第24話『稲穂の試練――竜の誇りと和食の答え』



朝日が昇る。

黄金の稲穂は露を纏い、まるで宝石の海原のようにきらめいていた。


俺は思わず息をのむ。これが異世界の米――いや、間違いなく“米になりうる”奇跡の穀物だ。


「さて……収穫といくか」

腰を下ろし、稲の束に手を伸ばした瞬間――


――《警告。亜空間収納の容量が限界に近づいています》

――《これ以上の採集は困難です》


脳内に響いたアラートに、思わず顔をしかめる。


「……ちっ。やっぱり来やがったか」

ここまでに手に入れた魔物肉に素材たち、さらに飛竜の肉や甲殻……思えば詰め込みすぎていた。

このままでは稲を収める余地はない。


と言っても全く後悔はしてないがな。

だってそうだろ?あれ程の肉と素材を手にする事が出来たんだ、文句言ったらバチが当たるってもんだ。


なあ、そうだろ?守護竜ヴァルドラさんよ――



【回想シーン】


あの戦いのあと――

俺たちは、ヴァルドラとその眷属だった飛竜四体を並べ、ひたすら解体に取り掛かった。


竜の巨体は、一体ごとに小さな山のような質量。

だが、可食部は驚くほど少ない。


厚い鱗と筋肉、硬化した骨格に守られて、口にできるのはほんのわずか――せいぜい一体につき十から二十キロほど。

マグロで言えば大トロに近い、希少な部位だけだ。


見た目はA5ランクの和牛にも似た見事な肉質だ。

こりゃ誰が食っても驚く味だぜ。

まあ、これは街に帰ってからのお楽しみにいまは寝かせてるがな。


和泉一文字を振るうたび、骨を断つ音が草原に響く。


「……なるほどな。これが“竜の恵み”ってわけか」


だが、肉以外の価値も計り知れなかった。


鱗は金属以上の硬度を持ち、防具の最高素材。

角は魔力の伝導率が高く、杖や装飾品に加工される。

爪と牙は鋭さを誇り、武具の刃へと転じるだろう。

翼膜は薄く柔軟だが強靭で、軽装防具や魔導器の触媒に使える。

そして、一枚しかない逆鱗は竜の魔力そのものを封じ込めた極上素材。


「……やっぱり、“食う”以外にも活かし方は無限だな」

俺は一つひとつを丁寧に切り分け、血抜きと洗浄を徹底して収納していった。


血の匂いと鉄の響きに包まれた時間。

それでも、和食職人としての手は止まらない。

美食と武具、両方の未来を見据えながら――竜の遺骸を無駄なく、すべて活かすと心に誓った。


【回想シーンおわり】





フィリーネが稲穂を一束手に取り、俺に突きつけるように言った。

「ねぇ、アンタ。まさかとは思うけど、持ち帰れないとか言わないでしょうね?」


「その“まさか”だ」

俺は肩をすくめ、額に手を当てる。

「このままじゃ容量オーバーで稲が入らねぇ。……どうするか、だな」


リリナはもふもふの尻尾をバフッと膨らませ、半泣き顔。

「やだやだ! リリナ、おいしいごはん食べたい! ぜったい持って帰りたい!」


クロフィードは腕を組み、淡々と呟く。

「ふむ……収納の限界。ならば選択肢は一つのみ。貴殿のスキル、亜空間収納のさらなる進化を推奨する」


その言葉に俺は頷いた。

「……そうだな。ここでケチってたら一生後悔する。なら――」


――《条件達成。経験値一万消費で【亜空間収納グレードアップ】を解放可能です》

取得しますか? はい/いいえ


光の文字が視界に浮かび、俺の心臓が高鳴った。

これを選ぶか、あるいは……。


「よし、決めた」

俺は深く息を吸い込み、黄金の稲穂を見据えた。

「ここでグレードアップだ。未来の美食のためにな!」


焚き火の残り香を背に、指先を光に伸ばす。

新たなスキルが、俺の手に――。




――《スキル【亜空間収納】が【亜空間収納・改】へ進化しました》

――《容量2000kg/冷蔵・冷凍・熟成機能追加/時間経過を任意調整可能(停止/1/2〜1/20/加速)》

――《生体以外は収納可能》

――《累計経験値25000》


アナウンスの最後に「加速」という言葉が流れた瞬間、俺の心臓が跳ねた。


「……なるほどな。保存は遅く、熟成は速く。好きに選べるってわけか」

思わず声が震える。これは和食職人として、最高の夢を叶える権能だ。


「えっ、時間の経過を……?」フィリーネが眉をひそめる。

「つまり、保存だけじゃなくて……熟成まで好きなように操れるってこと?」


