここは病院なのか?


「先生!意識が戻ったようです!」


若い看護師さんの声が聞こえた。


「よかった……」


中年の医者が私の顔を覗き込む。


「あなたのお名前言えますか?」


「私は……坂本雄一郎……です」


喉が渇いているのか声が出しづらかったが何とか答えた。


「ご家族について覚えていますか?」


「あぁ……妻と一人娘の美咲がいるはずです……

 そうだっ! あの子はどうなりましたっ‼?」


医者は少し間を置いて言った。


「残念ですがお嬢さんは脳死と診断されてました」


最初は理解出来なかった。


しかし言葉の持つ意味が頭に染み入っていくにつれ、

足元が崩れたような喪失感に覆われた。


「美咲が脳死……? どうして……そんな……」


その時だった。突然体中に電気が走るような感覚が襲ってきた。


「ぐっ……」


「落ち着いて下さい」と看護師さんが言う。

「まだあなたの身体は完全ではありませんので無理は禁物ですよ」


「俺は今どうなってるんだ……?」


医者は私の目を見て静かに告げる。


「脳だけは奇跡的に無傷でしたが、それ以外は酷い状態です」


「正直申し上げますと……普通なら助からないほどの大怪我でした」


「脳だけって……でも、私は生きてるじゃないか……?」


医者は深いため息をついてから説明を始めた。

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