第15話『迷宮帰還と大宴会!笑顔と眠りと醤油の夢』


殻虫クイーンが絶叫とともに崩れ落ち、広間に静寂が戻った。

俺は一息つき、和泉一文字を納める。


「……よし、ここからが本番だ」


子殻虫十四体とクイーン本体。

解体用の刃を抜き、血抜きと内臓の処理を淡々と進めていく。


甲殻は硬く、脚の関節を断つときは骨を割る鈍い音が響いた。

だが手際よく下処理を終えると、肉も甲殻も光沢を帯びた“素材”へと変わる。


俺は亜空間収納を開き、次々に格納していった。


――ズシン、ズシン。


そのたびに脳裏へと重みが伝わるようで、容量が目に見えるように削られていく。


五百キロの上限は目前。

ぎりぎりで全て収めたが、余白はほとんど残されていなかった。


「……危ねえな。便利だが、容量制限はシビアだ」


 


そして蒼麦の群生地。

青白く光る穂が風に揺れている。

手を伸ばせばいくらでも刈り取れるが――


「今回は必要分だけだな」


袋に収めたのは醤油仕込みに足りる量のみ。

残りは“次の楽しみ”と心にしまい、俺たちは地上への道を歩き出した。


 


帰還の道のりは、緊張から解放されたぶん、妙に軽やかだった。


リリナは尻尾を揺らしながら「おなかすいた〜」を連発し、

フィリーネは「アンタ、顔に疲れが出てるわよ」と呆れながらも俺に水を渡す。


クロフィードは外套を揺らしつつ、一歩後ろから無言でついてくる。


階段を上り、一層を抜け、最後の扉を押し開けた瞬間――

眩しい夕陽が俺たちを迎えた。


「……帰ってきたな」


胸の奥がじんと熱くなる。

迷宮の冷たい空気から解放され、オレンジ色の街並みが広がっていた。


ラザニアの鐘が鳴り、行き交う人々のざわめきが耳に戻ってくる。

戦いの余韻と、街の日常の音が、奇妙に心を落ち着けた。


 


俺は振り返り、仲間たちへと告げる。

「帰還祝いに、今夜は――宴だ!」


フィリーネは「まったく、アンタって人は……」と呆れ顔をし、

リリナは両手を上げて「やったー!」と跳びはねた。

クロフィードは外套の奥で、ふっと笑みを洩らした。


迷宮帰還の夕暮れ。

俺たちの物語は、焚き火の宴へと続いていく。




―ギルドの重たい扉を押し開けると、夕刻の空気とは打って変わり、中は冒険者たちの熱気で満ちていた。

俺たちが持ち帰った荷はすでに亜空間収納の中。

受付嬢に声をかけ、換金手続きを始める。


 


「……こ、これは……殻虫の甲殻、それも十四体分!? さらに……ク、クイーンの甲殻まで……!」


査定員が思わず声を上げ、ギルド内の視線が一斉にこちらへと集まった。


テーブルに並べられた甲殻は鈍い光を放ち、整えられた断面は美しく滑らか。

異臭ひとつ漂わず、まるで宝石の原石のようだ。


「嫌な匂いが……まったくしない……。

下処理が完璧だ……いや、A級素材として扱えるぞ!」


周囲の冒険者たちがどよめき、ざわめきが広がる。


 


「通常なら殻虫一体で銀貨二枚程度……だが、ここまでの品質なら……銀貨十枚は出せる!」


「十四体で……銀貨百四十枚!」

「さらにクイーンの甲殻は……金貨二枚の価値がある!」


金貨二枚という言葉に、ギルド全体がざわついた。

普通の冒険者が持ち込めば、その五分の一にもならない。

目の前の料理人の手から生まれた差は、歴然だった。


 


