第36話『和食ギルド会議!食で世界を変える指針を示せ!』



翌日――。

ギルド本部の奥、普段は都市防衛や迷宮調査の会議に使われる重厚な会議室に、俺たちは集められていた。


大きな楕円形の机には、にすけを中心にフィリーネ、リリナ、クロフィード、ドリス、そして町娘姿の女神までずらり。

さらにギルドマスター・グラディオンと数人の職員、鍛冶屋衆の代表まで顔を揃えている。


「……ったく、飯屋の親父がこんな立派な会議室に座る日が来るとはな」

にすけは腕を組み、椅子に深く腰掛けた。


「でもにすけ、もう“飯屋の親父”じゃないのよ。和食ギルドのマスターなんだから!」

女神が胸を張って宣言する。


「ふんっ、ギルドマスターって言えば私の隣の席がふさわしいのに!」

フィリーネが顔を赤くして噛みつけば、すぐに女神と火花を散らす。


リリナはもふもふ尻尾をばふんばふん振りながら、「リリナは看板娘長なの!」とにこにこ。

クロフィードは仮面越しに鋭い視線を光らせ、ドリスは机に酒樽を置いて「まずは乾杯からじゃろ!」と笑う。


そんな騒がしい空気を、グラディオンの豪快な咳払いが切り裂いた。

「静まれ! これは遊びではない! 和食ギルドがどう立ち、何を担うか――その方針を決める会議だ!」


重苦しい空気が流れ、全員の視線がにすけに集まる。


にすけはゆっくりと息を吸い、口を開いた。

「……よし、じゃあ始めるか。“和食ギルド”が何をして、何をしねぇか――ここで腹を割って決めようじゃねぇか」




にすけは全員を見回し、机の上に拳をコツンと置いた。

「まず言っとくがな……和食ギルドは傭兵団でもなけりゃ、政争の道具でもねぇ。やることはシンプルだ」


全員が息を呑む中、にすけは指を三本立てた。


「一つ、和食を学びたい奴らに指導する」

「指導?」と職員の一人が首をかしげる。


「そうだ。仕込み、火加減、出汁の取り方……腹だけじゃなく心まで満たす飯を作れる奴を育てるんだ。剣の流派があるように、和食にも流派を残していく。泣かせて笑わせる“飯の弟子”をな」


その言葉に、鍛冶屋衆が「ほう……弟子制度か」と興味深そうに頷いた。


「二つ、冒険者支援だ」

にすけの声が一段と低くなる。

「遠征に出る奴らに、心と体を整える飯を出す。戦場じゃ武器より、時に一杯の味噌汁の方が生死を分けるんだ」


冒険者たちがざわつき始める。

「確かに……あの肉じゃがで救われた夜を忘れねぇ」

「和食ギルドの食堂……あったら最高だな」


「そして三つ目――研究と革新だ」

にすけの目がぎらりと光った。

「迷宮には未知の食材がごろごろ転がってる。殻虫も飛竜も雷鳥も……俺が調理法を探り当てたように、新しい“飯の未来”を切り拓く。それが和食ギルドの使命だ」


沈黙が広間を包み、やがて誰かがぽつりと呟いた。

「……飯の未来、か」


にすけは指を下ろし、肩をすくめて言い放った。

「それ以外のことはやらねぇ。戦闘代行もしねぇし、政治に首突っ込む気もねぇ。ただ一つ――“飯で泣かせる”ことに全力を尽くす。それが和食ギルドの立ち位置だ」



女神がうっとりと目を潤ませる。

「やっぱり……私の選んだ男は違うわね! はぁ、尊い……!」


「また自画自賛かい!」

フィリーネが机を叩いて真っ赤になり、再び二人の間で火花が散った。





にすけがギルドの理念を語り終えた瞬間、脳裏に鐘の音のような響きが広がった。

味覚の絶対領域がざわめき、視界に金色の揺らめきが浮かぶ。


――《累計経験値:330000 到達》

――《新たなる選択肢、解放可能》


にすけはぎょっとし、思わず拳を握った。

「……来やがったな」


仲間たちがざわつく。

リリナは尻尾をふくらませ、フィリーネは鋭い視線を送る。

クロフィードはただ黙って見守り、ドリスは面白そうに酒を煽った。


再び脳内にアナウンスが響く。


《提示:330000経験値の使用先》

1.変幻自在鍋・極(きわみ)