「そういうこった」俺は拳を握る。

「味噌も醤油も、普通なら年単位の時間がかかる。だがこれなら、意図した期間を一気に進められる。旨味の極致……短期間で再現可能だ」


リリナがもふもふの尻尾を振り回しながら、ぴょんと跳ねた。

「すごい! すごい! リリナのオヤツも熟成させたらおいしくなるかな!?」


「オヤツまで熟成しないでちょうだい!」と、フィリーネ。


クロフィードは外套の奥で薄く笑う。

「……恐るべき機能よ。保存・冷却・熟成……人族なら研究機関を丸ごと作ってでも手に入れたい代物ぞ」


俺は稲穂に手をかけ、深く頷いた。

「いいか、これで米も、味噌も、醤油も、未来永劫に守り育てられる。和食の魂はここからだ」


黄金の稲が、さらさらと風に揺れた。

その一束一束が、新たな物語の始まりを告げているように思えた。



亜空間収納を進化させ、再び稲穂収穫に意識を向けると――


――《スキル:稲穂処理を使用しますか?》


脳内に淡々としたアナウンスが流れた瞬間、俺は思わず眉をひそめた。


「……いや、待て。最初の時はスルーしちまったけど“稲穂処理”ってなんだよ。

 せっかくのスキルが、まるで事務仕事じゃあないか」


そう呟き、味覚の絶対領域に問いかける。

「なぁ……スキル名って、俺が命名できたりするのか?」


――《可。スキル名は使用者の意志で改名可能》


「よしきた!じゃあ……これからは...そうだな――《裂磨一閃れつまいっせん》だ!」


風を裂き、稲を裂き、そして磨き上げ白米に昇華する。

我ながら最高にカッコいいじゃあねえか。


だが、その瞬間。


「ぷっ、……ダサッ!」

フィリーネが眉をひそめ、容赦なく切り捨てた。


「に、にすけぇ〜……そのう...ネーミングセンスが……」

リリナが尻尾をしゅんとさせながらも苦笑い。


「フフ……戦場の剣技かと思えば、稲刈りスキル。

 いや、その落差が秀逸であるな」

クロフィードは外套の奥で肩を震わせ笑っている。


俺は少しムキになり、和泉一文字を構えた。

「くっ、好き勝手に言いやがって!おまえら全員あとで泣かすからな!――《裂磨一閃》!」


黄金の稲穂が風に揺れる。

一閃、また一閃。

稲は刈り裂かれ、瞬時に磨かれ、眩い白米となって俺の手に舞い落ちた。


「……おお」

息をのむ仲間たち。

白米は雪のように白く、宝石のように輝いていた。


「さて……稲刈り無双の始まりだ」

俺はにやりと笑い、亜空間収納へと米を収めていった。



――稲刈りの刃が風を切り、黄金の穂が白き米へと姿を変えていく。

俺の亜空間収納は容量も拡張され、裂磨一閃の名で輝きを放ち始めた。


その様子を、ドリスはずっと黙って見ていた。

黒髪を揺らし、ぎゅっと拳を握り、尻尾をパタパタと叩きつけるように動かして――


「……ム、ムリじゃあああああッ!!」


とうとう爆発した。


「なんじゃその反則スキルは!?

 容量二千だの冷蔵冷凍だの、なに贅沢しとるんじゃ!

 しかも稲が、稲が勝手にピカピカの白米になっとるじゃと!?

 ワシ、竜として五百年生きてきたがこんなの初めてじゃああ!!」


ドリスは地団駄を踏み、頬を赤くして叫ぶ。


「ずるい!ずるいずるい!

 人間のくせに!和食のくせに!なんでこんなカッコいいんじゃああ!」


リリナは尻尾を膨らませて笑い転げ、フィリーネはこめかみを押さえてため息をつき、クロフィードは外套の奥で肩を震わせていた。


「……おいおいドリス、落ち着けよ」

俺は汗をかきつつも、白米を手のひらに見せてやる。


「これから炊き立てを食わせてやるんだ。泣くのはまだ早いぜ」


「……ぐ、ぐぬぬぬぬ!」

ドリスは唇を噛み、しかし目は白米から離せなかった。




「さあて……朝食の時間だ」


俺は腰を落ち着け、木札を取り出した。

墨を含ませた筆を走らせる。

達筆無双で献立を記す。


――本日のおしながき――

・炊き立て白米

・味噌汁(イカと香草/三味一体出汁)

・雷鳥のねぎま焼き(塩・タレ)


最後にすっと筆を止め、サインのように「煮介」と書き添える。


「……できた」

木札を掲げると、フィリーネが眉をひそめた。


「な、なんでただの献立なのに……こんなに格調高いのよ……!

