第12話 ポチのくしゃみで軍勢壊滅!?
大討伐の勝利から数日後、王都に緊急の報せが届いた。
「魔王軍の斥候部隊が、王都近郊に布陣しました!」
「数は……千を超えるとのことです!」
広間に集められた貴族や将軍たちは青ざめ、騒然となる。
「千……!? 討伐帰りの兵も疲弊しているのに!」
「持ちこたえられるかどうか……」
俺は隅で小さく肩をすくめた。
「……いや、千とか無理でしょ。俺がどうこうできる規模じゃないって」
リリアが必死の顔で俺にすがりつく。
「ユウト様……どうか、皆に勇気を!」
「いや、勇気も何も……俺、勇者名乗ってるだけだし……」
そのとき、後ろで「グルゥゥ……」という低い唸り声。
振り返ると、黒鱗の巨体――古竜ポチが首をもたげていた。
「ポチ、お前まで来てたのか」
「クゥゥン」
鍋で餌付けして以来、ポチはどこへでもついて来るようになっていた。
周囲の兵士たちがざわつく。
「あ、あの竜……勇者様の従竜だ」
「これで千の軍勢とも渡り合えるのでは……」
「いやいや、ポチは戦闘要員じゃなくて、飯に釣られただけだから!」
翌朝。
王都の外郭に並んだ魔王軍の群勢が咆哮を上げた。
狼型の魔獣、ゴブリンの軍勢、黒い騎兵。大地が揺れ、空気が震える。
「くっ……数が多すぎる!」
「防衛線を張れ!」
兵士たちが慌ただしく布陣する。
俺はポチの横で、胃を押さえていた。
「いやマジでどうすんだこれ……」
そのとき。
ポチが鼻をひくつかせ、大きく頭を振った。
「……クシュンッ!!」
――ドゴォォォォォォン!!!
竜のくしゃみは暴風と衝撃波となり、魔王軍の前線をまとめて吹き飛ばした。
竜のくしゃみが炸裂した瞬間、地面はえぐれ、大気が唸り、魔王軍の前線は木の葉のように吹き飛んだ。
ゴブリンの群れは宙を舞い、騎兵ごと転がり、狼型の魔獣は悲鳴を上げて四散する。
「な、何だあれは!?」
「ひと吹きで数百が消し飛んだぞ!」
兵士たちが目を剥いて叫ぶ。
俺は両手で頭を抱えた。
「いやいやいや、ただのくしゃみだって! ポチが鼻ムズムズしただけだから!」
だが、ポチは止まらない。
「……クシュンッ! ……クシュンッ!」
そのたびに暴風と衝撃波が連鎖的に広がり、魔王軍の隊列はあっという間に瓦解した。
黒煙と土埃が舞い、あれほど威容を誇っていた軍勢は、十分も経たぬうちに壊滅状態となった。
兵士たちの間から歓声が爆発する。
「勝ったぞおおお!」
「勇者様と竜の力が、魔王軍を退けた!」
「救世主だ!」
リリアが感極まって俺の手を握る。
「ユウト様……やはりあなたは奇跡を呼ぶ勇者です!」
「いやいやいや、呼んでない! ポチがくしゃみしただけだから!」
「その竜を従えているのが、勇者様なのです!」
アイナでさえ腕を組み、呆れたように言う。
「……“誤認S”も、ここまで来ると誤認じゃなくて本物ですね」
「いやいやいや、誤認のままでいいから!」
熱狂する群衆、讃える声、英雄視する視線。
俺は肩を落とし、頭を抱えてつぶやいた。
「……また俺、何かやっちゃいました?」
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