 最大十器具を同時操作。火力・冷却・圧力を完全制御。

 ただし消費魔力は常人致死量。

2.和食ギルド基盤強化

 ギルド全体の士気・集客効果+大。

 弟子育成効率、冒険者支援効果の永続上昇。

3.禁断の献立開放

 異界の調理法にアクセス。酒造、発酵、熟成など高度工程が再現可能。

 ただしリスクは不明。

4.暖簾分けシステム

 弟子や認定料理人が“にすけ流”の看板を掲げ独立可能。

 店舗数が増えるほど、和食文化の拡大と資金流入が期待できる。

5.和文化継承システム

 和食だけでなく、剣術・茶道・書道・俳句など、にすけが培った日本文化を体系的に伝承。

 弟子や冒険者たちが「和の精神」を学ぶことで士気・結束力上昇。



にすけは頭を押さえて低くつぶやいた。

「……五つもかよ。どれも馬鹿みてぇにでけぇ選択肢だな」


女神は両手を組み、うっとりと微笑む。

「やっぱり……あなたは選ばれた存在。文化をも背負う器、私が見込んだ通りよ!」


「また自画自賛かい!」

フィリーネが机を叩いて叫ぶ。


リリナは瞳をきらきらさせながら両手を広げた。

「リリナ、暖簾分けいいと思うの! 弟子がいっぱい増えたら、リリナも全国で食べ放題できるの!」


クロフィードは仮面の奥で静かに頷いた。

「……和文化継承。料理だけではなく、精神をも伝えるか……まさに国を築く在り方だ」


ドリスは酒を掲げ、豪快に笑った。

「ぬははは! 禁断の献立とやらも気になるが……まずは唐揚げの支部を全国に作ってくれぃ!」


ギルドマスター・グラディオンも腕を組み、真剣な声を上げた。

「和食ギルドは都市を変える。だが“何を選ぶか”で未来は変わるぞ、にすけ!」


にすけは深いため息をつき、机に拳を置いた。

「……腹ァ決めねぇとな。どの道、後戻りはできねぇ」


会議室は言葉を失い、張り詰めた静寂に包まれた。






――脳内アナウンスが続く。


《各選択肢、消費経験値:100000》

《累計経験値:330000》

《最大三つまで取得可能》


「……なにっ! 三つだと!?」

にすけは思わず机を叩いた。


リリナが尻尾をばふんばふん揺らしながら、飛び上がる。

「すごいの! リリナ、ぜんぶ食べたい! 三つも選べるなんて夢みたい!」


フィリーネは真剣な眼差しで指を突き出す。

「なら、まず“和食ギルド基盤強化”は必須でしょ! ギルドがぐらついたら何も始まらないんだから!」


女神は両手を合わせてうっとり微笑む。

「わたしは“和文化継承”を推すわ。料理だけじゃなく、にすけの魂そのものを伝えていけるもの!」


クロフィードは腕を組み、低く呟いた。

「……俺は“暖簾分けシステム”だな。弟子を独立させ、和食の旗を広げる……影の国づくりに等しい」


ドリスは大声で笑い、酒樽を叩いた。

「ぬははは! ワシは“禁断の献立開放”が見てみたいのう! 酒も発酵も新しい道が拓けるぞ!」


「いやいや待て待て、鍋の強化もあるだろ!」

にすけは額を押さえ、心底困ったように呻いた。

「“変幻自在鍋・極”があれば、一気に仕込みが楽になる……宴の準備だって10倍速だ」


ギルドマスター・グラディオンが腕を組み、重々しく言った。

「どれも未来を変える力だ。三つしか選べんのなら、慎重に選べ。にすけ、お前の決断次第で――この都市の明日が決まるぞ」


会議室は熱気に包まれ、全員の視線がにすけに注がれる。

にすけは大きく息を吐き、にやりと笑った。


「……三つ、か。こいつは悩ましいが……楽しくなってきやがったな。

......だが、答えを出すのは俺たちの“和食ギルド”全員で自力での全力を尽くした後だ。スキルに頼るのは簡単だがそれに依存しちまうのは良くねぇ。だからそれまでは温存する」


静まり返った室内で――女神がぽつりと呟く。


「はぁ……やっぱり、にすけってすごい。力に甘えず、自分の手で道を切り拓くなんて……だから私、あなたを選んだのね」


その瞳は尊敬と憧れに満ち、胸に手を当てる仕草もまるで祈りのようだった。


「ちょ、ちょっと! 何よそのうっとりした目は!」

フィリーネが机をばんっと叩き、耳まで真っ赤にして立ち上がる。

「尊敬とか憧れとか言ってるけど! 一番隣で支えてきたのは私なんだから! 勘違いしないでよね!」


女神はふふんと微笑み返す。

「でも実際に“選んだ”のは私よ?」

「そ、それは……っ! ズルい言い方しないでよ!」


再びばちばちと火花を散らす二人。

リリナは「リリナはにすけ大好きだから両方でもいいの!」と無邪気に叫び、クロフィードは仮面の下で静かに笑い、ドリスは「ぬははは! 副ギルマス争いでまた宴ができるのぅ!」と酒をあおった。