「に、煮介殿……この肉も……ぜひギルドで買い取りたいのですが……!」

査定員が恐る恐る言葉を繋ぐ。


俺は首を横に振り、きっぱりと答えた。

「悪いが、それは無理だ。

こいつはただの肉じゃねぇ。……俺にとっては未来の食材なんでな」


「……っ!」


一瞬で静まり返った空気の中、冒険者たちのざわめきが再び大きく膨らんでいった。


「未来の食材……?」

「なんだあいつ……ただの料理人じゃねえぞ」

「武具職人も顔負けだ……!」


 


俺は銀貨と金貨を受け取り、背を向ける。

「――さあ、宴の準備だ」


仲間たちの顔が笑みであふれた。

ギルドのざわめきはまだ止まらない。


俺たちが歩み去るその背中は数十の視線を釘付けにしていた――。




ギルドでの換金を終え、俺たちは訓練所へ向かった。

広々とした石畳の広場に焚き火を組み、鉄串と網を用意する。

炭火に火が灯ると、ぱちぱちと音が響き、宴の幕開けを告げた。



「さて……今回の迷宮探索で手に入れた素材を並べてみるか」


俺は亜空間収納から食材を取り出し、ずらりと並べていく。


「今日の戦利品だな。……殻虫か...... いや、もう面倒だから“イカ”でいいや」


「イカぁ?」

フィリーネが怪訝な顔をしたが、鼻先はしっかりひくひく動いている。

「……まぁ、確かに焼いた時の匂いは……その、悪くはないわ。だからって別に食べたいとか言ってるわけじゃないんだから!」


リリナは尻尾をばふんと膨らませて飛び跳ねた。

「イカ! イカ! にすけのイカごはんだぁ!」

もふもふが焚き火の光に踊る。


クロフィードは腕を組み、外套の奥からじっと観察している。

「人族の料理とは……素材の呼び名すら自在に変えるのか。面白い」


 


まずは下処理。

新鮮な脚を切り分けながら、心で問いかける。


――《生食適正あり。低温処理で寄生性リスクなし》


「よし、カルパッチョいけるな。

あとのメニューはアレとコレとアイツだな」


俺は墨と筆を取り出し、木札に向かう。

呼吸を整え、筆を走らせた。


――すらり、すらり。


おしながき

・イカのカルパッチョ風

・イカ串焼き(擬似味噌ダレ)

・シャドウビーンズ甘煮

・クイーンステーキ


 


フィリーネが木札を見て小さく息を呑む。

「……なんで、こんなに字まで綺麗なのよ」

頬がわずかに赤らんでいるのを、焚き火のせいにはできない。


リリナは尻尾をばふばふ振りながら目を輝かせた。

「にすけの字、かっこいいー! ごはんの字、お腹すいちゃう!」


クロフィードは外套の奥からぼそりと呟いた。

「……この男の美学、剣にも料理にも字にも通ずるのか。やはり尋常ではないな......」




料理を並べて満足げに頷いた俺だったが――ふと額を叩いた。

「おっと……肝心なのを忘れてたな」


「え?」

フィリーネが眉を上げる。


「スープだよ。宴に汁物がないなんて、和食じゃ締まらねぇ」


 


亜空間収納から取り出した乾燥昆布と鰹節を鍋に入れる。

清らかな水を張り、焚き火の上へ。


じっくりと温度を上げ、昆布がふわりと開いたところで引き上げる。

そこに鰹節をひと掴み。


ふわぁぁ……っと、香りが夜空へ舞い上がった。

削り節が踊り、黄金色の液体がゆらりと輝き始める。


「……っ、くっ、反則よ、!この澄んだ匂い……」

フィリーネが鼻先をひくつかせ、思わず息を呑む。


リリナは尻尾をばたばたと振り回し、目を潤ませている。

「おだし……! あったかくて、やさしい匂い……!」


 


さらにイカの身を細かく刻み、出汁へと落とす。

瞬く間に海の旨味が溶け込み、黄金のスープは完成した。


「よし……黄金スープの完成だ」


木椀によそい、一口すする。

昆布の深み、鰹の香り、そしてイカの甘みが三位一体となり、身体の芯を揺らす。


「……あぁ、これだ。この世界に、ようやく出汁が息をした」


 


