第15話 影の剣聖と鍋蓋二刀流
王都の広場に人だかりができていた。
張り出された挑戦状には、大きな文字でこう記されている。
“異世界の勇者ユウトよ。我こそは影の剣聖。貴様の力、試させてもらう。”
騒然とする群衆の中で、俺は肩を落とした。
「……また俺、なんかやっちゃった?」
「ユウト様! これは重大です!」とリリア。
「影の剣聖は、かつて王国軍を一人で退けた伝説の剣士なんですよ!」
「そんなヤバいやつが、なんで俺なんかに……」
その夜、学院の訓練場に影の剣聖が現れた。
黒い外套を纏い、双剣を構えた姿は、まるで闇そのもの。
「来たか、勇者よ。己の力を見せてもらおう」
「いや、ちょっと待って。俺、剣なんて使えないんだけど」
「……ならば、どう戦う?」
俺は仕方なく、近くに置いてあった鍋蓋を両手に持ち上げた。
「……これで」
「な、鍋蓋二刀流!?」
観客の生徒たちがざわめく。
影の剣聖が一閃。
双剣が稲妻のように迫る――
「うわっ!? あっぶね!」
俺は反射的に鍋蓋を突き出す。
ガキィン! 鋼の刃が受け止められ、火花が散った。
「なに……!? 私の一撃を鍋蓋で止めただと……!」
さらに剣聖が畳みかける。左右上下、縦横無尽に斬撃が飛ぶ。
「やばいやばいやばい!」
必死に蓋を振り回す俺。
だが、不思議と全ての攻撃が鍋蓋に吸い寄せられるように防がれていく。
「す、すげえ……!」
「まるで伝説の二刀流剣士だ!」
観客の生徒たちが息を呑む。
当の俺は必死に叫んでいた。
「やめろって! 近い近い近い!」
最後に剣聖が渾身の突きを放つ。
俺は咄嗟に両方の蓋で挟み込み、ぐるんと相手の剣を弾き飛ばした。
カラン、と地面に剣が転がる。
「ば、馬鹿な……我が剣を完全に無力化するとは……!」
影の剣聖は膝をつき、深々と頭を下げた。
「勇者ユウト殿。ぜひ、この不肖の身を弟子にしてください!」
「……いやいやいやいや! 俺、鍋蓋しか持ってないんだけど!?」
「それこそが極意……庶民の道具をも武器に変える、その精神……まさに剣聖の資質!」
周囲から歓声が上がる。
「勇者様が剣聖を従えたぞ!」
「すごい! 寝ながら勝つだけじゃなく、今度は二刀流まで!」
リリアが小声でぼそり。
「ユウト様……また何かやっちゃいましたね」
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