にすけは大きくため息をつき、ぼやいた。

「……和食ギルド、立ち上げ前から胃もたれしそうだな......」



「副ギルマスは私!」

「いいえ、この私よ!」


フィリーネと女神の言い争いはますますヒートアップし、机の上には今にも火花が見えるほど。

リリナは「どっちもでいいの!」と必死に手を振り、ドリスは「よーし賭けじゃ! どっちが副ギルマスになるか酒の肴じゃ!」と大はしゃぎ。

クロフィードは腕を組み、仮面の奥で「……結束より分裂が先に来るとは」とぼそり。


その騒がしさを、ギルドマスター・グラディオンの豪快な咳払いがぶった切った。

「ごほんッ!!」


全員がピタリと止まる。


「副ギルマスの件は後回しだ!」

机をドンと叩き、豪声で言い放つ。

「今詰めるべきは“和食ギルドとしての初仕事”だ! ここで方向性を決めねば形だけの看板になっちまう!」


フィリーネも女神も「むむむ……」と口を尖らせながらも、渋々座り直す。

リリナは「初仕事ってなにするの!?」と尻尾をばふんばふん。

ドリスは「試食会じゃろ! 宴じゃ宴!」と勝手に盛り上がる。


にすけは腕を組み、深く息をついて呟いた。

「……ったく。副ギルマス騒動は置いといて、まずは腹を決めねぇとな。和食ギルドの一歩目……さて、何をやるかだ」


会議室の空気が、再び張り詰めていった。


だがそんな張り詰めた空気の中――


ぐぅぅぅぅ~~~~……。


会議室に響き渡る見事な音。

全員の視線が一斉にそちらへ向く。


「……あっ」

頬を赤らめてうつむいたのは、ギルドマスター・グラディオン本人だった。


「い、いや違う! これはだな……腹の虫の反乱であって……!」

必死に言い訳する巨体に、職員たちは肩を震わせ、仲間たちは笑いをこらえきれずに吹き出した。


にすけは大きく息を吐き、椅子から立ち上がる。

「……ずばり、決まったな」


全員が首を傾げる。

にすけは口元ににやりと笑みを浮かべて宣言した。


「和食ギルドの初仕事――まずは腹ごしらえだ。ギルド会議は“和食のあとで”だな」(ドヤ顔)


「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」


会議室に大歓声が巻き起こる。

リリナは「やったー! リリナ、ごはん大好き!」と尻尾をぶんぶん。

フィリーネは「……ま、まぁ確かに空腹じゃまともな議論もできないわよね」と顔を赤らめる。

女神はうっとりと手を合わせ、「にすけの提案、やっぱり完璧だわ……!」と恍惚。

クロフィードは低く呟く。「……飢えを断ち、和を築く。これぞ真の初陣か」

ドリスは大笑い。「ぬはは! 結局宴に落ち着くのか! 上等じゃ!」


こうして和食ギルド初仕事は――“満腹”にする事から始めることとなったのであった。



次話へ続く――。
















◆あとがき◆


にすけ

「はぁ……結局、“和食ギルド会議”の初仕事は腹ごしらえか。まぁ、空腹じゃ頭も回らねぇし、それで正解だろうな」


フィリーネ

「……ま、まぁアンタらしいわね。でも! 副ギルマスは私だから! そこだけは譲らないんだから!」


女神(町娘姿)

「ふふっ、何を言ってるの? 副ギルマスはこの私よ。にすけの隣にふさわしいのは彼を選んだ存在――つまり私!」


リリナ

「リリナはごはん食べられれば満足なの! 副ギルマスとかより、おにぎり食べ放題がいいのー!」


クロフィード

「……和食ギルド。己の思惑と理想が交錯する、混沌の幕開けだな」


ドリス

「ぬははは! どうせ宴になるのじゃ、難しい話は飯のあとでええ! それが和食ギルドじゃろ!」


ギルドマスター・グラディオン

「……しかし、腹の虫に負けて会議が中断するとはな。はっはっは! これもまた“和食の力”か!」


にすけ

「いや、ギルマス……それただの空腹だろ」


女神(町娘姿)

「次回――“会議よりも大事な献立表決定戦”!? にすけ、私に一番美味しい料理を食べさせなさいよね!」


フィリーネ

「ちょっと! アンタだけ特別扱いなんてさせないんだから!」


全員

「次回も波乱必至! 和食ギルド、胃袋から世界を変える!!」

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