俺は木札に筆を走らせ、最後に一行を追加した。


おしながき

・イカのカルパッチョ風

・イカ串焼き(擬似味噌ダレ)

・シャドウビーンズ甘煮

・クイーンステーキ

・黄金スープ(昆布×鰹×イカ)


 


「ちょ、ちょっと……なんで最後にさらっとそんなの作るのよ……!」

フィリーネの頬は赤く、声はわずかに震えていた。


「にすけ! スープー! リリナ、もう飲みたいっ!」

尻尾をふわふわ揺らすリリナに、クロフィードが低く笑う。


「……なるほど、これが“黄金スープ”か。名に恥じぬ輝きだ」


 


焚き火を囲む四人の視線は、湯気の立つ黄金スープへと集まっていた。



俺は木札を掲げ、にやりと笑った。

「さぁ、迷宮帰還祝いだ。和食屋台”にすけ屋”《特別宴会》、開店だ!」




俺はまず、生食用に選んだ“イカ”の身を手に取った。

白く透き通るその身を、薄刃の包丁で丁寧に引く。


――すぅ……すぅ……。


包丁が滑るたび、断面が鏡のように輝き、瑞々しい光を放つ。


筋の走る部分はあらかじめ削ぎ落とし、歯触りを均一に。

まるで絹を裁つような感覚に、手が自然と研ぎ澄まされていく。


薄切りの身を木皿に扇のように並べ、仕上げに異世界の香草を細かく刻んで散らす。


塩をぱらり、そして甘味料をほんのひとつまみ。

最後に香草油を薄く回しかけると、淡い緑の光沢が全体を包んだ。


「よし、一品目……カルパッチョ風だ」


 


湯気の立つ鍋を囲んでいた三人の視線が、一斉に皿へ注がれる。

俺は切り身をひときれ、リリナの皿に置いた。


「いただきますっ!」

彼女はぱくりと頬張り――


「……っ!!」


瞳が大きく開き、頬がふわりと赤くなる。

もふもふの尻尾が勢いよくばふんと広がった。


「すごい……やわらかいのに、しゃきしゃきしてて……お口でとけちゃう……! にすけぇ、これ……しあわせっ!」


 


次にフィリーネ。

腕を組み、わざとらしく鼻で笑いながらも、指先は震えていた。

「べ、別に……ちょっと味見するだけなんだから」


口に含んだ瞬間、長い耳がぴんと跳ね、表情が一瞬で崩れる。

「……っ!? な、なにこれ……なに、この繊細さ……。

舌の上でほどけて、香草がふわって……! くっ……悔しいけど……美味しいっ!」


 


クロフィードは静かに一枚を箸で摘み、口に運ぶ。

目を閉じ、長く息を吐いた。

「……静謐。王の舌をもってしても、これは認めざるを得ん。

柔らかさと香りの余韻が……剣の一太刀に似ている」


 


最後に俺もひときれ。

噛んだ瞬間、身の甘みが舌に広がり、塩と香草がそれを押し上げる。

和食の流儀を異世界素材に移植できた確信に、胸が熱くなる。


 


そのとき――


―《新食体験を成立させました 経験値+500》

――《累計経験値:6210》


脳内に響いた女神ボイス。

仲間たちの感動がそのまま経験値へと変換されていく。


俺は皿を見つめ、にやりと笑った。

「さあ、一品目からこの破壊力だ。……次は串焼き行くぞ!」



カルパッチョの余韻が残る中、俺は火の上に鉄串を並べた。

「次は……熱で旨みを引き出す番だ」


厚めに切ったイカの身を串に刺し、擬似味噌ダレをたっぷりと塗り込む。


甘味料の照りと豆の深みが合わさり、焚き火の赤に照らされて黄金色に輝く。


炭火にかざすと、


――ジュワァァッ!


