精霊の灯火(ともしび)

大濠泉

第1話 やっぱり、僕は〈精霊の加護持ち〉なんだ。行く先々で、そこを棲家にする精霊が助けてくれる……

 この国は精霊に満ちています。

 実際、森林や湖畔、洞窟の中といった、あまり人が触れていない自然があるところには、たいがい精霊が飛びっています。

 ですが、彼ら精霊の姿が実際に見えて、共に語らうことができる人間は多くありません。

 そんな希少能力を持つのが、僕、〈精霊の加護持ち〉なんです。


 テイマーが魔物を従えるのと同じで、私は子供の頃から精霊と会話ができました。

 精霊と友達だったんです。

 彼らはいつも僕を助けてくれます。

 森の中で魔物に囲まれた時も、隠れやすい岩場を教えてくれたり、魔物に見つからないように進める道を教えてくれたり、とにかく僕の安全を考えて誘導してくれるんです。


 僕を誘導してくれるとき、精霊彼らは、それぞれに固有の色ーー白や青、黄色など、様々な色に光り輝きます。

 精霊の灯火ともしびというやつです。

 僕のような〈精霊の加護持ち〉が闇の中で立ち往生すると、決まってどこからともなく精霊が現われ、灯火で行手を指し示してくれます。

 光に従って進めば、道に迷うこともありません。


 ですから僕は、深い森やダンジョンの奥といった、視界が極端に悪い場所に入るとき、冒険者たちからよく重宝がられたものでした。



 その日の仕事も、知人の冒険者から依頼されたものでした。


『ダンジョン奥深くに潜って、さらに先へ行こうとしたが、食糧が尽きてしまった。

 補給して欲しい』


 という依頼でした。


 とにかく、そのダンジョンは、第四階層が真っ暗なんだそうです。

 足下すら、見えません。

 光魔法ライトニングを使おうにも、四方の壁に魔法障壁が張り巡らされていて、ほとんど魔法が使えないそうです。


 幸い、第五階層にまで達すると、視界が開けた区域に入ることができます。

 ですから、知人の冒険者が率いるパーティーは、第五階層に拠点を築いて、より深く、第六、第七階層へと探索を続けようとしているのです。

 そんなときに、食糧不足を理由に、地表にまで戻りたくはありません。

 ですから僕に、食糧の補給と、調理等に使う燃料の補充などを依頼してきたのでした。


 僕に依頼してきたのは、当然、僕が〈精霊の加護持ち〉だからです。

 真っ暗闇の第四階層を、難なく突破できる人材として抜擢されたのでした。


 ですが、このダンジョンに入ったときから、僕の心に不安がよぎっていました。

 いつも僕の周りにまとわりついてくれる、馴染みの精霊の気配がなくなっていたからです。

 精霊の世界にも縄張りがあるようで、ダンジョンの深層部ともなると、普段の生活空域とは異なった精霊が住んでいるのでしょう。


 第一階層から第三階層までは明るい上に、光魔法が使えたので、なんの問題もありませんでした。

 ですが、石段を降りて第四階層に辿り着いた途端、周りの景色がハッキリと変わりました。

 それまでの石畳と石壁の世界が、すみで塗り潰したように真っ黒な世界に変貌したのです。

 試しに光魔法を使ってみましたが、一向に明るくなる気配がありません。

 最初のうちは壁に手をやりながら、ゆっくり進むしかありませんでした。


(それにしても、ほんとに真っ暗で、何も見えないな……)


 ちょっと心細くなったとき、ポワッと灯りが二つつきました。

 僕は胸を撫で下ろしました。


(やっぱり、僕は〈精霊の加護持ち〉なんだ。

 行く先々で、そこを棲家にする精霊が助けてくれる……)

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