 ……ず、ずるいわよアンタ」


彼女はぷいと横を向くが、耳が真っ赤に染まっている。


リリナは椀をのぞき込み、尻尾をふわんふわんと振りながら声をあげた。

「わぁああ! ごはんピカピカ! スープいい匂い! 焼き鳥もキラキラ!

 リリナ、おなかぺこぺこだよ!」


クロフィードは外套の奥で腕を組み、低く唸る。

「……白き米に、雷鳥の香ばしい脂。

 そしてイカの旨味が織りなす三味一体の出汁……。

 これが、王国を滅ぼす力を持つ和食か……」


ドリスは椀を前にして、両手を小刻みに震わせていた。

「く、くくく……ワシは竜ぞ? こんな……こんな人間の飯で震えるわけ……ぐぬぬぬ!」


「はいはい、抵抗はそこまでな」

俺は笑って、炊き立ての白米をよそった。

「さあ――いただきます、だ」



まずは炊き立ての白米。

湯気が立ちのぼり、つやつやの粒が光を反射している。


フィリーネが箸を手に取り、一粒、二粒と口へ。

途端に目が見開かれ、次の瞬間、彼女は耳まで真っ赤にして叫んだ。

「な、なによこれ……っ! ただの米なのに……甘い!? ふわっと香ばしくて……口の中でほどける……っ!

 べ、別に感動なんかしてないけども!

な、なんでこんなにもおいしいのよ...!」


リリナは両手で茶碗を抱え、ぱくっと頬張る。

尻尾がブワッと広がり、目に涙が滲む。

「んんんーーーっ! リリナ、いま……しあわせすぎる……!

 お米さんって……やさしい味……」

小さな口いっぱいにほおばり、顔をぐしゃぐしゃにして泣き笑った。


クロフィードは黙って白米をひと口。

咀嚼の間に外套の影が揺れ、低い吐息が漏れる。

「……白き穀物よ。貴様はただの炭水化物にあらず。

 これは……戦士の心を鎮め、同時に奮い立たせる……奇跡そのもの...」


わずかに震える声に、仲間全員が思わず視線を向けた。


最後にドリス。

木椀を持ち上げ、白米を凝視していたが……ついに口へ。

噛んだ瞬間、竜の瞳が揺らぎ、頬を涙が伝った。

「……くっ、なんじゃこれは……!

 甘露、極楽、至福、楽園……語彙が足らんのじゃあッ!

 ワシの誇りが……竜の矜持が……白米一杯に揺らぐなどッ!!」

地団駄を踏みながらも、次の一口を止められない。


俺は笑って、次の味噌汁をよそい始めた。

「よし……次は三味一体の出汁だ。

 米で泣いてる場合じゃあねえぞ?」


俺は土鍋から味噌汁をよそい、雷鳥のねぎま串を炭火から取り上げる。

醤油が焦げる際に放つ香ばしい香りと、鳥肉が滴らせる脂の匂いが混ざり合い、辺りを満たす。


「さあ、第二ラウンドだ。米と合わせて味わってみろ」


フィリーネが渋々と椀を取り、味噌汁を口に含む。

「……っ!? な、なによこれ……! 香りが深すぎる……イカの旨味と昆布と鰹の余韻が……舌の奥で複雑に絡んでゆく……」


彼女はごくんと飲み干し、慌ててねぎま串を一口かじった。

「ぱくっ、(じゅわっ……!) な、なんで……なんで鳥肉ってこんなに……っ!」

耳まで真っ赤になり、ぷいっと横を向きながら呟く。

「べ、別に……この鶏肉の肉汁にちょっと驚いただけって言うか...もぐもぐゴクっ、うんま!しあわせ!っていやそうじゃなくて、アンタの料理で幸せになんかなってないんだからねっ!」


「くくく、そりゃどうもありがとよ。最高の褒め言葉だぜ」


「べ、別にほめてない!///」

そう言いながら顔を真っ赤にして目線を逸らす。


(やっとこのツンデレの扱い方がわかってきたぜ...!)