脂が滴り、炭に落ちて煙が立つ。

甘辛い香りが一気に広がり、訓練所全体を揺らすようだった。


「……っ」

フィリーネが思わずごくりと喉を鳴らす。

「べ、別に……期待なんてしてないんだから……!」

耳の先は真っ赤に染まっていた。


リリナは尻尾をぶんぶん振り回して跳ねている。

「はやくー! 焦げちゃうー! リリナの分は一番にー!」


クロフィードは静かに目を細め、煙を吸い込む。

「……この香り……人族の祭礼に似た熱気だな。いや、それ以上だ」


 


焼き上がった串をそれぞれに手渡す。

一口かじった瞬間――


 


フィリーネは瞳を潤ませ、息を呑んだ。

「な、なにこれ……外は香ばしいのに、中はぷりぷりして……タレが絡むと……もう……っ!」

慌てて耳を押さえ、顔を背ける。

「……ちょ、ちょっと! 見ないで!」


リリナはもう両目をとろんとさせ、頬をいっぱいに膨らませながら尻尾をばふばふ振っている。

「おいしいぃぃ……! もぐもぐ……幸せすぎて……泣いちゃう……!」


クロフィードは一口ごとに低く唸り、ついには小さく笑った。

「……甘み、香ばしさ、肉厚の食感。……王の晩餐にも並ぶ。だが、これは“庶民の贅沢”として完成している」


 


俺もひと口。

甘辛い味噌ダレが舌に絡み、イカの旨みを何倍にも引き立てる。

思わず、心の底からの笑いが漏れた。


 


――《新料理完成 経験値+800》

――《累計経験値:7010》


 


脳内アナウンスが響き渡る。

フィリーネは顔を真っ赤にしながら、串を握りしめて言った。

「……まったく……アンタの料理、ずるすぎるんだから!」


リリナはもう一串をねだり、クロフィードは外套の奥で静かに舌打ちのような笑みを洩らす。


俺は串を掲げ、次を告げた。

「さて……次は甘煮と、メインのステーキだ」




三品目:シャドウビーンズ甘煮


炭火の横に小鍋を置き、黒豆――シャドウビーンズを水に浸して火にかける。

甘味料を加え、じっくりと煮含めていくと、硬かった豆はふっくらと膨らみ、艶やかに黒光りし始めた。


「ほら、しょっぱいもの続きの中休めだ」

木椀を差し出すと、リリナはぱくりと頬張った。


「んっ……! あまぁい……すっごく香ばしいよぉおお……やさしい味……」

尻尾がとろけるようにふわふわ揺れる。


フィリーネは一粒だけ摘み、恐る恐る口に入れる。

「……んっ!? なにこれ……豆って、こんなに奥深い味があったの……?

……っ、ちょっと……泣きそうなんだけど」

彼女は慌てて袖で目尻を拭い、耳まで真っ赤になった。


クロフィードは黙々と食べ、一息つく。

「……これは街の日常では味わえぬ。だが日常に寄り添う甘みでもある……不思議に心を鎮める力がある」


――《経験値+400》

――《累計経験値:7410》


 


四品目:クイーンステーキ


次に取り出したのは、殻虫クイーンの巨大な肉塊。

厚切りにして鉄板へ落とす。


――ジュウウウゥゥッ!


肉汁が迸り、白く美しい肉が瞬く間に香ばしく変化する。

塩と香草で整えるだけ。素材の旨みを最大限に引き出すのは、和食の真骨頂だ。


「いただきます……!」

フィリーネがひと口かじった瞬間、両目が大きく見開かれる。

「な、なんて柔らかさ……! それに、重厚なのにくどくない……! これ……これが……っ」

言葉を失い、ただ胸を押さえた。


リリナは口いっぱいに肉をほおばり、涙をぼろぼろ流す。

「うぅ……しあわせ……リリナ、こんなお肉食べたことない……」


クロフィードは長く咀嚼し、低く唸る。

「……強靭な肉。だが弱点を突いて処理すればここまで昇華するか。……なんと恐ろしい男よ」


俺も噛み締め、心の奥で頷く。

「これで……迷宮の王を超える料理も夢じゃねぇな」


――《経験値+1000》

――《累計経験値:8410》


 


