SCP-xxxx【“さらちゃん“と“はるくん“の日常】──Object Class:Archon

奏月

EP-001 さらちゃん

※本報告書は民間人にも一般公開されています。

現在まで重大な被害報告は確認されていませんが、本報告書の性質上、閲覧者に認識災害的影響が発生する可能性があります。


参照は各自の責任において行ってください。


SCP-xxxx【さらちゃんとはるくんの日常】Object Class:Archon


特別収容プロトコル:

現在、SCP-xxxxは、文字情報として記録されており、その性質上管理を必要としません。

財団の使命である確保、収容、保護にまつわる如何なる行動も、このオブジェクトに対して行われる事はありません。

また、この報告書を参照する財団職員は、各々の意思において、このオブジェクトに対する“感想”や“意見”、“指摘”、“罵倒”等のメッセージを付与する権限が与えられます。

この権限よって行われる全ての“投稿”は、その性質が如何なるものであっても、財団の使命及び理念に反するものではありません。


説明:


SCP-xxxxは、本報告書に付随する補遺内にのみ出現する「二名の人物」によって構成されます。

当該人物(“さらちゃん”、“はるくん”と呼称)は、報告書の補遺部分に繰り返し登場しますが、その実在性は確認されていません。

一般的な病院内で会話を行っているように見えますが、施設や疾患の有無など具体的な裏付けは存在しません。


また、以下の補遺が記された日時は不明であり、その意図も不明です。

僅かではありますがSCP-001についての言及がなされているため、本報告書を参照する財団職員は事前に“SCP-001“を参照しておくことが推奨されます。


━━━━━━━━━━━━━━━


・補遺01


僕はコミュ障だ。

どれくらいかっていうと、拗らせすぎてもう何年も言葉を発していないぐらい。


「──だよ。だから、001を一元的に定義付けることができなくて……」


……だったはずなのに、今はこんなにスラスラと言葉が出てくる。

蛇口が壊れてしまったように、止まらない。


「うん、うん、そうなんだあ!」


一息で話終えた僕に、さらちゃんが笑顔をくれる。

僕にはなんの取り柄もないし、他人に誇れる事なんてひとつもない。

だから、君がこんな風に接してくれるのが、僕には不可解でたまらないんだ。


「はるくんはSCPの話になると、人が違うみたいだね」


セミロングの黒髪を靡かせ、さらちゃんが微笑む。


僕はコミュ障だ。

でも、大好きなSCPの話の時だけ饒舌になる事に最近気付いた。


「話止めちゃってごめんね、続き聞きたいな」


……違う。

相手がさらちゃんだから、こうやって話ができるんだ。

僕は、頬が赤くなるのを誤魔化すために掛け布団をかぶった。


「はるくん、どうしたの?」


「……」


「はるくーん」


「……」


「あーあ、はるくんの話、もっと聞きたかったのになあ」


「……」


「はるくんはには色んな顔があるんだね」


色んな顔?


「うん、色んな顔がある」


さらちゃん、僕の顔は1つだよ。


「私はね、はるくんがいつも無表情だったから、はるくんの顔は1つだけだと思ってたんだ」


そうだ

僕はコミュ障だから感情を表に出すのが大の苦手なんだ。


「だけど違ったんだあ」


違わないよ。


「ううん、最初から違ってたんだ。はるくんがSCPを語る横顔……素敵だった」


素敵なんかじゃないよ。

胸の鼓動がうるさくなった。

頬の熱さが増す。


「興奮した表情や真面目な表情、少し悲しそうな表情。はるくんの中に私の知らない色んな世界や物語が詰まってるんだなあって……あ!」


さらちゃんの驚く声。

何かあったのかもという不安と、さらちゃんの表情を見たい、という気持ちが交錯する。

僕はゆっくりと掛け布団から顔を出した。


病室のカーテンの隙間から差し込む光がさらちゃんの髪を照らす。黒にも見えるし、茶色にも見えるし、白っぽくみえる瞬間もある。


僕の中にある、この気持ちはなんなんだろう。

安心感……ううん、違う気がする。

期待感……も、しっくりこない。


「……」


虚空を見上げ、妙に無表情。

彼女は今、何を考えているんだろう。

目が合った。

さらちゃんは少しだけ驚いた表情を見せ、何かを考えるような仕草をして……悪戯っぽく口角を上げた。

風に揺れた無数の木の葉が、彼女に艶やかな影を落としていく。

流れるのよう変化。

一瞬、彼女が遠い存在になったような気がした。


「!!」


彼女との距離が縮まった。

心臓が跳ねる。

さらちゃんの顔が僕に接近する。


「……」


時計の針の音と、僕の心音。

さらちゃんの腕が。

身体が。

目元、唇、頬が変わる、変わる。


「……まるで、SCP-001だね!」


さらちゃんが、にっこりと笑った。


━━━━━━━━━━━━━━━


20■■年■■月30日

サイト-866内において、本報告書をSCP-001の報告書と誤認してしまう、という多くの主張と、それを否定する少数の主張が挙がっています。

誤認派の主張は、十分な論理的整合性があり妥当なものです。

加えて、否定派の主張には論理性が乏しく、感情的な要素が含まれています。

職務中、個人的な感情を優先させる事は忌避されるべきです。

全ての財団職員は、その職責を全うする為に冷静な論理的思考が求められます。

また、誤認派の意見は、後日意見書としてO-5に提出する予定です。



20■■年■■月■■日

[サイト-866職員のものと思われる匿名メモ]


SCP-xxxxに対して、「確保」も「収容」もするつもりはないらしい。

何かを恐れているのか?

それとも何かを知っているのか?


━━━━━━━━━━━━━━━


補足:

① “我々”について。

20■■年11月28日

現在サイト-866内において、 “我々”をアノマリーとしてみなす動きが散見されます。

我々は、財団職員としての“誇り”と自身の“平穏”を天秤にかける必要に迫られています


②サブタイトル“さらちゃんとはるくんの日常”について。

20■■年11月05日

サイト-866内の職員から、「SCP-001の報告書と誤認してしまう為変更するべきだ」という主張が多数寄せられています。

しかし、本報告書のタイトルを見てわかる通り、SCP-001と誤認する可能性は低いと言わざるを得ません。

その為、本報告書そのものが認識災害を引き起こしている可能性があります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る