ふとリリナを見やるとすさまじい勢いで口へ運んでいた。

両手で串を持ってがぶりと齧り、白米を頬張り、すぐに味噌汁を流し込む。


「はふっ……んんっ……! おにく香ばしくてやわらかい! ごはんに合う!みそしる、あったかい! リリナ……リリナ、幸せすぎてどうしよう……!」


尻尾がバフバフと暴れ回り、ついには椀を抱きしめて涙をぼろぼろ流した。


クロフィードは静かに目を閉じ、味噌汁を一口。

「……深淵のような滋味……これほどの層を持つ汁があったとは知らなんだ......」


ねぎまをゆっくり噛み、低く唸る。

「肉の旨味が、醤油と共に大地に還る……これが……和食哲学か」


ドリスは白米、みそ汁、ねぎま串を交互にがつがつ。

「ずるい! ずるいずるいずるい!

 なんでこんな旨いものを人間が作れるんじゃ!

 ワシは竜ぞ!? 竜が涙流しながら焼き鳥食っとるとか……威厳はどこいったんじゃぁぁあああ...!!」


顔を真っ赤にし、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながらも食べ続けていた。


俺はにやりと笑い、茶碗を掲げる。

「米、醤油、焼き鳥――三位一体の和食バフコンボだ。

 泣こうが笑おうが、これが“最強”の一膳だぜ」




その瞬間――


――《経験値+4500》

――《累計経験値:29500》


続いて、脳内に響く絶対領域の声。


――《発動:和食無双バフ・白米雷鳥ねぎま味噌汁コンボ》

――《効果:全ステータス+20%、持久力+50%、魔力/魔力回復速度+30%》

――《持続時間:48時間》


……一瞬、俺の心臓が止まった。

全員の強化幅が、常識外れすぎる。


フィリーネは椀を持ったまま目を剥き、

「……は? 全ステ20パー……っ!? な、なんでバフにまで無双するのよアンタの料理は!」


リリナは涙を拭きながら跳ね上がった。

「わぁぁぁ! リリナ、めっちゃつよくなった! おなかいっぱいで元気モリモリっ!」

尻尾がボフボフ膨らみ、椀を抱きしめてスキップしそうな勢い。


クロフィードは低く笑い、

「……常識を易々と踏み越える。料理が兵法を凌駕するとは……フフ、背筋が震える」

拳を握りしめ、その力を確かめるように微かに震えていた。


そしてドリス。

「なっ……!? 魔力が、体中に巡って……止まらぬッ!

 いやじゃ、いやじゃ、ワシは竜ぞ! 人間の飯ごときで……ッ!

 ……くぅぅぅ、もう一杯!!」


俺は茶碗を掲げ、ドヤ顔で言い放った。

「泣くのは――和食のあとで、だな」


俺はこいつらのリアクションに大いに満足した。




次話へ続く――。











〜あとがき〜



フィリーネ「……まさか本当に飛竜まで倒して、炊き立て白米まで完成させるなんてね。アンタ、どこまでやる気なのよ」


リリナ「リリナ、まだ夢みたい……もふもふしながら白ごはん食べて、焼き鳥も食べて、幸せすぎてお腹も心もぷくぷく〜!」


クロフィード「……兵站、補給、戦術。そのすべてを和食一つでひっくり返す男……観察すればするほど震えるな」


ドリス「ふんっ、ワシを駄々っ子扱いするとは何事じゃ! ……でも、あの白い米と焼き鳥、もう忘れられん……ぐぬぬ!」


にすけ「おいおい、竜まで駄々こねるなっての。まあ、飯は一緒に食った方がうまいけどな」


――その瞬間。

空気が澄み渡り、金色の粒子が降り注ぐ。

まるで星の雫が舞うように、女神アリュ・エインが姿を現した。


女神「……人の世に、神秘と祝福を――」


フィリーネ「なっ、まぶしい……!?」

リリナ「きらきらだ〜!」

クロフィード「……神威、か」

ドリス「な、なんじゃこの気配は……!」


女神「……って、ちょっと! なんでまた私抜きで白米デビューしてんのよ!? しかもバフまでとんでも効果!? ずるいずるいずるいー!!」


フィリーネ「……あー、結局そっちね」

リリナ「女神さまも、ごはん欲しいの?」

ドリス「ふはは、神すら米にひれ伏すのか! よきかな!」


女神「だまれ竜っ! 私だって食べたいのよっ! 次は絶対、私も混ぜてもらうんだからねっ!!」


にすけ「はいはい、今度はちゃんと分けるから落ち着け」



次回予告


女神「次回――

第25話『第二層再び!蒼麦確保戦線 ―和食無双は止まらない―』


そこで待ち受けるものとは一体......!?

……まぁ、でもどうせ最後は、またアンタの料理で全部持ってかれるんでしょ!?

次こそは私も食べてやるんだからーっ!!」

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