五品目:黄金スープ


最後に、昆布と鰹節、そして刻んだイカを合わせた黄金スープを振る舞う。

湯気が立ち上り、柔らかな香りが全員を包み込む。


「っ……はぁ……沁みる……」

フィリーネが木椀を抱きしめ、目を閉じる。

「戦いの疲れが……一気に溶けていく気がするわ……」


リリナは両手で椀を持ち、ずずっと音を立てて飲む。

「おいしいっ! あったかい! お腹だけじゃなくて……こころも満たされる気がする!」

尻尾がぱふぱふと、音を立てそうな勢いで揺れる。


クロフィードは長く沈黙し、やがてひとこと。

「……これを口にした時点で、誰もが兵ではなく“人”に戻る。……これが料理の力か」


――《経験値+700》

――《累計経験値:9110》


 


炎に照らされる三人の笑顔を見て、俺は深く息を吐いた。

「……よし。これで今夜の宴は完成だ」


だが、その香りはすでに訓練所の外まで届いていた。

次第にざわめきが大きくなり、影がぞろぞろと近づいてくる。


「……にすけ。これ、なんか……集まってきてない?」

フィリーネが背後を指差す。


扉の前には、数十人の冒険者と職員。

目を輝かせ、涎を垂らしそうな顔でこちらを見つめていた。


「……ふっ、始まったな」

俺は木札を掲げ、にやりと笑った。


「迷宮帰還祝い、臨時屋台特別営業、開店だ!」





――訓練所の扉が開いた瞬間、雪崩れ込むように冒険者や職員が押し寄せてきた。

その数、およそ五十人。目は血走り、鼻をひくつかせ、まるで獲物を前にした獣のようだった。


「なんだこの香りは……!」

「嗅ぐだけで酒が欲しくなる……!」

「俺にも一口、頼む! 金なら払う!」


ざわめきが爆発し、焚き火の熱気が一層強まる。


 


「に、にすけ……! これ……どうするのよ……!」

フィリーネは慌てて耳を赤くしながら俺の袖を掴んだ。


「落ち着け。料理は人を集める力を持ってる。これは……歓迎すべき騒ぎだ」

俺は串をさらに用意し、鍋を火にかけ直す。


リリナは尻尾をばふばふと大きく膨らませ、目をきらきら輝かせている。

「お客さんいっぱい! リリナ、お皿配るの手伝うー!」


クロフィードは外套の奥から人々を見下ろし、小さく笑った。

「……これが人族の熱狂か。戦場よりも騒がしい」


 


俺は声を張り上げる。

「よし、順番にだ! 一人一人に行き渡るようにする! 味わいつくせよ!」


香草を散らしたカルパッチョ、甘辛ダレの串焼き、黒豆の甘煮、クイーンステーキ、黄金スープ。

次々と手渡され、人々の口へ消えていく。


 


「う、うまいっ!」

「涙が……止まらねぇ……!」

「俺の剣より、このスープの方が強い気がする……!」


歓声と笑い声が訓練所を揺らし、酒樽まで持ち込まれて小さな宴会場と化した。


フィリーネは真っ赤な顔で腕を組みながらも、どこか誇らしげに人々の反応を見ていた。


「……べ、別にアンタの料理が誇らしいとか、そういうんじゃないんだから……!」


リリナはお盆を抱えて右へ左へ走り回り、尻尾をばふばふ揺らしながら大忙し。

「はいどうぞー! おいしいからゆっくり食べてねー!」


クロフィードは壁際で腕を組み、外套の奥から低く呟いた。

「……なるほど。人の心を掌握するとは、こういうことを言うのか。勉強になる......」


 


夜が更けるにつれ、訓練所は笑いと歓声に包まれた。

イカの香ばしい匂い、スープの湯気、甘煮の優しい香りが渦を巻き、宴は終わる気配を見せない。


 


――《大量提供により経験値+3000》

――《累計経験値:12110》


 


俺は串を掲げ、笑った。

「さぁ……迷宮帰還の宴だ! 食って飲んで、笑え!」


炎と笑顔に包まれる夜。

だが、誰も知らない。

この宴の香りが、やがて都市ラザニア全体を揺るがす“和食革命”の火種になることを――。




笑い声と炎の揺らぎに包まれた宴も、やがて終わりを告げる。

皿は空になり、酒樽は傾き、訓練所には満腹で転がる冒険者たちの寝息が広がっていた。


俺たち四人も焚き火のそばに腰を下ろす。

火の残り香に混じって、まだイカの香ばしい匂いが漂っている。


「……はぁ、今日だけでどれだけ笑ったかしら」

フィリーネは頬杖をつき、赤くなった耳を隠すように髪を揺らした。


「リリナ、しあわせいっぱい……おなかも、ここ(胸)も……ぽかぽか……」

幼い声と、ふわふわ揺れる尻尾が心地よい子守唄のように響く。


クロフィードは外套の奥で目を閉じ、低く呟いた。

「……この夜の熱は、戦の勝利にも似ている。だが、これは心の勝利とも言える」


俺は夜空を見上げ、微笑んだ。

「そうだな……。だが本番は、これからだ。まだ“醤油”が眠ってる」


 


瞼が重くなり、意識が遠のいていく。

笑顔と満腹感に包まれたまま、俺たちは深い眠りへと落ちた。


 


──夢の中で、湯気の向こうに黒豆と蒼麦の影が揺れていた。

それは、次なる“醤油仕込み”の夜明けを予感させる幻影のようだった。


 


こうして迷宮帰還の宴は幕を閉じた。

だが――眠りの向こうには、醤油の夢が確かに待っていたのだ。









〜あとがき〜


――訓練所、宴の余韻の中で。

まだ炭火とイカの香りが漂う中、あとがき座談会が始まった。



フィリーネ「ほんっと、アンタのせいでギルドが大騒ぎよ! あれじゃ和食じゃなくて暴動でしょ!」


にすけ「ははっ、“香りは千里を走る”って言葉があるだろ? まぁ、思ったより千里まで届いたみたいだな」


リリナ「リリナね、お皿いっぱい運んだの! お客さんが“もう一杯!”って叫ぶたびに尻尾ふわふわして、楽しかったぁ!」


クロフィード「……人族の熱狂、恐ろしいものだ。戦場の鬨の声にも似ている。だがこれは、飯に降った勝利の雨だな」


フィリーネ「何カッコつけてんのよ! アンタだって結局、しれっと食べてたじゃない」


クロフィード「ぐぬっ……否定はせぬ。イカ串焼きは……王の晩餐に比肩する味だった」


にすけ「へへ、そう言われりゃ本望だ」


 


――そこへ、ふわりと光が舞い降りた。


女神アリュ・エイン「ちょっと、ちょっとちょっとぉ! 私が与えた“味覚の絶対領域”でここまで大騒ぎするなんて……聞いてないんですけどぉ!」


フィリーネ「なっ、だ、誰よアンタ!? 急に光るとか反則でしょ!」


リリナ「わぁぁ……きれい……! もふもふしたくなる光〜!」


クロフィード(外套の奥で小声)「……女神、か。なるほど、噂に違わぬ奔放さだ」


女神アリュ・エイン「ちょっとクロフィード、聞こえてるわよ! それににすけ! “和食の戦略兵器”とか言われてるけど、そんなつもりじゃなかったんだからね!?」


にすけ「へいへい。俺にとっちゃ兵器じゃなくて、腹を満たして笑顔にするのが目的なんでな」


女神アリュ・エイン「……うぅ、そういうとこズルいんだから……。あぁもう! 読者のみんな、こいつのこと見届けてやってよね!」


 


モブ冒険者たち「次回も食わせろォォォ!」

ギルド職員たち「常設出店を検討してくれぇぇ!」


 


全員+女神「次回もお楽しみにー!」

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